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第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
57.でぶ双子が帰ってこない
しおりを挟む「は? でぶ双子が帰ってこない、だ?」
夕暮れのキューズに帰って、ギルドに任務の完了報告に行ったら、フレーニ婆さんから手招きされて。
混雑するカウンターから離れたスキル表示板室の前で、俺とマリアにだけ聞こえるような小声で言われた。
「そうなんだよ。一か月で終わる依頼だったんだけどね……」
「ここで俺らにイキってから発ったはずだから、二か月は経ってるだろ?」
「そうなんだよ」
「帰って来ねえって言っても、遊んでるだけじゃねえの? それか素行が悪くて捕まったとか?」
あのデブ共なら有り得るだろ。
しかし、なんで婆さんはわざわざ俺らにそんなことを教えるんだ?
「うちらキューズ支部としてもそう思ってたんだけどねぇ……どうもキナ臭いんだよ。それで、レオとマリアにちょいと頼みたいことがあってね? “上”でベルナールが待ってるから行ってくれないかい」
フレーニ婆さんは、そう言いながら階段を見遣った。
これ、頼み事って言っときながら強制のニオイがプンプンするんだけど?
しかも、階段を上るしかないようにさりげなく退路を塞がれてるし!!
……仕方ない。話を聞くか。
はあ……クレイグもこういう感じで仕事を押し付けられてたんだろうか?
「おう、帰ったか。二人ともお疲れさん! まあ座れや」
ギルマス室に入るなり、ベルナールからソファを指される。
「『帰ったか』じゃねえって。俺らは完了報告に来ただけなのに……」
「悪りぃ悪りぃ。だが、領主様案件なんだわ」
ぶう垂れる俺に、ベルナールは顔の前で軽く手刀を切ってから真顔で言った。
でぶ共が帰ってこないのが領主案件?
いまいちピンとこねえな……。隣のマリアも戸惑っているみてえだ。
しっかし、領主からってなりゃいよいよ逃げ道は無えな……仕方ねえ穴でも掘るか、なんてな。
「……んで、でぶ共の何がキナ臭いんだよ?」
「ん? でぶ共――ヤセノとギススが怪しいんじゃなくて、“行った先”が、だな」
「行った先?」
確か、アイツらは『よその領地からの指名依頼で出掛ける』とか『領地を跨ぐ依頼で名を挙げてくる』とかほざいてたな。
その時の記憶をマリアとすり合わせてたら、部屋にフレーニ婆さんが入ってきた。その手には書類みてえなモンを持っている。
「おー、ちょうどいい所に来たな。フレーニ、レオとマリアに奴らが受けた依頼を教えてやってくれ」
「はいよ」
二人のやり取りに、俺よりも早くマリアが反応した。
「えっ、いいんですか?! 冒険者がどういう依頼を受けたのかって、秘匿しないといけないんじゃ……?」
マリアの言う通りだ。
でも、ベルナールも婆さんもそれには頷いたけど、「今回は別だ」そうだ。
「他領……しかも、そこの領主からの指名依頼で、受諾冒険者が期日を過ぎても帰って来ねえ。しかも、うちの領都の冒険者も含まれてるってんなら、それはもう『事件性あり』だ」
そして、ギルマスはサブマスターに目配せすると、その婆さんが依頼書を俺たちに向けてテーブルに差し出した。
他領の領主だって? しかも『事件性』だなんて大袈裟だな。
とにかく――。
俺とマリア――ついでにベルナールまで――が、一枚の紙を覗き込む。
☆
宛て:オクタンス子爵領・キューズ冒険者ギルド所属Dランク冒険者『ヤセノ』『ギスス』
依頼主:リンガー・ロウブロー子爵
依頼:小村落の巡回警備
任地:ロウブロー子爵領内各地
期間:一か月
報酬:金貨五枚。ギルド規定に則り期間満了後に、領都イントリの冒険者ギルドにて払い渡し。
備考①:任期中の宿泊・食事にかかる経費は、ギルド規定により補助するものとする。
備考②:任務時に獣・魔物・野盗山賊等との戦闘あり。尚、実績を考慮の上、報酬加算にて再度指名依頼の可能性あり。
