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第一章 世界の果てに咲く花
蜂起 5
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「あれ、メルディス。久し振りね」
スパードと共に図書室にいた六の少女は、図書室にやって来たメルディスを見つけた。
所員達が六の少女に近付く事を禁じられてから、メルディスも六の少女に近付く事が出来なくなった。
こうやってメルディスと会うのは二週間ぶりになる。
今では六の少女は寮の部屋では無く、スパードの部屋で眠っている。その方が双方にとって安全であるとの判断のためでもある。
季節はすでに冬に入りつつある。
過ごしやすい季節のほとんどを六の少女は生死をさまよい、診療所で過ごす事になった。
怪我をしては診療所へ送られると言う事を繰り返していたため、それまでに数回研究機関の者が商品を見に来たらしいが、それは全て流れていた。
今となっては、この冬が今年の最後のチャンスである。
所長はその為に所員達を六の少女から遠ざけると言う、ある意味では消極的な行動までとったのだ。
そこへメルディスがやって来た。
「私も、もうすぐ終わりですね」
六の少女がそう言うと、スパードもメルディスも驚いていた。
「誰でもわかるでしょ? これまで視界にさえ入ってこなかったメルディスが、わざわざ声までかけに来たんですから。それって私を隔離する必要が無くなったって事でしょ? これまでの事から私にはギリギリまで教えないでしょうから、明日ですか?」
「さすがだな」
誤魔化す必要も無いとばかりに、スパードは六の少女に言う。
「じゃ、今夜は寮に戻れるんですか? 久し振りに皆にも会いたいし」
「今日は身請けの宴がある。食堂を開放して、皆と夜を過ごすが良い。ただし、大人しくしている事だ」
「そりゃ、私だって最期の夜くらい大人しくしてますよ」
心外だとばかりに、六の少女は表情を曇らせる。
しかし、スパードもメルディスも六の少女の答えに苦笑いしている。
二人共この六の少女が大人しくしているとは思っていない。それでもこれまでの様な張り詰めたモノは無く、悠然としている姿は嵐の前の静けさだと言う事もわかる。
「最期だなどとは思っていないのだろう」
スパードの言葉に、六の少女は肩をすくめる。
「最期の様なものだとは思ってますよ? ただ、最初から諦めるつもりは無いって言うだけです」
六の少女は笑いながら答える。
諦めるつもりが無い事は、今さら六の少女が宣言しなくても収容所の全員が知っている。彼女は徹底的に抗う者であり、諦めるという様な潔さは持ち合わせていない。
全ては抗う為に。
六の少女はその為に、自らの身を犠牲にしてきた。出来うる限り、収容所の亜人を助けてきたつもりだった。
もちろん助けられない命もあった。六の少女の計画の為、見殺しにしてきた者もいた。
「スパードさんを敵に回したくないから話しますけど」
「いや、話すな」
六の少女が話そうをするのを、スパードは遮る。
「知ってしまえば、俺は所長から尋ねられた時に答える義務がある。知らなければ、答えようが無いのだからな」
スパードはそう言うと、立ち上がる。
「今日は終わりにしよう。だが、最後まで騒ぎは起こすなよ。その時には、俺はお前達の最初の敵となる」
「分かってます。基本的にはどいつもこいつも皆殺しに出来ますけど、スパードさんに怪我でもさせたらメルディスから何されるか分かりませんからね」
「なっ! 何を言ってるの?」
顔を真っ赤にして、メルディスは慌てている。
「今さら何言ってるのよ。四番どころか、あの十二番だって言ってたわよ? もうバレバレなんだから、隠したって無駄無駄」
「はしゃぐのはまだ早いぞ。夜にはその時間が来るのだから、まずは義務を果たしに行くぞ。メルディス、準備の方は任せる」
スパードはそう言うと。六の少女を伴って所長室へ向かう。
六の少女の扱いが変わったとはいえ、図書室でスパードと過ごした時にはどの本を読んだのかを所長に報告する義務があるのは、変わっていない。
動く事にも苦労していた時には六の少女は杖を持つ事を許されていたが、杖が無くても立てる様になった時に奪われていた。
片足が木の杖である六の少女は、ただ歩くと言うだけでも常人より苦労しているはずだが、それを感じさせないどころか長身のスパードの歩調に合わせて歩いている。
六の少女は普通にやってのけるが、これが意外とツラい事を知っている者達は、これだけで六の少女の凄さが分かる。
「失礼します」
スパードは所長室の扉をノックして入ると、所長はいつもの様に机の上に軽く手を握り合わせた状態で待ち構えていた。
「明日の身請けの話は聞きましたか?」
相変わらず魂まで凍えさせる様な声だが、六の少女は以前ほど恐れていない。
打てる手は全て打った。後は能力勝負というところまで来ていると、六の少女は考えていた。
「これが本日の分です」
六の少女は金色の目を、真っ直ぐに所長に向ける。
「今日も随分と読んだものですね」
所長はそう言うと、六の少女から受け取ったメモを見て言う。
六の少女が記入したメモは、今日一日だけでもかなりの量だったが、これまでの分全てを見ると、あの大きな図書室の半分近くに目を通しているかと言うくらいのメモの量になっていた。
「役に立ちましたか?」
「まだ分かりません」
所長の言葉に、六の少女はあえて挑発的に答える。
(所長は長引かせるつもりはない。この冬、明日が今年最後の商談のはず)
六の少女としては、そこに確信を得たかった。
「私を挑発しても何も出ませんよ」
所長は六の少女の金色の瞳をまったく気にせず、さらりと流す。
「通例では、身請けの前日には亜人達で送らせるのですが、貴女にはそれが必要無いのではないかと思っています。どうでしょうか?」
「私個人の意見ではどうでも良いと思っていますが、そう言う事でご自身がお決めになった事を変えるのをお望みでは無いのでは?」
六の少女がそう答えると、所長は薄く笑う。
作り物の様な無表情だった所長が見せた表情は、六の少女に本能的な恐怖を感じさせた。
何か自分は大きな間違いをしているのではないか。目の前の男は、人間に見えるがそれは見た目だけの話で、まったく別の何かではないのか?
