【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅「私だけが知らない」発売中

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395.二階から庭作りを楽しむ

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 本職の作業風景に、レオンは夢中だった。バルコニーに足を崩してぺたんと座り、右や左に忙しく顔を向ける。これは服も汚れるし、座った足も疲れそうね。

 以前、敷地内のピクニックで使った絨毯を運んでもらった。小さめの絨毯なので、侍従二人で足りる。レオンを呼び寄せ、敷いた絨毯に下ろした。さっと靴を脱がせて、お尻を押して促す。

「もうぃい?」

「ええ、この絨毯の上にいてね」

「あい!」

 この頃、お返事がよくなったわ。誰の影響かしらね。日差しを遮る屋根のないバルコニーは、眠りへ誘われる。いい天気だった。台風が通ってから、天候は落ち着いている。

 もうすぐ暑くなるから、と薄手の服が用意され始めた。前世の衣替えを思い出す。レオンの半袖に、短めの半ズボンはどうかしら。代わりに膝の上までソックスで覆うの。あれこれ考えると楽しくなってきた。

「おかぁしゃま。あれ!」

「どれかしら、教えて頂戴」

 近づいて靴を脱ぎ、絨毯に座る。立ってレオンを抱いた方が良く見えるけれど、この隙間から見えるのが楽しい。子供のうちは特にそうよね。自分だけの秘密を、こっそり共有したくなる。

 一緒に覗いた先で、倒木の根を抜いていた。てこの原理を使い、抉るように根を持ち上げる。数人がかりの大作業だった。見習いの少年が、駆け回って細い根を切る。そのたびにプチッと音がした。

 まだ生きている根を掘り起こすのは可哀想だけれど、残しておいても邪魔なだけ。徐々に根が横向きになり、ついに転がった。

「うわっ、すごぉ」

「ええ、凄いわね。素敵な秘密をありがとう、レオン」

 笑顔で頷くレオンは、すぐに視線を作業へ戻した。一度切った細い根も、スコップ片手に丁寧に抜いていく。その作業の細かさに、こだわりを感じた。

「奥様、図面をご覧になりますか?」

 澄まし顔のフランクに、私は何食わぬ様子で頷いた。いつまでも照れていられないわ。絨毯の上から長椅子に戻り、お茶のカップを避けて図面が広げられた。興味を持ったのか、レオンも走ってくる。

 新しい庭の設計図らしい。平面図……というやつね。庭を上から俯瞰した感じの絵に、レオンは指を差した。

「これ、ぼく?」

「ちょっと違うわ。ここね」

 屋敷を示す四角いマークの中央辺りを示す。首を傾げて、ここは? そこは? と次々に質問が飛んできた。フランクが応じて答え始め、真剣に話している。花を植える場所が増えているわ。それと、散歩道の形が変わった。

 家に住む主人が、二階から一階に降りたことで、低い目線の花を増やした。レオンが散歩するから、煉瓦道を延長する。手前に花を配置し、触れない位置に薔薇を下げ、高い花木で遠近感を出す。すごく考えられていた。

「おはな、ぼくも、する」

 ゆっくり区切って、レオンは綺麗に発音した。褒めて抱きしめて頬を寄せて、花を植える約束をする。散歩道の完成が、待ちきれないわね。
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