4 / 92
4 アリエスの過去①
■
アリエスは元々カリウスとは別の男性と婚約する予定だった。
アリエスが五歳の頃、母親同士が親友で、将来自分たちの子供に男の子と女の子が生まれることがあれば結婚させようと約束していたのだ。
その約束通り子供同士を引き合わせるためにアリエスは母親から「婚約者と会うのよ」と言われていた。
小さい頃から貴族の令嬢としていやいやながらも教育を受けていたアリエスは、政略結婚というものを理解していた。
その為アリエスは親が決めた婚約者に対してしょうがないなという気持ちを持っていたが、それでも幼少期の段階から婚約は早いだろうと考えていた。
まだまだ遊び盛りの子供として、令嬢としての教育や婚約者との付き合いよりも、子供らしく楽しく遊びたいという気持ちの方が強かった。
だから逃げた。
子供の頃からまるで動物のように身体能力が高かったアリエスは三階の子供部屋から木を伝い、部屋から逃げ出していたのだ。
アリエスが逃げ出したことなど気付いてもいないアリエスの母親は、ウキウキと気分を高揚させながら子供部屋へと向かう。
だが扉の先には大人しく待っている筈のアリエスの姿はなかった。
ソファの下も、ベッドの下も、ぬいぐるみの下も、アリエスの母親は手をかけて探したのに見つけることが出来なかった。
どこに行ったのかと怒りもそうだが、それよりも娘を会わせることが出来なかったことに、せっかく来てくれた親友に対してアリエスの母親は頭を下げる。
「あの子は好奇心が少し旺盛なのよ……」
「それならしょうがないわね」
困ったように話したアリエスの母親に笑って許した親友の袖をくいくいと引っ張った親友の子供は、「散歩でも行っていいですか?」と尋ねていた。
アリエスの母親はもしかしたら町であの子と出会うことがあるかもしれないと閃き、どうぞどうぞと送り出す。
勿論一般的には子供の一人歩きは危ないといわれているが、アリエスの父であるウォータ家が納めるこの領地に関しては、犯罪など滅多に起きないし、子供が困っていたら周りの大人たちが手を差し伸べることが出来る非常に珍しい場所だったことから子供の一人歩きを簡単に許していたのだ。
町へと繰り出したユージン・デクロンは物珍しそうに見渡していた。
頭に被る帽子の下から見える範囲は少ないが、それでも自分たちの領地よりも自然豊かな土地に視線は右へ左へと移動する。
そして澄んだ空気を感じながらユージンは目を瞑った。
「あれ?初めましての子だね?」
自然を堪能していたユージンに女の子が話しかけた。
明るい茶髪の女の子は長い髪を一つに結い上げていたことから、とても活発そうな印象を与えた。
ユージンは話しかけてきた女の子に少しだけ警戒しながらも返事する。
「……うん、今日初めて来たんだ」
「そうなんだね!今日初めてなら私が町を案内するよ!」
純粋な笑みを浮かべた女の子にユージンは高鳴る心臓を誤魔化しながら、繋がれた女の子の手を振り払う。
「ちょっと待ってよ、名前も知らない人といけるわけがないだろ」
“知らない人にはついていかないこと”と町へと一人繰り出そうとしたユージンに、見送った母親であるデクロン夫人はしっかりと忠告していた。
ユージンはその忠告をしっかりと守り、例え自分と同じ子供でしかも女の子とはいえ、“知らない人”とは一緒にいけないと拒否する。
怪しい人物だと告げたことに女の子は怒るかもしれないと、ユージンは内心ドキドキと不安に感じていると女の子は「確かに」と納得し、ユージンに対して向き合った。
「私はアリエス・ウォータ。父はウォータ伯爵で怪しいものじゃないから安心して」
そして手を差し出すアリエスは、今度は無理にユージンの手を取ることはしなかった。
ユージンは名を名乗ったアリエスに「君が…」と呟くと、差し出された手を取る。
「僕はユージン・デクロン。母上にはユンって呼ばれてるから、君も好きなように呼んでいいよ」
これがアリエスとユージンの出会いだった。
アリエスは元々カリウスとは別の男性と婚約する予定だった。
アリエスが五歳の頃、母親同士が親友で、将来自分たちの子供に男の子と女の子が生まれることがあれば結婚させようと約束していたのだ。
その約束通り子供同士を引き合わせるためにアリエスは母親から「婚約者と会うのよ」と言われていた。
