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7章 三人暮らし
27話
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二人暮らしも慣れてきたころ。
積み上げてきたものをすべて揺らがすような大事件が起きてしまった。
ある休日のこと、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「私、出るね」
ただ飯食らいではいけないので、できることはやろうと応対を買って出る。
「はーい」
玄関のドアを開けると、そこには高校生ぐらいの女の子がいた。
ばっちり化粧をして、街で見かけるようなファッションに身を包むオシャレな子。そしてぱっちりと目が大きくて可愛らしい。手には大きなボストンバッグを持っている。人によっては「ギャル」認定するかもしれない。
(近所の子じゃない?)
宅配便でも回覧板でも勧誘でもなさそうだった。
「誰あんた?」
開口一番にそう言われた。
「はい?」
それはこっちのセリフのはず。
知らない子に急になんでそんなことを言われないといけないだろう。
「リヒトの女?」
「は?」
どうやら志田の知り合いらしいけれど、明らかに敵意のある言葉。
「ま、いいけど。上がらせてもらうね」
彼女はそう言うと、真理子の横をすり抜けて中に入ろうとする。
「ちょっと待って! あなたこそ誰なの?」
「家族だけど?」
「家族?」
志田に兄弟がいる話は聞いたことがない。
すると家を出て行った母親? いやいや、同じぐらいの年なんだからそんなわけがない。
じゃあ、志田の恋人? 嫁? いやいやいや、それこそ絶対にあり得ない!
「リヒト~」
真理子がぽかーんとしていると、彼女は靴をめちゃくちゃに脱ぎ捨てて、上がっていく。
「ちょっと!」
真理子は急いであとを追うが、リビングに入られてしまう。
「椎木(しいぎ)……? なにしに来たんだ?」
「志田くん、知り合い?」
「知り合いというか、C組の椎木だよ。名前しか知らないが……」
どうやら同じ学校の同級生らしい。言われて見れば見たことある気がする。
「ひどーい! あたしたち家族なのに!」
「は?」
その反応からすると、志田にも不可解な状況のようだった。
「もしかして聞いてない?」
「何をだ?」
「今日からあたしがここに住むって話」
「は?」
「は?」
思わず真理子も反応してしまう。
見知らぬ女の子がいきなり現れ、家族だと主張し一緒に住むという。そんなの受け入れられるわけがない。
「ホント知らないんだ。しょうがないから説明してあげる」
話なんか聞かずにすぐに追い出してやりたいけど、志田が話は聞くと行っているので、真理子はお茶を出してあげた。
「話せば複雑なんだけど、あたしのお父さんがリヒトのお母さんと再婚したわけ、以上!」
複雑と言いつつも、一言で言ってのける。
もちろんそんな説明でわかるわけがない。でも、非常に気になるワードが混じっている。
「……母さんが再婚……? 椎木が連れ子ってことか?」
「愛桜(アイラ)でいいよ」
「俺の母がアイラの義理の母になったから、俺も家族だって言いたいのか?」
確かに複雑だ。血はつながっていないし、法律的な関係もあんまり関係ない家族が現れてしまった。
真理子は違うところでも引っかかっていた。
志田が椎木のことを下の名前で呼ぶので、むっとしてしまう。自分はまだ名字読みなのに。志田としては話を中断したくないから、相手の要望に乗っただけなのかもしれないけれど。
「そういうこと! だから一緒に暮らそ!」
「ちょっと待ってよ! 全然家族じゃないじゃん!」
志田は母というワードを出されて戸惑っているので、真理子が代わりに抗議する。
「志田くんとお母さんはもう関係ないんだから、椎木さんは志田くんと関係ないでしょ?」
「なんで?」
「なんでって……」
うすうすわかっていたけれど、まともに話が通じるタイプじゃないみたいだった。
「今は離婚してるかもしれないけど、血のつながった母親じゃん。それより、あんたはなんなの? 家族なの?」
今度は椎木が真理子に追及してくる。
「えっと私は……」
それは言われるとちょっと困る。一緒に住んでるけど、別に法律的な関係があるわけじゃない。
恋人? いや、この場合はいっそ居候と言ったほうがわかりやすいのか?
