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4 兄の葬式には出ません
しおりを挟む 遂に兄が亡くなった。その知らせを聞いた時、特に感慨は湧かなかったが来るべき時がやっと来たのだと思った。そうなるだろうという予感めいた確信は昔から家の誰もが持っていたのではないだろうか。享年、兄は25才だった。
うっすらと記憶に残る兄の姿は、父譲りの金色の巻毛に母譲りの鮮やかなエメラルドグリーンの大きな瞳。容姿は美しいが、常に体調が悪いためか不機嫌。僕に対しては自分のモノを奪う存在として敵視していた。
常に両親や使用人に大切にされていると、兄にとってはそれが当たり前。僕が自由にしていられるのは、両親が兄だけを大切にしているからだけど、そんな事は思いもしないんだろう。その自由が羨ましいし、健康なのは妬ましいらしい。
僕の存在自体が多分疎ましかったのだろう。有る事無い事捏造して僕を悪者に仕立て上げた張本人だったが、家から離れ、兄の側に寄らなくなってからは、どうにも出来なかったようだ。
人を憐れむのは好きじゃない。でも、兄のことは嫌いだったから仕方ない。
「可哀想なヤツだった」
そっと呟いた。
僕は王都の貴族学院にいて、家からの速達であらましを知ったが、特に帰りを急ぐつもりも無かった。
領地まで馬車で三日かかるが、葬式に出る気は無かったのだ。
それを知った時点で両親は激怒するだろうが。両親にも今後会う予定は無い。
貴族学院に入学してからは一度も家に帰っていない。帰って来いとも言われなかったし。夏休みだとか長期の休暇でも貴族学院の寮は申請すれば居ることが可能だった。また、仲の良い友人の領地やタウンハウスで過ごす事もあった。
家からの僕への一定額の小遣いは伯爵家という面子を守る程度に送金があったので、普通に学生生活を送れた。
来年の春には学院も卒業する。就職先は決めていた。内定も貰っている。出席日数と単位は取れているのでこれから学校を卒業まで休んだとしても何の問題もない。その事については聞かれもしないので、父親にも連絡していない。
父は、僕が兄の補佐に就く事を決定事項と思っている様だったので、敢えて反意は見せていない。貴族学院での自由な生活を失くしたくなかったから。
兄の訃報に関しても、普通なら、兄の後釜に座るべく、急いで帰途に着くのが当たり前なのだろうが、とうに僕は家督を継ぐという事に魅力を感じなくなっていた。さして言えば、僕をただのスペアから跡取りに簡単に変更出来ると思っている両親の驚く顔が見られないのが少し残念な気もしたけど。
それすらも、些細な事だと思える程に今は家の事も興味がうすれていた。
ふと、銀色に輝く尖塔が頭に浮かぶ。そう、銀の魔法省。
あの夏の日以前なら、到底考えられなかった選択肢だが、今の僕にはここに就職できるというのが今一番の楽しみだった。
魔力を持たない僕が魔力を手に入れた日。僕は魔法使いになると決めたのだ。
この世界で、魔法使いは希少な存在だ。魔力が強ければ強いほど、髪色は白く輝く白銀色になるらしい。瞳も銀に近づく。強い魔力で色が抜けてそうなるのだと言われている。
元々の僕の髪色は母譲りの栗色で、瞳は父親の紺碧色だったが、今は髪は銀髪。瞳は銀の混ざる水色になっている。家を出てから徐々に変化していった。
もしかすると、屋敷に帰ってもだれも僕だと気づかないかも知れない。
あの夏の日、僕は魔法使いになりたいと願い、従兄弟は自分の兄達の死を願った。
一生に一度、願いを叶えてもらえるとしたら、人は何を願うだろうか。
うっすらと記憶に残る兄の姿は、父譲りの金色の巻毛に母譲りの鮮やかなエメラルドグリーンの大きな瞳。容姿は美しいが、常に体調が悪いためか不機嫌。僕に対しては自分のモノを奪う存在として敵視していた。
常に両親や使用人に大切にされていると、兄にとってはそれが当たり前。僕が自由にしていられるのは、両親が兄だけを大切にしているからだけど、そんな事は思いもしないんだろう。その自由が羨ましいし、健康なのは妬ましいらしい。
僕の存在自体が多分疎ましかったのだろう。有る事無い事捏造して僕を悪者に仕立て上げた張本人だったが、家から離れ、兄の側に寄らなくなってからは、どうにも出来なかったようだ。
人を憐れむのは好きじゃない。でも、兄のことは嫌いだったから仕方ない。
「可哀想なヤツだった」
そっと呟いた。
僕は王都の貴族学院にいて、家からの速達であらましを知ったが、特に帰りを急ぐつもりも無かった。
領地まで馬車で三日かかるが、葬式に出る気は無かったのだ。
それを知った時点で両親は激怒するだろうが。両親にも今後会う予定は無い。
貴族学院に入学してからは一度も家に帰っていない。帰って来いとも言われなかったし。夏休みだとか長期の休暇でも貴族学院の寮は申請すれば居ることが可能だった。また、仲の良い友人の領地やタウンハウスで過ごす事もあった。
家からの僕への一定額の小遣いは伯爵家という面子を守る程度に送金があったので、普通に学生生活を送れた。
来年の春には学院も卒業する。就職先は決めていた。内定も貰っている。出席日数と単位は取れているのでこれから学校を卒業まで休んだとしても何の問題もない。その事については聞かれもしないので、父親にも連絡していない。
父は、僕が兄の補佐に就く事を決定事項と思っている様だったので、敢えて反意は見せていない。貴族学院での自由な生活を失くしたくなかったから。
兄の訃報に関しても、普通なら、兄の後釜に座るべく、急いで帰途に着くのが当たり前なのだろうが、とうに僕は家督を継ぐという事に魅力を感じなくなっていた。さして言えば、僕をただのスペアから跡取りに簡単に変更出来ると思っている両親の驚く顔が見られないのが少し残念な気もしたけど。
それすらも、些細な事だと思える程に今は家の事も興味がうすれていた。
ふと、銀色に輝く尖塔が頭に浮かぶ。そう、銀の魔法省。
あの夏の日以前なら、到底考えられなかった選択肢だが、今の僕にはここに就職できるというのが今一番の楽しみだった。
魔力を持たない僕が魔力を手に入れた日。僕は魔法使いになると決めたのだ。
この世界で、魔法使いは希少な存在だ。魔力が強ければ強いほど、髪色は白く輝く白銀色になるらしい。瞳も銀に近づく。強い魔力で色が抜けてそうなるのだと言われている。
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もしかすると、屋敷に帰ってもだれも僕だと気づかないかも知れない。
あの夏の日、僕は魔法使いになりたいと願い、従兄弟は自分の兄達の死を願った。
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