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第一話 サキュバス童貞を食う
第一話 サキュバス童貞を食う(2)
「ただいま~」
右腕にぐったりとした青年を抱えつつ、リカルドは器用に我が家の玄関のドアを開ける。
オンボロアパートのドアは驚くほど薄く、経年劣化で枠も歪み、開けるのに少しコツがいる。
ギイッと音を立てて開いたドアの先の暗い部屋の中からは返事はない。
玄関脇にある壁のスイッチを押して照明をつける。
明るくなった室内は壁の汚れのせいか何処か薄暗い。
ここ、二階建て木造アパート大倉荘、二階の角部屋、2DKの201号室がリカルドの家だ。
チラリと室内を見た青年がその美しい眉毛をわずかに顰める。
「……汚い…狭い……」
「助けてもらっといて文句言うなって。一応ちゃんと掃除はしてるぞ」
汚くて狭いのは重々承知なので特に気にした様子もなく、リカルドはスリッポンを脱ぐ。
青年もそれに倣って高そうな革靴を脱ぐ。
三和土の横には建付けの悪そうな木の靴箱、その向こうには二口コンロの使い込まれたキッチンがあり、正面にはあまりオシャレとは言えない古い木製の二人掛けのダイニングテーブルがある。
さらにその奥には左右二つの引き戸があり、右側がリカルドの自室兼寝室だ。
青年に肩を貸しつつ、部屋に入り、布団敷きっぱなしのベッドに彼を下ろす。
使い古されたベッドがギシりときしむ。
ベッドに腰掛けた金髪の青年は顔を上げると驚いた様子でキョロキョロと部屋の中を眺める。
リカルドは身に着けていた薄手のジャケットを脱ぎ、長押にかかったハンガーにそれをかける。
「ちょっとここで待ってろ。すぐ飯の支度してくるから。あ、しんどかったらベッドに横になってていいぞ」
「……おい、この部屋………」
そう言いかけてリカルドを見た青年の目が丸くなる。
「……なんだ、その胸の女は?」
「あ、これ?「まじかる☆くるくる」のももりん!俺の嫁だ!」
恐る恐る聞く青年に、リカルドは着ているTシャツを誇らしげに引っ張る。
ジャケットを脱いだ下には体のサイズに合っていないぴちぴちの青いチェックのシャツ、その間からはフワフワのピンクの髪をした大きな目の少女が覗いていた。
「も、ももりん?」
人形のようだった青年がハトが豆鉄砲食らったような表情になり、こういう顔してたら結構人間臭いなとリカルドは少しほっとする。
「え、お前「まじかる☆くるくる」のアニメ見たことねえの?!まだ未見だったら絶対見ろ!人生観変わるから!あ、よければここにブルーレイ全12巻があるから待ってる間見るか?」
急にテンション高く早口になったリカルドに唖然としつつ、再び青年は部屋を見渡す。
そこにはTシャツに描かれた同じピンクの髪をした少女の絵や人形が所狭しと並んでいる。
ピンク色が目に痛いし、全ての顔が笑みを浮かべてこちらを見ていて、とてもリラックスできる環境ではない。
「いや~、今日仕事で疲れたからさ、まじくるの27話「頑張れ!桃子から応援歌!」を見てももりんに癒してもらおうと思ってたんだ。この回のももりんマジ天使だから!あんたもももりん見たら元気になるかもよ?」
嬉しそうに部屋の端に置かれたテレビの方に向かうリカルドを青年が今までにない大きな声を出して制止する。
「いや、結構だ!反対に頭が痛くなりそうだ……」
青年が頭を抱えると、リカルドは残念そうに青年の元に戻ってくる。
「そうか?俺の元気の源なんだけどな~。まあ、今はとりあえず休んでた方がいいか」
「……はあ、これがアニメオタクと言う奴か……この私が緊急事態とはいえ、こんな男と……いや、しかし今は贅沢は…言ってられ…な……い…」
大声を出したせいか、青年がぱたりとベッドに横たわる。
心配になったリカルドはその顔を覗き込む。
「お、おい、大丈夫か?」
「……もう……魔力が……限界…だ……」
青年が息も絶え絶えに言うと、その体からブワッと風が巻き起こる。
その風にあおられ、リカルドはとっさに目をつぶる。
家の中で扇風機もないのどこから風が?!
