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最強の妖魔退魔師編
2013.新たな展望を見据える者
しおりを挟む シゲンとソフィが地上へと戻って来た後、魔神の必死の尽力もあり、無残な姿となり果てていた特務施設の訓練場は、ようやく元の状態にまで修復が行われたのだった。
『力の魔神』の固有結界によってこの場の出来事は、事情を知らされていない者達には一切知る由もないが、それでも一部の『魔』の理解者達は、すでに『結界』の内側の出来事を察知している事だろう。
それでも魔神の『固有結界』の内側へ入るには、それ相応の『魔力』が必要となる為、最初から入り込んでいたイツキ以外の乱入者は、シゲンの力試しが終わるか、ソフィが解除を魔神に告げるまでは現れない筈である。
…………
「クックック、見事だ……!」
そしてソフィは地上まで駆け上がってきたシゲンに斬られた両腕を完全に再生させた後、無事に何事もなく帰還を果たしたシゲンにそう告げるのだった。
確かにこのシゲンとの立ち回りでソフィは、魔法使いとしての戦い方を一切行ってはいないが、それでもそれ以外の部分では間違いなくこの形態で最善の戦い方を行った上で、シゲンはあの状況から見事に脱却を果たして見せたのである。
ソフィはシゲンが自分の力量を確かめたいと告げた心情、それをこの瞬間に理解するのだった。間違いなく、ソフィの元の世界である『アレルバレル』の『魔界』であっても、このシゲンであれば当時のソフィと同じ心境を抱いていた事だろう。
もちろん一癖も二癖もある『ディアトロス』や『エヴィ』といった『大魔王最上位』勢の魔族達が相手となれば、その『魔』の概念領域の奥深さの前に、難しい戦局を選ばされただろうが、それでもこのシゲンであれば、充分に最強の人間として、あの『魔境』の世界で一時代を築けたであろう事は想像に難しくない。
アレルバレルの世界の『人間界』から選出される歴代の『勇者』達と比べても、間違いなく『シゲン』は最強の剣士を名乗れた事だろう。
ソフィは先程のやり取りを思い出して、シゲンの消えたように思える身体の動きや剣撃に加えて、何よりあの足場すらなく、ソフィの手の上で転がされている状況の中、咄嗟の機転で『魔神』の『結界』を利用した挙句に、ソフィの追撃を見事に躱した上でこの場に無傷で戻ってきたシゲンに、文句の付けどころもないとばかりに褒めるのだった。
しかしソフィから褒められた当の本人であるシゲンは、先程急遽生まれた『挑む相手』と捉えた時のソフィに対して、その自分自身の戦いぶりに不満を抱いている様子であった。
元々最初はソフィからの反撃などは考えておらず、あの王琳と激闘を行って見せていたソフィに対して、現段階の力量で、どれ程の差があるのかを測りたかったというのが本音だった。
つまりソフィが興に乗った事で、攻撃を仕掛けてきた事に関しては不満どころか、むしろ好都合な事だったと、シゲンは考えたのだが、彼が僅かながらに不満を表に出している理由とは、その先程の戦いの内容が原因だった。
(自分の事を『魔族』だと言っていたソフィ殿の身体は、別に『鬼人』の皮膚のように固いというわけでもなく、俺の力でもあっさりと斬る事自体は出来た。そこは概ね予想通りではあったが、問題はその後だ……)
これまでシゲンが戦い勝利を行ってきた妖魔達との一戦では、相手の腕や胴体を斬った時点で勝負が決まっていた。当然生物である以上は、急所となる箇所を突いたり、切断すれば絶命を果たすのは自然な事だった。
――それは生き物である以上は至極当然の事である。
しかしソフィという『魔族』は、如何に腕を切り落とそうが、飛ばした箇所を即座に再生したかと思えば、何事もなかったかの如くあっさりと反撃を行ってくるのだ。
それでも一度目の時には驚きがあったシゲンだが、二度目以降は油断もせずにそういうモノだと認識して、ソフィの腕を切り飛ばしてはいた。
だが、ソフィの腕をいくら飛ばしたところで直ぐに再生される以上、仕留められるというビジョンが全く見えてこなかったのであった。
――それこそが、シゲンの抱いた不満の正体であった。
(いくら俺が今以上の力をつけたところで、斬った傍から再生をされる以上は、ソフィ殿を倒す事は叶わぬ……のか?)