「彼女だよ」
代わりに志田がストレートに答えてくれたので、真理子は危うく頭が爆発しかけた。
「ふーん。志田くんこういう子が好きなんだ」
意味深。椎木は何かと嫌な印象を与えることばっかり言う。
急に上がり込んできて、いったい何様なんだろうか。
「家族かはおいといて……。なんでここに来たんだ? 自分の親は? 再婚したんだろ?」
「再婚したから来たんだよ」
めちゃくちゃな言い分にリアクションするのも疲れてきた。
「それは……。親が再婚して居場所がなくなったとか、追い出されたってことか?」
「そういうこと! さっすがリヒト! リヒトのお母さん的には、連れ子のあたしが邪魔らしいんだよね。だから出て行けって」
「はあ……」
自分の母の言動に志田は頭を抱える。
「それで、俺の家に住めと言われたのか?」
「それそれ! リヒトならしっかりしてるから、一緒に住めばって」
「はあーー……」
志田は大きなため息をついてうなだれる。
真理子もそれにどう反応していいのかわからなかった。
志田の両親が変わった人だとは聞いていたけれど、別れたあとも志田を巻き込んでくるとはすごい母親だった。
(なんかもやもやする……)
同級生という微妙に近い存在だからこそ、真理子としては、椎木を認めたくないという思いがあった。
ようやく安定した生活を手に入れたのに、明らかにトラブルの火種……というか火薬、導火線がやってきてしまった。
「世の親はどうなってんだよ……。どいつもこいつも自分勝手で、子供にとっては迷惑でしかない……」
志田がつぶやく。
真理子の両親に加えて、自分の両親。立派な大人なのに、子供を巻き込んでひどい状況に陥れてくる。
志田は大きなため息をはく。そして言った。
「……わかった。アイラもここにいろ」
「えええっーーー!?」
真理子は絶叫した。
積み上げてきたものをすべて揺らがすような大事件が起きてしまった。
ある休日のこと、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「私、出るね」
ただ飯食らいではいけないので、できることはやろうと応対を買って出る。
「はーい」
玄関のドアを開けると、そこには高校生ぐらいの女の子がいた。
ばっちり化粧をして、街で見かけるようなファッションに身を包むオシャレな子。そしてぱっちりと目が大きくて可愛らしい。手には大きなボストンバッグを持っている。人によっては「ギャル」認定するかもしれない。
(近所の子じゃない?)
宅配便でも回覧板でも勧誘でもなさそうだった。
「誰あんた?」
開口一番にそう言われた。
「はい?」
それはこっちのセリフのはず。
知らない子に急になんでそんなことを言われないといけないだろう。
「リヒトの女?」
「は?」
どうやら志田の知り合いらしいけれど、明らかに敵意のある言葉。
「ま、いいけど。上がらせてもらうね」
彼女はそう言うと、真理子の横をすり抜けて中に入ろうとする。
「ちょっと待って! あなたこそ誰なの?」
「家族だけど?」
「家族?」
志田に兄弟がいる話は聞いたことがない。
すると家を出て行った母親? いやいや、同じぐらいの年なんだからそんなわけがない。
じゃあ、志田の恋人? 嫁? いやいやいや、それこそ絶対にあり得ない!