風がおさまり、リカルドがゆっくり目を開くとそこには先ほどの顔面蒼白の弱弱しい青年の姿はなく、黒いボンテージファッションに身を包んだフワフワとしたウェーブのかかった金髪の美しい男がそこにいた。
男と分かったのは、その大胆に開いた胸元からまっ平どころか逞しい胸筋が見えたからだ。
その下には綺麗に割れた腹筋、さらにその下腹部にはショッキングピンクのハートの様な模様が描かれていて、引き締まった尻をローライズの小さな黒いショートパンツが包んでいる。
足元は同じく黒革のハイヒールのロングブーツを履いており、ショートパンツとの絶対領域からはハリのある美しい太ももがのぞく。
何より目を引たのはその背中のショッキングピンクの蝙蝠の様な羽と尻から生えている長いしっぽ。その先端は羽と同じショッキングピンクのハート形をしている。
そして頭にはヤギのような黒い大きな角が生えていた。
一言でいえばハロウィンで見る悪魔のコスプレ。しかもかなり際どい。
「ええ?!なに?!コスプレ?!どうやって変わったんだ?」
目を丸くするリカルドに彼が大きなため息を付く。
「はあ……まさか人間にこの姿をさらすことになるとは……私としたことがとんだ失態だ…。まあ、いい。魔力が回復したら消去魔法(デリート)で消せば問題はない……」
声からして先ほどの青年と同一人物なのは間違いない。
青年の変わりっぷりに驚きつつもリカルドがしげしげとその姿を見る。
オタクの祭典コミックマーケットでいろんなコスプレイヤーを見てきたがここまでクオリティの高いコスプレは見たことがない。羽なんか本当に生きているようだ。
「すげえクォリティだな…!いや、でもちょっとエロすぎねえ?あ、つうか、ベッドの上に土足で上がんなよ~」
驚いているが全く怖がっている様子はないリカルドに青年が眉をしかめる。
「コスプレではない!私はサキュバスのノクス」
「サキュバス?!サキュバスって女じゃねえの?男は確かインキュバスっていうんじゃ…」
「うるさい!私だって好きでサキュバスなわけではない。男からしか精力を得られないのだから仕方ないだろ」
「ああ、そう言う設定……」
「設定ではない!本物だ!……ちっ、無駄に体力を使わせるな……」
「いや~、でも急にそんな格好されるといくら男でも目のやり場に困るっていうか……」
ちょっと照れつつリカルドが目をそらす。
「はあ、なぜこんな男に……しょうがない、お前で我慢してやる。貴様の精液を私によこせ」
「は‥‥はあああ?な、何言ってんの?」
突然の下ネタにリカルドが驚愕する。
いきなりこんな格好をした男にこんなことを言われて慌てない人間がいるだろうか。
いや、ない。
「サキュバスは人間の男の精力を魔力に変えて生きている。空腹で死にそうだ……。良いから貴様のマラをだして精液を吸わせろ」
「いやいやいや!意味分かんねえし!」
「うるさい男だな、ったく、魔力さえあればさっさと魅惑魔法(チャーム)をかけるのだが……」
「何言ってんの?!そう言うんだったら悪いけど他当たってください!」
ワタワタと慌てるリカルドにノクスがふんと鼻を鳴らす。
「さっき飯を食わせてやると言ったではないか」
「そりゃ普通の飯だと思ったからで……」
「ふん、私は一度も人間の食べ物とは言っていないぞ。一度言ったことを反故にするとは悪魔にも等しい人間だな…」
「う……でも、普通詳細を説明する義務があると思うんだけど?!クーリングオフでお願いします!」
「まったく……往生際の…悪い……」
そう言うとノクスは糸の切れた人形のように再びベッドに倒れ込む。
「はあ……はあ……」
「お、おい、大丈夫か?」
リカルドが慌てて覗き込むとノクスの顔は蒼白で呼吸も荒い。
「……お前が……、声を荒げさせるから……」
「わ、悪い……」
その様子はリカルドが今まで看取ってきた老人たちの臨終の姿に似ていてリカルドの体に一気に悪寒が走る。
「……ホントに……本当に精液飲んだら元気になるのか…?」
「……ああ、本当…だ……。頼む……私はこんなところで死ぬわけには…いかない……」
ゼイゼイと息をあげて絞り出すような声が段々と力がなくなっていく。
リカルドは昔拾った死にかけの子猫が息を引き取った時の事を思い出した。
