永遠の愛にはイロドリを

野村にれ

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「何かあったのでしょうか」
「フォスト侯爵家ともあろう者が、書類にずっと不備があるのに放置していると聞いてね。だったら、私がたまには王弟として、警告に来たのだよ」
「不備ですか?」

 キーラドは何の不備だろうか、隠すようなことはしておらず、キャローズのことはあったが、オディオンルイ殿下に咎められるようなことではない。

「ああ、心当たりがあるだろう?」
「…い、いえ、心当たりはありませんでして」

 何か疚しいことがあれば、言質を取ってやろうと、ルイはわざと問い掛けた。

「ない?それはおかしいな」
「申し訳ございません」

 キーラドはリーリアンとシルヴァルの方を見たが、二人も首を振った。

「はあ…チェルシー・トートレイのことを言えば分かるか?」
「え…チェルシーですか」

 契約結婚でも、結婚していることは咎められることではない。結婚式はしていないが、サインをしたと聞いていた。

 だが、シルヴァルはチェルシーの名前が出て、さらに嫌な汗が酷くなっていた。

 自身の作品に、意見したことを聞いたのだろうか。

 あまりにタイミングが良過ぎると焦っていた。

 もしくは珍しいギフトを持つ者は、王家に守られる…だが、どうして今になってと感じていた。

「ああ、なぜかね、シルヴァルと結婚の申請があってね」
「はい、実はシルヴァルはトートレイ伯爵家のチェルシーと結婚しておりまして」

 キーラドの言葉に、ルイの表情は鋭くなった。

「許可は出ていない」
「許可、が、出ていない?」
「シルヴァル、どういうことなの!」

 リーリアンは立ち上がって、シルヴァルを怒鳴り付けた。

「許可状が届いたか?」
「許可状?」
「まさか、届いていなかったのか…?」
「…届くのですか?」

 シルヴァルは結婚も初めてで、両親も側にいなかったことから、許可状というものが出ることも知らなかった。ゆえに、許可状など貰った覚えはない。

「ああ…何をしておるのだ。ちゃんと出しますので、申し訳ございませんでした」
「申し訳ございません」
「不備があると連絡をしても、何の反応もないと、困っておってな…まあこちらは連絡しているのだから、いいだろうとなっていたそうなんだよ」

 これは、ルイのデタラメであった。

 陛下が許可しないと止めているのだから、不備などの連絡すらしていない。だが、届いていなくともルイが連絡をしたと言えば、どうとでもなる。

 そもそも、結婚の許可状が届いていないことを聞いてこない時点で、フォスト侯爵家の落ち度でもある。

「だがね、リサール・トートレイの耳に入ってしまったようでね」

 リサールはチェルシーの弟であり、メイジーとは双子である。

 類まれなる頭脳と語学力を活かして、既に外交大臣補佐となっている。チェルシーは他国を飛び回っているリサールには、契約結婚のことを伝えていなかった。

 ちなみに父・リパートは面白がっており、母・ミリールは興味がないので一生知らない。メイジーはチェルシーが白と言えば白、黒と言えば黒なので、チェルシーが良いならいいという考えである。

 だが、お土産を山ほど抱えて、会いに来たリーサルに話すと、絵姿のことは何の問題もないが、契約結婚のことは怒られることになった。

 チェルシーにもキャローズと別れたという情報が入っており、そろそろ終わりだと言っても、さっさと縁を切るように言い出した。

 ルイに頼んでいるからと言ったことで、リサールはルイにもチェルシーは突拍子もないところがあるのに、どうして止めてくれなかったのかと言われることになり、ずっと持っていた不備を片手に動くことになった。

 メイジーもだが、リサールも強火のシスコンである。

 それも両親に代わって、面倒を看てくれたのはチェルシーであるので、当然と言えば当然である。

「申し訳ございません、ですが結婚式はしておりませんが、トートレイ伯爵に許可を得たと聞いております。どのような不備なのでしょうか」
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