「リヒト~」
真理子がぽかーんとしていると、彼女は靴をめちゃくちゃに脱ぎ捨てて、上がっていく。
「ちょっと!」
真理子は急いであとを追うが、リビングに入られてしまう。
「椎木(しいぎ)……? なにしに来たんだ?」
「志田くん、知り合い?」
「知り合いというか、C組の椎木だよ。名前しか知らないが……」
どうやら同じ学校の同級生らしい。言われて見れば見たことある気がする。
「ひどーい! あたしたち家族なのに!」
「は?」
その反応からすると、志田にも不可解な状況のようだった。
「もしかして聞いてない?」
「何をだ?」
「今日からあたしがここに住むって話」
「は?」
「は?」
思わず真理子も反応してしまう。
見知らぬ女の子がいきなり現れ、家族だと主張し一緒に住むという。そんなの受け入れられるわけがない。
「ホント知らないんだ。しょうがないから説明してあげる」
話なんか聞かずにすぐに追い出してやりたいけど、志田が話は聞くと行っているので、真理子はお茶を出してあげた。
「話せば複雑なんだけど、あたしのお父さんがリヒトのお母さんと再婚したわけ、以上!」
複雑と言いつつも、一言で言ってのける。
もちろんそんな説明でわかるわけがない。でも、非常に気になるワードが混じっている。
「……母さんが再婚……? 椎木が連れ子ってことか?」
「愛桜(アイラ)でいいよ」
「俺の母がアイラの義理の母になったから、俺も家族だって言いたいのか?」
確かに複雑だ。血はつながっていないし、法律的な関係もあんまり関係ない家族が現れてしまった。
真理子は違うところでも引っかかっていた。
志田が椎木のことを下の名前で呼ぶので、むっとしてしまう。自分はまだ名字読みなのに。志田としては話を中断したくないから、相手の要望に乗っただけなのかもしれないけれど。
「そういうこと! だから一緒に暮らそ!」
「ちょっと待ってよ! 全然家族じゃないじゃん!」
志田は母というワードを出されて戸惑っているので、真理子が代わりに抗議する。
「志田くんとお母さんはもう関係ないんだから、椎木さんは志田くんと関係ないでしょ?」
「なんで?」
「なんでって……」
うすうすわかっていたけれど、まともに話が通じるタイプじゃないみたいだった。
「今は離婚してるかもしれないけど、血のつながった母親じゃん。それより、あんたはなんなの? 家族なの?」
今度は椎木が真理子に追及してくる。
「えっと私は……」
それは言われるとちょっと困る。一緒に住んでるけど、別に法律的な関係があるわけじゃない。
恋人? いや、この場合はいっそ居候と言ったほうがわかりやすいのか?
「彼女だよ」
代わりに志田がストレートに答えてくれたので、真理子は危うく頭が爆発しかけた。
「ふーん。志田くんこういう子が好きなんだ」
意味深。椎木は何かと嫌な印象を与えることばっかり言う。
急に上がり込んできて、いったい何様なんだろうか。
「家族かはおいといて……。なんでここに来たんだ? 自分の親は? 再婚したんだろ?」
「再婚したから来たんだよ」
めちゃくちゃな言い分にリアクションするのも疲れてきた。
「それは……。親が再婚して居場所がなくなったとか、追い出されたってことか?」
「そういうこと! さっすがリヒト! リヒトのお母さん的には、連れ子のあたしが邪魔らしいんだよね。だから出て行けって」
「はあ……」
自分の母の言動に志田は頭を抱える。
「それで、俺の家に住めと言われたのか?」
「それそれ! リヒトならしっかりしてるから、一緒に住めばって」
「はあーー……」
志田は大きなため息をついてうなだれる。
真理子もそれにどう反応していいのかわからなかった。
志田の両親が変わった人だとは聞いていたけれど、別れたあとも志田を巻き込んでくるとはすごい母親だった。
(なんかもやもやする……)
同級生という微妙に近い存在だからこそ、真理子としては、椎木を認めたくないという思いがあった。
ようやく安定した生活を手に入れたのに、明らかにトラブルの火種……というか火薬、導火線がやってきてしまった。
「世の親はどうなってんだよ……。どいつもこいつも自分勝手で、子供にとっては迷惑でしかない……」
志田がつぶやく。
真理子の両親に加えて、自分の両親。立派な大人なのに、子供を巻き込んでひどい状況に陥れてくる。
志田は大きなため息をはく。そして言った。
「……わかった。アイラもここにいろ」
「えええっーーー!?」
真理子は絶叫した。
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