荒い息をした後、段々と呼吸が弱くなって、そのまま動かなくなった子猫の姿は今でもずっと頭に残って消えない。
もしまた、同じ思いをすることになるくらいなら……。
「分かった……色々信じられねえけど、もし万が一このまま死んだら一生後悔しそうだからな……」
そう言うとリカルドは覚悟を決め、自分のズボンのチャックに手を掛けた。
右腕にぐったりとした青年を抱えつつ、リカルドは器用に我が家の玄関のドアを開ける。
オンボロアパートのドアは驚くほど薄く、経年劣化で枠も歪み、開けるのに少しコツがいる。
ギイッと音を立てて開いたドアの先の暗い部屋の中からは返事はない。
玄関脇にある壁のスイッチを押して照明をつける。
明るくなった室内は壁の汚れのせいか何処か薄暗い。
ここ、二階建て木造アパート大倉荘、二階の角部屋、2DKの201号室がリカルドの家だ。
チラリと室内を見た青年がその美しい眉毛をわずかに顰める。
「……汚い…狭い……」
「助けてもらっといて文句言うなって。一応ちゃんと掃除はしてるぞ」
汚くて狭いのは重々承知なので特に気にした様子もなく、リカルドはスリッポンを脱ぐ。
青年もそれに倣って高そうな革靴を脱ぐ。
三和土の横には建付けの悪そうな木の靴箱、その向こうには二口コンロの使い込まれたキッチンがあり、正面にはあまりオシャレとは言えない古い木製の二人掛けのダイニングテーブルがある。
さらにその奥には左右二つの引き戸があり、右側がリカルドの自室兼寝室だ。
青年に肩を貸しつつ、部屋に入り、布団敷きっぱなしのベッドに彼を下ろす。
使い古されたベッドがギシりときしむ。
ベッドに腰掛けた金髪の青年は顔を上げると驚いた様子でキョロキョロと部屋の中を眺める。
リカルドは身に着けていた薄手のジャケットを脱ぎ、長押にかかったハンガーにそれをかける。
「ちょっとここで待ってろ。すぐ飯の支度してくるから。あ、しんどかったらベッドに横になってていいぞ」
「……おい、この部屋………」
そう言いかけてリカルドを見た青年の目が丸くなる。
「……なんだ、その胸の女は?」
「あ、これ?「まじかる☆くるくる」のももりん!俺の嫁だ!」
恐る恐る聞く青年に、リカルドは着ているTシャツを誇らしげに引っ張る。
ジャケットを脱いだ下には体のサイズに合っていないぴちぴちの青いチェックのシャツ、その間からはフワフワのピンクの髪をした大きな目の少女が覗いていた。
「も、ももりん?」
人形のようだった青年がハトが豆鉄砲食らったような表情になり、こういう顔してたら結構人間臭いなとリカルドは少しほっとする。
「え、お前「まじかる☆くるくる」のアニメ見たことねえの?!まだ未見だったら絶対見ろ!人生観変わるから!あ、よければここにブルーレイ全12巻があるから待ってる間見るか?」
急にテンション高く早口になったリカルドに唖然としつつ、再び青年は部屋を見渡す。
そこにはTシャツに描かれた同じピンクの髪をした少女の絵や人形が所狭しと並んでいる。
ピンク色が目に痛いし、全ての顔が笑みを浮かべてこちらを見ていて、とてもリラックスできる環境ではない。
「いや~、今日仕事で疲れたからさ、まじくるの27話「頑張れ!桃子から応援歌!」を見てももりんに癒してもらおうと思ってたんだ。この回のももりんマジ天使だから!あんたもももりん見たら元気になるかもよ?」
嬉しそうに部屋の端に置かれたテレビの方に向かうリカルドを青年が今までにない大きな声を出して制止する。
「いや、結構だ!反対に頭が痛くなりそうだ……」
青年が頭を抱えると、リカルドは残念そうに青年の元に戻ってくる。
「そうか?俺の元気の源なんだけどな~。まあ、今はとりあえず休んでた方がいいか」
「……はあ、これがアニメオタクと言う奴か……この私が緊急事態とはいえ、こんな男と……いや、しかし今は贅沢は…言ってられ…な……い…」
大声を出したせいか、青年がぱたりとベッドに横たわる。
心配になったリカルドはその顔を覗き込む。
「お、おい、大丈夫か?」
「……もう……魔力が……限界…だ……」
青年が息も絶え絶えに言うと、その体からブワッと風が巻き起こる。
その風にあおられ、リカルドはとっさに目をつぶる。
家の中で扇風機もないのどこから風が?!
