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1束:隣のクラスの同級生
* 39輪:ハンドサイン
しおりを挟む2月。
来週に学年末テストが控えているのだが、広報委員が1月分の学級新聞を完成させていなかったことが発覚。
なので美鎖子は放課後教室でひとり、学級新聞を作っていた。
当の広報委員はというと『テスト勉強があるから』と言って帰宅したのである。
私もテスト勉強あるわ!と思ったけれど、美鎖子が口に出せる訳もなく…。
神楽美鎖子(流石に下書きまでは済ませていると思ってたけれど、全く手を付けてなかっただなんて…)
美鎖子は図書室で1月分のすべての新聞を借り、一面を中心にすべてコピーした。
そして教室に戻ると机の班の形に移動し、その上にコピーした用紙を広げた。
美鎖子はフンッと鼻を鳴らした。
美鎖子(下書きは今日明日で済ませて、明後日で清書を終わらせる。金曜日は絵とタイトルを書いて完成!絶対に1週間で絶対終わらせる!)
美鎖子は新聞にマーカーで線を引き始めた。
もちろん抜き出すのは社会科の時事問題に出題されそうなものばかり。
テスト脳の美鎖子はこういう時でも勉強しようとするのである。
美鎖子(時事ネタと自然教室の話、それと今年の運勢くらいで埋まるかな?)
美鎖子は中腰で活字と向き合った。
美鎖子(あったあった占い、これで埋めよう)
美鎖子は自分の席に戻ると道具箱を引っ張り出し、そこからハサミを取り出した。
そしてコピー紙を立てて占いコーナーを切り抜き始めた。
美鎖子(占いコーナー全部丸写ししたら、学級新聞の半分埋まりそうだけれ…ど?)
何か違和感を感じた美鎖子はハサミの刃を紙からゆっくり抜き、ゆっくりと立てていた新聞紙を下ろした。
美鎖子「びっ!!」
美鎖子(っくりしたぁ!!)
美鎖子は思わず心の声が溢れ出してしまった。
班の形にしていた座席に、音も立てずに稜太郎が座っていたからだ。
美鎖子(まっっったく椅子を引く音がしませんでしたけど?!怖い怖い怖い、なんでなんでなんで)
美鎖子は軽くパニックを起こした。
そして両手をわざとらしく震わせたので、紙の“パタパタ”という音とハサミの“カチャカチャ”という音だけが教室に響いた。
美鎖子がこんなに動揺しているにも関わらず、稜太郎はマーカーが引かれた新聞を眺めていた。
美鎖子「せっせせ先週ぶり、自然教室ぶりですね」
美鎖子は少し落ち着くと新聞とハサミを机の上に静かに置いて、稜太郎の向かいの席の椅子を引きながら当たり障りのない挨拶をした。
稜太郎は何も言わずに顔を上げると、赤紫色のサングラス越しに美鎖子を真っ直ぐに見た。
美鎖子はなぜか恥ずかしくなり、すぐに顔を逸らして椅子に座った。
美鎖子(あっあれ、なんで私座ったんだ、気まずっ)
稜太郎が何も答えないので、美鎖子は廊下の方に顔を向けながら肩を上げた。
美鎖子(切ろ、占い切ろ…)
美鎖子は稜太郎の目線が合わないように注意を払いながら、机の上に置いた新聞紙とハサミを手に取った。
それからコピー紙を立ててハサミの刃を当てた。
新聞の占いコーナー<11位は山羊座のあなたm9( ゚ω゚)ドゥン
年の始めは昨年の運気に引っ張られそうっΣ( ˙꒳˙ ;)ウェッ
2月は特に注意だぞっ|゚ω゚`)):プルプル
そこから運気は徐々に上がりそうだけれど、
夏の終わりからまた落ちてしまいそうっ。゚(゚´ω`p)p。ピエン
ラッキーアイテムはサングラス(σ●-●)⭐︎スチャッ
恋愛運♡♡♡♡❤︎
大体はあなたの勘違いだぞっ(。・ω<。) ⌒ ⭐︎キラン
仕事運♡♡❤︎❤︎❤︎
仕事に集中できそうかもっ((d(*★≧Ⅴ≦★*)b))イェイ
金運♡♡♡❤︎❤︎
貯金はダメ(`・ω・)×メッ 使える時に使っておけば、そのお金は必ず戻ってくるから(ง •̀ω•́)งグッ>
美鎖子はつい自分の星座の占いを読んでしまった。
〈大体はあなたの勘違いだぞっ(。・ω<。) ⌒ ⭐︎〉という字面を読んで馬鹿馬鹿しくなり、雑に新聞紙を切り取り始めた。
美鎖子(確かにスキー教室のも勘違いでしたので当たってるでしょう!…恋愛ではないけれど!!)