六の少女はその不安を飲み込む。
「良い答えです。では通例通りにしましょう。ですが、通例では騒ぎを起こす事は許していませんので、それは守らせます」
「はい。私は一言アイサツ出来れば、それで十分です。ほとんどは知らないわけですので」
六の少女がそう言うと、所長は小さく頷く。
「このメモですが」
所長は六の少女の読書記録を持ち上げる。
「役目を終えました」
そう言うと、所長の手の中にあった大量のメモは、一瞬で炎上して灰になる。
「明日の朝、迎えを行かせます。これ以上問題を起こす様な事がありましたら、私も寛容ではいられない事は知っておいて下さい」
所長の言葉に六の少女は頷く。
「では、明日会いましょう」
所長は手で払う様に六の少女を退室させ、スパードと明日の事を話し合っていた。
(ここまでは予想通り。アレを処分した事で私の計画を潰したと思っているのなら、私の勝ち。明日会う事はないわよ)
六の少女は所長室を出た時、そう考えていた。
スパードと共に図書室にいた六の少女は、図書室にやって来たメルディスを見つけた。
所員達が六の少女に近付く事を禁じられてから、メルディスも六の少女に近付く事が出来なくなった。
こうやってメルディスと会うのは二週間ぶりになる。
今では六の少女は寮の部屋では無く、スパードの部屋で眠っている。その方が双方にとって安全であるとの判断のためでもある。
季節はすでに冬に入りつつある。
過ごしやすい季節のほとんどを六の少女は生死をさまよい、診療所で過ごす事になった。
怪我をしては診療所へ送られると言う事を繰り返していたため、それまでに数回研究機関の者が商品を見に来たらしいが、それは全て流れていた。
今となっては、この冬が今年の最後のチャンスである。
所長はその為に所員達を六の少女から遠ざけると言う、ある意味では消極的な行動までとったのだ。
そこへメルディスがやって来た。
「私も、もうすぐ終わりですね」
六の少女がそう言うと、スパードもメルディスも驚いていた。
「誰でもわかるでしょ? これまで視界にさえ入ってこなかったメルディスが、わざわざ声までかけに来たんですから。それって私を隔離する必要が無くなったって事でしょ? これまでの事から私にはギリギリまで教えないでしょうから、明日ですか?」
「さすがだな」
誤魔化す必要も無いとばかりに、スパードは六の少女に言う。
「じゃ、今夜は寮に戻れるんですか? 久し振りに皆にも会いたいし」
「今日は身請けの宴がある。食堂を開放して、皆と夜を過ごすが良い。ただし、大人しくしている事だ」
「そりゃ、私だって最期の夜くらい大人しくしてますよ」
心外だとばかりに、六の少女は表情を曇らせる。
しかし、スパードもメルディスも六の少女の答えに苦笑いしている。
二人共この六の少女が大人しくしているとは思っていない。それでもこれまでの様な張り詰めたモノは無く、悠然としている姿は嵐の前の静けさだと言う事もわかる。
「最期だなどとは思っていないのだろう」
スパードの言葉に、六の少女は肩をすくめる。
「最期の様なものだとは思ってますよ? ただ、最初から諦めるつもりは無いって言うだけです」
六の少女は笑いながら答える。
諦めるつもりが無い事は、今さら六の少女が宣言しなくても収容所の全員が知っている。彼女は徹底的に抗う者であり、諦めるという様な潔さは持ち合わせていない。
全ては抗う為に。
六の少女はその為に、自らの身を犠牲にしてきた。出来うる限り、収容所の亜人を助けてきたつもりだった。
もちろん助けられない命もあった。六の少女の計画の為、見殺しにしてきた者もいた。
「スパードさんを敵に回したくないから話しますけど」
「いや、話すな」
六の少女が話そうをするのを、スパードは遮る。
「知ってしまえば、俺は所長から尋ねられた時に答える義務がある。知らなければ、答えようが無いのだからな」
スパードはそう言うと、立ち上がる。
「今日は終わりにしよう。だが、最後まで騒ぎは起こすなよ。その時には、俺はお前達の最初の敵となる」