風がおさまり、リカルドがゆっくり目を開くとそこには先ほどの顔面蒼白の弱弱しい青年の姿はなく、黒いボンテージファッションに身を包んだフワフワとしたウェーブのかかった金髪の美しい男がそこにいた。
男と分かったのは、その大胆に開いた胸元からまっ平どころか逞しい胸筋が見えたからだ。
その下には綺麗に割れた腹筋、さらにその下腹部にはショッキングピンクのハートの様な模様が描かれていて、引き締まった尻をローライズの小さな黒いショートパンツが包んでいる。
足元は同じく黒革のハイヒールのロングブーツを履いており、ショートパンツとの絶対領域からはハリのある美しい太ももがのぞく。
何より目を引たのはその背中のショッキングピンクの蝙蝠の様な羽と尻から生えている長いしっぽ。その先端は羽と同じショッキングピンクのハート形をしている。
そして頭にはヤギのような黒い大きな角が生えていた。
一言でいえばハロウィンで見る悪魔のコスプレ。しかもかなり際どい。
「ええ?!なに?!コスプレ?!どうやって変わったんだ?」
目を丸くするリカルドに彼が大きなため息を付く。
「はあ……まさか人間にこの姿をさらすことになるとは……私としたことがとんだ失態だ…。まあ、いい。魔力が回復したら消去魔法(デリート)で消せば問題はない……」
声からして先ほどの青年と同一人物なのは間違いない。
青年の変わりっぷりに驚きつつもリカルドがしげしげとその姿を見る。
オタクの祭典コミックマーケットでいろんなコスプレイヤーを見てきたがここまでクオリティの高いコスプレは見たことがない。羽なんか本当に生きているようだ。
「すげえクォリティだな…!いや、でもちょっとエロすぎねえ?あ、つうか、ベッドの上に土足で上がんなよ~」
驚いているが全く怖がっている様子はないリカルドに青年が眉をしかめる。
「コスプレではない!私はサキュバスのノクス」
「サキュバス?!サキュバスって女じゃねえの?男は確かインキュバスっていうんじゃ…」
「うるさい!私だって好きでサキュバスなわけではない。男からしか精力を得られないのだから仕方ないだろ」
「ああ、そう言う設定……」
「設定ではない!本物だ!……ちっ、無駄に体力を使わせるな……」
「いや~、でも急にそんな格好されるといくら男でも目のやり場に困るっていうか……」
ちょっと照れつつリカルドが目をそらす。
「はあ、なぜこんな男に……しょうがない、お前で我慢してやる。貴様の精液を私によこせ」
「は‥‥はあああ?な、何言ってんの?」
突然の下ネタにリカルドが驚愕する。
いきなりこんな格好をした男にこんなことを言われて慌てない人間がいるだろうか。
いや、ない。
「サキュバスは人間の男の精力を魔力に変えて生きている。空腹で死にそうだ……。良いから貴様のマラをだして精液を吸わせろ」
「いやいやいや!意味分かんねえし!」
「うるさい男だな、ったく、魔力さえあればさっさと魅惑魔法(チャーム)をかけるのだが……」
「何言ってんの?!そう言うんだったら悪いけど他当たってください!」
ワタワタと慌てるリカルドにノクスがふんと鼻を鳴らす。
「さっき飯を食わせてやると言ったではないか」
「そりゃ普通の飯だと思ったからで……」
「ふん、私は一度も人間の食べ物とは言っていないぞ。一度言ったことを反故にするとは悪魔にも等しい人間だな…」
「う……でも、普通詳細を説明する義務があると思うんだけど?!クーリングオフでお願いします!」
「まったく……往生際の…悪い……」
そう言うとノクスは糸の切れた人形のように再びベッドに倒れ込む。
「はあ……はあ……」
「お、おい、大丈夫か?」
リカルドが慌てて覗き込むとノクスの顔は蒼白で呼吸も荒い。
「……お前が……、声を荒げさせるから……」
「わ、悪い……」
その様子はリカルドが今まで看取ってきた老人たちの臨終の姿に似ていてリカルドの体に一気に悪寒が走る。
「……ホントに……本当に精液飲んだら元気になるのか…?」
「……ああ、本当…だ……。頼む……私はこんなところで死ぬわけには…いかない……」
ゼイゼイと息をあげて絞り出すような声が段々と力がなくなっていく。
リカルドは昔拾った死にかけの子猫が息を引き取った時の事を思い出した。
荒い息をした後、段々と呼吸が弱くなって、そのまま動かなくなった子猫の姿は今でもずっと頭に残って消えない。
もしまた、同じ思いをすることになるくらいなら……。
「分かった……色々信じられねえけど、もし万が一このまま死んだら一生後悔しそうだからな……」
そう言うとリカルドは覚悟を決め、自分のズボンのチャックに手を掛けた。
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