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第七話『二人の弟子』
【4】
しおりを挟む姫美はモヤモヤした気持ちで、目の前の出来事を見守っていた。
目の前で、彩乃が怜に弟子入りした光景を――
モヤモヤした気持ちで見守っていた。
何よ……最初に誘ったの私の癖に……あの牛女に一番弟子の座を上げるなんて……最低……
これはもう、嫉妬だ。
姫美本人にも、自覚があった。
「さぁてぇ……どうするのぉ? あなたはぁ?」
彩乃が話を振ってきた。
「何が?」姫美は素っ気なく返した。
「決まってるじゃなぁい、怜っちの弟子になるの? どうなのぉ? どうするのぉ?」
「どうするって……それは――」
姫美自身も分かっていた。
自分が生き続ける為には……『霊王』を倒さなくてはならない。
あの強かった『拳銃の悪霊』を、遥かに凌駕する――『霊王』を。
怜一人では、とても成し遂げられるものではない。
姫美の『力』を加味した上で、その条件を提示したのも分かっている。
怜に弟子入り志願表を渡された時、シンプルに姫美は嬉しかったのだ。だが、それと同時に、彼女は思い出してしまった……
あの『拳銃の悪霊』――
あの、鬼のように強かった……悪霊の事を。
怜に弟子入りする、という事は即ち――ゴーストバスターになる、という事……そうなるとこれから、あんな化け物達と戦わなくてはならなくなる。仕事として、だ。
嬉しさより、恐怖が上回り……咄嗟に「嫌よ!」と即答してしまったのだ。
私のバカ……
こうなってしまうと、もう後には引けない……
怖いのだ……
怖い……
自らが一度、死んだ瞬間すら、思い出す――
姫美は即答する。
「私は――弟子になんてならない」
「子供ねぇ……あなたぁ……」姫美が辛辣に即答してくる……まるで、そう返してくる事が分かっていたかのように――
「は? な、何が!?」
「どうせイロノに一番弟子の座を取られたって不貞腐れてるんでしょぉ? そんなのでぇ、拗ねるなんてホント幼稚ぃ……小学生以下ねぇ、あんた何歳ぃ?」
「は、はぁ!? い、一番弟子!? 何言ってんのあんた! そもそも私は……っ!!」
図星だった。
それも一つの理由だったからこそ、何も言えなかった。
彩乃は問い詰める。「私はぁ……何ぃ? 言ってごらんなさぁい? 甘えん坊ちゃぁーん?」
そして、彩乃は眉間に皺を寄せて続ける。
「あんたぁ、話を聞く所によるとぉ、『霊王』っての倒さなくちゃいけないんでしょぉ? その策としてぇ、怜っちはぁ、弟子になって欲しいってあなたに頼んでるのぉ……分かってるぅ?」
「わ、分かってるわよ……! そんな事……!」
「だったらぁ、一番弟子とか二番弟子とか関係ないでしょぉ? さっさと――
この書類にサインしなさい!! この根性無しぃ!!」
「…………!!」歯を食いしばる彩乃。
「……もう良いよー」と、怜が間に入る。
怜は優しい表情で、姫美を見る。「怖いんだよねー? 姫美はー……」
そして近付く「だろうねー……一般人の君が、あんな強い霊見たらー、この世界に入るの怖いよねー……そりゃ……尻込みもするよー」
優しく、姫美の手を取った。
「でもー……今度こそー、姫美はボクが守るからー……」
「え……」
「本当はねー……最初から『ボク一人で戦う』つもりだったんだー……」
「え? ひと……ぇ……?」姫美は目を見開く。
あれ……『拳銃の悪霊』……以上の、霊王を……一人、で……?
姫美は思った――
そんなの無理に決まってんじゃん……
怜は続ける。
「……でも、その為にはー、一応姫美がボクの隣に居てー、一緒に戦った風に見せかけなくては駄目だったんだー……その為に必要だったんだよねー、弟子入り申請ー」
「…………」
最初から……
そのつもりだった……?
元々……私の力に頼るつもりなんてなかったの……?
最初から一人で……無茶する気だったの……?
私の為に……?
「…………バカでしょ? あんた……」姫美がポツリと、声を落とした。
「あんた一人で……『霊王』を倒せる訳ないじゃん……ばか……」
「そーだねー、ボク、バカかもしんないやーハハハ」
「まったく……おかげで思い出せたわ……」
「? 思い出せたー? ……何をー?」
「あの時――私が本当に、本当の意味で……悔しかった事……」
あの時――『拳銃の悪霊』戦で、姫美は恐怖を凌駕していた感情があった事を思い出した。
生き返ってからというものの……平和過ぎて忘れていた感情……
悔しさだ――
命を賭けて闘っている怜達を、ただ脇から、黙って見る事しか出来なかった悔しさ……
自分の非力さに対する悔しさ――
そうだ、この気持ちを忘れていた……
「私は何て、勿体ない事をしようとしていたんだろうね……バカみたい……」自嘲気味に姫美は笑った。
「姫美……?」
「分かった、弟子入り申請する! 紙とペン貸して」
「えぇー!?」と、怜が驚く。「ちょっ、あ、えっ!? 何ー? 一体どんな心境の変化なのー!?」と、狼狽えつつ、怜は注文通りの物を渡す。
姫美は紙とペンを受け取り、サラサラと名前を描き始める。
「ん」書き上げた物を、怜に手渡す。
「……あ、ああー……ありがとー……」
怜が受け取った瞬間、姫美の弟子入りが成立した。
「一個……弟子入りについて条件があるわ……」
「……条件ー?」
「そ、条件――
私を強く育てて……あなたの隣で戦えるくらい、強く」
「ぼ……ボクの隣で……? ……もしかして……」ここで怜は、気付いた。
「そっ」姫美は笑って頷く。
「あなた一人で戦わせたり、しない……今度は、私もあなたと一緒に戦いたい! 二人で――
『霊王』を倒そう! 怜!」
「…………」
隣に立って一緒に戦いたい……それは即ち――
「なるほどねー、分かったよー……けど――
ボクは、姫美よりずーっと遠い所にいるからさー、覚悟して走って来なよー、でないと置いてっちゃうからねー」
姫美は頷いた。「望む所よ」
そして彼女は、彩乃を見る。ニヤリと……したり顔で。
「……と、言う訳で、宜しくねー? お、ね、え、さ、ま?」
「まぁた、小生意気な事言ってぇ……お姉ちゃんの事はちゃーんとぉ、敬わなくちゃ駄目よォ? い、も、う、とちゃぁん?」
バチバチと火花を散らす姫美と彩乃。
「なーんで、この二人仲悪いんだろー?」怜は苦笑いで首を捻った。
鈍感な男である。
そして、それから何やかんやでバチバチ言い合いはあったものの……
無事――
彩乃と姫美は――怜に弟子入りしたのだった。
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