「分かってます。基本的にはどいつもこいつも皆殺しに出来ますけど、スパードさんに怪我でもさせたらメルディスから何されるか分かりませんからね」
「なっ! 何を言ってるの?」
顔を真っ赤にして、メルディスは慌てている。
「今さら何言ってるのよ。四番どころか、あの十二番だって言ってたわよ? もうバレバレなんだから、隠したって無駄無駄」
「はしゃぐのはまだ早いぞ。夜にはその時間が来るのだから、まずは義務を果たしに行くぞ。メルディス、準備の方は任せる」
スパードはそう言うと。六の少女を伴って所長室へ向かう。
六の少女の扱いが変わったとはいえ、図書室でスパードと過ごした時にはどの本を読んだのかを所長に報告する義務があるのは、変わっていない。
動く事にも苦労していた時には六の少女は杖を持つ事を許されていたが、杖が無くても立てる様になった時に奪われていた。
片足が木の杖である六の少女は、ただ歩くと言うだけでも常人より苦労しているはずだが、それを感じさせないどころか長身のスパードの歩調に合わせて歩いている。
六の少女は普通にやってのけるが、これが意外とツラい事を知っている者達は、これだけで六の少女の凄さが分かる。
「失礼します」
スパードは所長室の扉をノックして入ると、所長はいつもの様に机の上に軽く手を握り合わせた状態で待ち構えていた。
「明日の身請けの話は聞きましたか?」
相変わらず魂まで凍えさせる様な声だが、六の少女は以前ほど恐れていない。
打てる手は全て打った。後は能力勝負というところまで来ていると、六の少女は考えていた。
「これが本日の分です」
六の少女は金色の目を、真っ直ぐに所長に向ける。
「今日も随分と読んだものですね」
所長はそう言うと、六の少女から受け取ったメモを見て言う。
六の少女が記入したメモは、今日一日だけでもかなりの量だったが、これまでの分全てを見ると、あの大きな図書室の半分近くに目を通しているかと言うくらいのメモの量になっていた。
「役に立ちましたか?」
「まだ分かりません」
所長の言葉に、六の少女はあえて挑発的に答える。
(所長は長引かせるつもりはない。この冬、明日が今年最後の商談のはず)
六の少女としては、そこに確信を得たかった。
「私を挑発しても何も出ませんよ」
所長は六の少女の金色の瞳をまったく気にせず、さらりと流す。
「通例では、身請けの前日には亜人達で送らせるのですが、貴女にはそれが必要無いのではないかと思っています。どうでしょうか?」
「私個人の意見ではどうでも良いと思っていますが、そう言う事でご自身がお決めになった事を変えるのをお望みでは無いのでは?」
六の少女がそう答えると、所長は薄く笑う。
作り物の様な無表情だった所長が見せた表情は、六の少女に本能的な恐怖を感じさせた。
何か自分は大きな間違いをしているのではないか。目の前の男は、人間に見えるがそれは見た目だけの話で、まったく別の何かではないのか?
六の少女はその不安を飲み込む。
「良い答えです。では通例通りにしましょう。ですが、通例では騒ぎを起こす事は許していませんので、それは守らせます」
「はい。私は一言アイサツ出来れば、それで十分です。ほとんどは知らないわけですので」
六の少女がそう言うと、所長は小さく頷く。
「このメモですが」
所長は六の少女の読書記録を持ち上げる。
「役目を終えました」
そう言うと、所長の手の中にあった大量のメモは、一瞬で炎上して灰になる。
「明日の朝、迎えを行かせます。これ以上問題を起こす様な事がありましたら、私も寛容ではいられない事は知っておいて下さい」
所長の言葉に六の少女は頷く。
「では、明日会いましょう」
所長は手で払う様に六の少女を退室させ、スパードと明日の事を話し合っていた。
(ここまでは予想通り。アレを処分した事で私の計画を潰したと思っているのなら、私の勝ち。明日会う事はないわよ)
六の少女は所長室を出た時、そう考えていた。
応援ありがとうございます!
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