美鎖子は占いコーナーを切り落とすと、学級新聞の清書用紙の上に雑に置いた。
美鎖子(<ラッキーアイテムはサングラス>ね…)
美鎖子は切り抜かれた新聞紙をお団子のように丸めながら、恐る恐る稜太郎の顔を確認した。
サングラス姿の稜太郎は両手で頬杖をついて、じーっと美鎖子の方を見ていた。
美鎖子は「どうしましたか?」とか「何でしょうか?」とか言いかけたけれど、
「へへへ」とぎこちない愛想笑いをしてしまった。
三毛稜太郎「なんか、決めよ」
美鎖子は突然そう言われたので「どぅぇ?」という間抜けな返事をしてしまった。
稜太郎「ほら、こういうの」
稜太郎はそう言うと、片手を上げて手のひらを美鎖子に向けた。
そして親指を折りたたむと、残りの指で親指を覆った。
美鎖子(〰︎〰︎?!SOSのハンドサイン?!)
美鎖子「なっなんで、え、なんで」
また美鎖子はあからさまに動揺した。
稜太郎「神楽さんが「助けて」って言わなそうだから」
美鎖子「わっ私が?私の話ですか?これ」
美鎖子が自分の顔を指差しながら話すと、稜太郎は「ぅん」と頷いた。
美鎖子(なっ何でSOSサイン…)
いつも稜太郎は言葉が足りなかった。
だから美鎖子は頭をフル回転させて、稜太郎の言いたいことを汲み取らなければならなかった。
美鎖子「えっと、えー、大石先生のことで、私に何かあったら、私がするハンドサイン、SOSのハンドサインってことですか?」
稜太郎「ぅん」
美鎖子(あっなんか当たった)
なぜか美鎖子は稜太郎のクラスの担任である大石先生によく絡まれる。
その原因が何も思い浮かばなかったので、美鎖子も困っていたのだが。
美鎖子「でっでも、大石先生の前でSOSのハンドサインをするのは絶対火に油を注ぐというか…。
例えば手を後ろにしてSOSのハンドサインをやったとしても仰々しいですし、他の人に見られたら確実に勘違いされますよ」
稜太郎「ぅん」
あまりにも綺麗に稜太郎が頷くので、美鎖子は口を真一文字に結んだ。
美鎖子(…話終わっちゃったよぉ)
美鎖子は目線を机の上の新聞に移した。
そして新聞紙をペラペラといじり始めた。
美鎖子(…やっぱり三毛くんが分からない。
けれど私は今それどころじゃないんだ、学級新聞を今週中に終わらせないと)
美鎖子は鼻先を手でスッと擦ってからコピー紙をペラペラとめくり、学級新聞のネタを探し始めた。
稜太郎「…神楽さん、ちょっと良い?」
稜太郎がそう言うので、美鎖子は顔を上げ「はい、なんでしょう」と答えた。
すると稜太郎は机の上に前のめりになり、美鎖子の新聞紙をめくっていた右手を取った。
美鎖子(え?!)
稜太郎「右手側面黒くなってる。そっちの手も出して」
美鎖子の右手の小指側の側面がコピー紙の文字と擦れて黒くなっていた。
稜太郎はそれを指摘した後、美鎖子に左手も出すように右手のひらを出した。
美鎖子(なになになになに。|《はた》側から見たら降霊術始まりそうなんだけど、なになに)
稜太郎は美鎖子の右手の先を軽く握っていた。
美鎖子はその様子を見ながら、のっそりと左手も差し出した。
稜太郎は美鎖子の左手もまた軽く握った。
稜太郎「えっとね」
稜太郎はそう言うと、美鎖子の両手を重ねた。
美鎖子(わわわわわわ)
美鎖子の頭は完全にショートしていた。
指先に身体中の血液が集まっている気がして余計に恥ずかしくなった。
そんな美鎖子のことなんてお構いなしに、稜太郎は彼女の両手の薬指だけを握って互いの薬指に絡ませた。
美鎖子の両手は“ひとり指きりげんまん”の、薬指バージョンのような形になっていた。
稜太郎「助けて欲しいって思ったらこれするんだよ」
稜太郎は美鎖子の顔を見ずに、彼女のハンドサインにハンドパワーを送るようにそう言った。
美鎖子「はいっ、分かりました…」
美鎖子は何も分かっていなかったけれど、稜太郎が自分の手に両手を重ねてお祈りしてくるので、早く手を離して欲しくて適当に返事をした。
稜太郎「…分かってる?」
稜太郎は赤紫色のサングラスの上から、上目遣いで美鎖子のことを見た。
美鎖子(三毛くんの手の感触がほぼほぼ肉球みたいで…ぷにぷにで…上目遣いも相まって本当に“ワンちゃん”みたぃ…)
美鎖子「わん…」
美鎖子は噛んだのかよく分からない返事をしてしまったので、稜太郎から静かに目を逸らした。
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