イントリ冒険者ギルド印とギルドマスター署名
リンガー・ロウブロー子爵署名
☆
「一か月で、えっと……だいたい三か月生きられる分の稼ぎか」
「あいつらだったら、帰ってきてひと月近くは好きに飲み食いできる金額だな」
俺の呟きに、ベルナールが補足してきた。
そこで、黙って読んでいたマリアが依頼書の一部を指差して顔を上げる。
「この“再指名”っていうのがあったんじゃないんですか? 延長とか……」
マリアの言う通りだ。
流石マリアだな、なんて思ってると、これも婆さんが答えを寄越してきた。
「いや。再指名には規定があって、依頼先の冒険者が所属するギルド――今回で言えばウチに依頼を出し直さなきゃいけないんだ。延長の場合も、当事者間で合意があったとしても、その理由と期間をウチに通知があって然るべきなんだよ」
それが無かった、と……。
でも、まだ遊んでるって線も捨てきれねえだろ。いや、でぶ共の性格だったら、逆にキューズに帰ってきて遊んでるところを見せびらかすかもな。
そんなことを考えてたら、ベルナールが言葉を継いだ。
「そういう規定の面もだが……そもそもの疑問がある」
「疑問?」
そう言えば、“行った先”が怪しいって言ってたな。何か関係があるのか?
「ああ。この依頼書を見れば、依頼内容は『ロウブロー子爵領内各地の小村落の巡回警備』だ」
「それならウチだって、代官から集落を見回る依頼が定期的に出てるじゃねえか。定期便だって、遅れてなきゃその役割を持ってるし」
「それは“自分の所”の集落だからだ。自分トコは自分で面倒見るのが常識だろ。誰がわざわざ他の貴族家の領地の冒険者に頼むってんだ? 『自分には治める能力がありません』って恥を晒すようなモンだし、情報が筒抜けになるかもしれねえのに」
それもそうか……。
そして、ベルナールは依頼が“指名依頼”だった点も指摘した。
なんでDランクで燻ぶってるでぶ共を指名できたのか、って。
「Aランクが大手柄を上げたとかSランクが誕生したとかならまだしも、他領のギルドに所属してる冒険者なんて名前もランクも知り得ねえ。現に領都のギルドでさえロウブロー子爵領の低ランクの冒険者は把握しきれて無えぞ」
最後の方は含みのある言い方だけど、冒険者は『普通の生活ができない連中ばかりの、社会の底辺の仕事』だって婆さんも言ってた。
そんな、いつ居なくなるか分かんねえ低ランク冒険者――しかも他領の――を知ってるのはおかしいな。
「冒険者が帰還しねえ件を、ローゼシア様がオクテュス冒険者ギルドマスター名義でイントリに尋ねたのが二週間前。返答が無えから、領主様――エトムント様も憂慮していらっしゃる」
ここまで並べられれば、俺でも怪しいって思う。
依頼に領主――貴族が関わってるから、こっちも領主が出る、ってか。
難しい話になりそうだな……貴族って面倒くせえ。
俺の考えが顔に出てたのか、ベルナールが顔をずいっと近づけてきて口を開いた。
「オメエも無関係じゃねえかもしれねえんだ」
「は? 何が?」
「ロウブロー子爵にはレオやマリアも絡むネイビスの件や狼獣人ファーガスの一連の事件に名が挙がっている」
「“帝国”の?!」
帝国の屋敷から見つけた資料からは、直接『ロウブロー』の名前は出て来なかったらしいけど、名前の出てた商人や仲介組織に厳しく当たっていくと、多くがロウブロー子爵に行き着いたらしい。
それに、ファーガス……連行されてから、約束通り正直に吐いたんだな。
「もしかすればハイ・ゴブリンの件にも、ロウブロー子爵が一枚噛んでるかもしれねえ」
――いや、それは俺なんだよ……言わねえけど。
「この件があった上に、今回の複数の冒険者消息不明、だ。エトムント様は憂慮を深めていらっしゃる」
ベルナールは眼光鋭くそこまで言うと、テーブルをひと叩きして立ち上がり――。
「つーわけで、明日の朝一に馬を飛ばして、ひとまずオクテュスまで行くぞお前ら!」
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