なぎさくん。

待永 晄愛

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なぎさくん、どうしたの?

規則

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30人いる教室で男子は17人。

女子は13人、私を抜いて12人。

そのみんなが田中くんを恋愛的に好きってわけじゃないけれど、誰にでも優しいから王子様的存在で抜け駆けはしないという謎の暗黙ルールが出来た。

それが出来たのは中学生になる前の小学5年生。

恋愛漫画が流行ったあの時から主人公が恋する王子系の男子に勝手になった田中くんは中学生になったらしっかりと身長が伸びて頭がいい。

しかも、こちらもいいところの坊ちゃんだから田舎町で生まれた男の子には珍しいピアノを習っていて芸術的にも好かれるものがある。

こんな完璧男、好きになるのが確実だけど完璧過ぎて人形みたい。

そう思うから私は幼馴染と呼ばれる時代からの知り合いでも、喋った事があるのは班や係が同じになった時くらい。

だからみんなから狙われる事がなかったのに。

私は目の前でコーンスープを入れるお皿に消しかすを入れられたまま給食を渡されてしまい、手がつけられずただビニールで守られていたミルクパンを食べて時間を過ごす。

けど、チラチラとこちらを見て笑う女子に私は今にも逃げ出したくなる。

乙武「おかわりしたい奴、あと10分で終わるからさっさと取れよー。」

と、乙武先生は鍋やバットの中身を見て自分の分を取り、用意された私とは別の班の席に戻っていった。

「冷凍みかん、じゃんけんしよー。」

そう言って私の隣にいた女子が私のトレイから安全だったみかんを奪い、バットの中で余っていたものと混ぜてしまった。

…これ、今日からターゲットだ。

私は夏休み前から地獄が始まったと確信し、一度床に落とされてしまった魚のソテーを食べるか迷っていると目の前で静かに冷凍みかん以外の物を食べ終えていた渚くんがおかわりに向かった。

初めておかわりするとこ見たかも。

そんな些細のことにびっくりして自分のことそっちのけで渚くんを見ていると、渚くんは新しいお皿にサラダとソテー、コーンスープを持って帰ってきた。

あと10分でもう一食分食べるの?

成長期の男子ってすご。

そう思っていると、突然私のお皿に手を伸ばした渚くんは自分が持ってきたおかわり分の食事を交換して食べ始めた。

苺「…なんで?」

渚「嫌いでも食べないと。温かい方が美味しいよ。」

苺「でも…」

渚「これいらないからあげる。」

と、渚くんは自分の冷凍みかんも差し出してきた。

苺「けど、それ…」

私は汚い物をどんどん胃に入れる渚くんにさすがに消しかすを食べて欲しくなくて本当のことを言おうとすると、渚くんは浮いていた消しカスを気にすることなくスープを一気に飲み干してしまった。

それからも給食の嫌がらせを交換してしまう渚くんは死んだ蚊が乗っているあんかけそばをバリバリ食べて隣の女子も私もドン引きさせた。

けど、渚くんはどんなに汚いものが入っていても胃を痛めることなく私の隣に毎日いる。

前に入院していたのは夏風邪を拗らせたのか、ちょっとした怪我だったのか、分からないけれど内臓は元気みたい。

しかも変わらず私に接してくれる。

ただそれだけが嬉しい私は友達だった恵奈に無視されるようになっても、学校に来れた。

渚くんが隣に座ってくれているだけで十分な私はあと1週間で始まる夏休みをどう過ごそうか、1人の時間考えていると帰りのHRを始めにやってきた乙武先生に声をかけられた。

乙武「このあと時間あるか?」

その言葉に私は首を傾げて答えると、乙武先生は少し話たいことがあると言って恵奈の名前をボソっと呟いた。

きっと、いじめのことに関して聞きたいんだろう。

私はしっかりと担任をこなそうとする乙武先生に頷き、進路説明を受けるという体で乙武先生に待ち合わせと言われた多目的室に行った。




待永 晄愛/なぎさくん。
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