小さい頃から貴族の令嬢としていやいやながらも教育を受けていたアリエスは、政略結婚というものを理解していた。
その為アリエスは親が決めた婚約者に対してしょうがないなという気持ちを持っていたが、それでも幼少期の段階から婚約は早いだろうと考えていた。
まだまだ遊び盛りの子供として、令嬢としての教育や婚約者との付き合いよりも、子供らしく楽しく遊びたいという気持ちの方が強かった。
だから逃げた。
子供の頃からまるで動物のように身体能力が高かったアリエスは三階の子供部屋から木を伝い、部屋から逃げ出していたのだ。
アリエスが逃げ出したことなど気付いてもいないアリエスの母親は、ウキウキと気分を高揚させながら子供部屋へと向かう。
だが扉の先には大人しく待っている筈のアリエスの姿はなかった。
ソファの下も、ベッドの下も、ぬいぐるみの下も、アリエスの母親は手をかけて探したのに見つけることが出来なかった。
どこに行ったのかと怒りもそうだが、それよりも娘を会わせることが出来なかったことに、せっかく来てくれた親友に対してアリエスの母親は頭を下げる。
「あの子は好奇心が少し旺盛なのよ……」
「それならしょうがないわね」
困ったように話したアリエスの母親に笑って許した親友の袖をくいくいと引っ張った親友の子供は、「散歩でも行っていいですか?」と尋ねていた。
アリエスの母親はもしかしたら町であの子と出会うことがあるかもしれないと閃き、どうぞどうぞと送り出す。
勿論一般的には子供の一人歩きは危ないといわれているが、アリエスの父であるウォータ家が納めるこの領地に関しては、犯罪など滅多に起きないし、子供が困っていたら周りの大人たちが手を差し伸べることが出来る非常に珍しい場所だったことから子供の一人歩きを簡単に許していたのだ。
町へと繰り出したユージン・デクロンは物珍しそうに見渡していた。
頭に被る帽子の下から見える範囲は少ないが、それでも自分たちの領地よりも自然豊かな土地に視線は右へ左へと移動する。
そして澄んだ空気を感じながらユージンは目を瞑った。
「あれ?初めましての子だね?」
自然を堪能していたユージンに女の子が話しかけた。
明るい茶髪の女の子は長い髪を一つに結い上げていたことから、とても活発そうな印象を与えた。
ユージンは話しかけてきた女の子に少しだけ警戒しながらも返事する。
「……うん、今日初めて来たんだ」
「そうなんだね!今日初めてなら私が町を案内するよ!」
純粋な笑みを浮かべた女の子にユージンは高鳴る心臓を誤魔化しながら、繋がれた女の子の手を振り払う。
「ちょっと待ってよ、名前も知らない人といけるわけがないだろ」
“知らない人にはついていかないこと”と町へと一人繰り出そうとしたユージンに、見送った母親であるデクロン夫人はしっかりと忠告していた。
ユージンはその忠告をしっかりと守り、例え自分と同じ子供でしかも女の子とはいえ、“知らない人”とは一緒にいけないと拒否する。
怪しい人物だと告げたことに女の子は怒るかもしれないと、ユージンは内心ドキドキと不安に感じていると女の子は「確かに」と納得し、ユージンに対して向き合った。
「私はアリエス・ウォータ。父はウォータ伯爵で怪しいものじゃないから安心して」
そして手を差し出すアリエスは、今度は無理にユージンの手を取ることはしなかった。
ユージンは名を名乗ったアリエスに「君が…」と呟くと、差し出された手を取る。
「僕はユージン・デクロン。母上にはユンって呼ばれてるから、君も好きなように呼んでいいよ」
これがアリエスとユージンの出会いだった。
あなたにおすすめの小説
愛を選んだ夫と離縁しました。本物の聖女である私は娘と南国で暮らします
藤原遊
恋愛
夫である王太子は、愛する令嬢を「聖女」だと宣言しました。
世襲聖女として国を守り続けてきた私と、まだ幼い娘がいるにもかかわらず。
離縁を告げられた私は、静かに頷きます。
聖女の務めも、王妃の座も、もう十分です。
本物の聖女がいなくなった国がどうなるのか——
それは、私の知るところではありません。
娘を連れて南国へ移住した私は、二度と王都へ戻らないと決めました。
たとえ、今さら国が困り始めたとしても。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。