これがまだ『鬼人』の持つ皮膚の固さが要因なのであったのならば、研鑽の積みようもあるというものだが、ソフィの身体自体は斬り飛ばす事が出来るのだ。刃が通らぬというわけでもなく、正常に斬れる以上はシゲンにはこれ以上はどうしようもない。
(試したいわけではないが、きっとソフィ殿は腕だけではなく、胴体を斬り飛ばしたところで再生されるのだろう。下手をすれば、頭や首を斬り飛ばしても何事もなく、瞬時に反撃を行ってきそうだ……)
あの王琳との戦いで何度か似たような展開があった事を思い出し、あながちそこまで間違ってはいないのではないかと、まさに生物としてどうなのだろうかという問題の理解に行き着くシゲンであった。
シゲンはその後、数秒間目を瞑りながら何かを考えていたが、再び目を開けた時に刀を鞘に納めるのだった。
「ソフィ殿、付き合ってもらって感謝する。勝負……、といっていいのかどうかは分からないが、ここで終わりにしてもらいたい」
「何……?」
この後もまだ続ける気であったソフィは、唐突に終わりを告げたシゲンに眉をひそめながら、驚きの声を上げるのだった。
「おかげで俺自身の力量というモノを理解出来た。これ以上はこの段階ではやれる事はないと判断した」
そう告げるシゲンの顔は、さっぱりしたものであり、先程まで浮かべていた重苦しい表情は綺麗に消え去っていた。
「お主が良いというのであれば我も構わぬが、良ければどういう結論に至ったのかを僅かにでも教えてもらえぬだろうか?」
本当はソフィ自身が続けたかったというのが本音ではあるが、これは王琳戦のように戦いを約束されたものではなく、あくまでシゲン自身が、自分の力量を試す為にソフィが協力するという体であった為、いくらソフィが続けたいと考えても強要する事は出来ないだろう。そもそもが反撃を行っていた時点で、おかしな話だったのかもしれないと、今更ながらに考えたソフィはそう言葉を続けたのだった。
「このままの方針では、俺の天井は近いと理解させてもらったのだ。強くなる為には別の手段を講じる必要性があると俺は理解した。その考えを持てただけでも今回は非常に実りのある結果になった。だからソフィ殿、貴方には感謝する」
そう言って再びソフィに礼を告げると、彼はそのまま深々と頭を下げたのだった。
……
……
……
『力の魔神』の固有結界によってこの場の出来事は、事情を知らされていない者達には一切知る由もないが、それでも一部の『魔』の理解者達は、すでに『結界』の内側の出来事を察知している事だろう。
それでも魔神の『固有結界』の内側へ入るには、それ相応の『魔力』が必要となる為、最初から入り込んでいたイツキ以外の乱入者は、シゲンの力試しが終わるか、ソフィが解除を魔神に告げるまでは現れない筈である。
…………
「クックック、見事だ……!」
そしてソフィは地上まで駆け上がってきたシゲンに斬られた両腕を完全に再生させた後、無事に何事もなく帰還を果たしたシゲンにそう告げるのだった。
確かにこのシゲンとの立ち回りでソフィは、魔法使いとしての戦い方を一切行ってはいないが、それでもそれ以外の部分では間違いなくこの形態で最善の戦い方を行った上で、シゲンはあの状況から見事に脱却を果たして見せたのである。
ソフィはシゲンが自分の力量を確かめたいと告げた心情、それをこの瞬間に理解するのだった。間違いなく、ソフィの元の世界である『アレルバレル』の『魔界』であっても、このシゲンであれば当時のソフィと同じ心境を抱いていた事だろう。
もちろん一癖も二癖もある『ディアトロス』や『エヴィ』といった『大魔王最上位』勢の魔族達が相手となれば、その『魔』の概念領域の奥深さの前に、難しい戦局を選ばされただろうが、それでもこのシゲンであれば、充分に最強の人間として、あの『魔境』の世界で一時代を築けたであろう事は想像に難しくない。
アレルバレルの世界の『人間界』から選出される歴代の『勇者』達と比べても、間違いなく『シゲン』は最強の剣士を名乗れた事だろう。
ソフィは先程のやり取りを思い出して、シゲンの消えたように思える身体の動きや剣撃に加えて、何よりあの足場すらなく、ソフィの手の上で転がされている状況の中、咄嗟の機転で『魔神』の『結界』を利用した挙句に、ソフィの追撃を見事に躱した上でこの場に無傷で戻ってきたシゲンに、文句の付けどころもないとばかりに褒めるのだった。
しかしソフィから褒められた当の本人であるシゲンは、先程急遽生まれた『挑む相手』と捉えた時のソフィに対して、その自分自身の戦いぶりに不満を抱いている様子であった。
元々最初はソフィからの反撃などは考えておらず、あの王琳と激闘を行って見せていたソフィに対して、現段階の力量で、どれ程の差があるのかを測りたかったというのが本音だった。
つまりソフィが興に乗った事で、攻撃を仕掛けてきた事に関しては不満どころか、むしろ好都合な事だったと、シゲンは考えたのだが、彼が僅かながらに不満を表に出している理由とは、その先程の戦いの内容が原因だった。
(自分の事を『魔族』だと言っていたソフィ殿の身体は、別に『鬼人』の皮膚のように固いというわけでもなく、俺の力でもあっさりと斬る事自体は出来た。そこは概ね予想通りではあったが、問題はその後だ……)
これまでシゲンが戦い勝利を行ってきた妖魔達との一戦では、相手の腕や胴体を斬った時点で勝負が決まっていた。当然生物である以上は、急所となる箇所を突いたり、切断すれば絶命を果たすのは自然な事だった。
――それは生き物である以上は至極当然の事である。
しかしソフィという『魔族』は、如何に腕を切り落とそうが、飛ばした箇所を即座に再生したかと思えば、何事もなかったかの如くあっさりと反撃を行ってくるのだ。
それでも一度目の時には驚きがあったシゲンだが、二度目以降は油断もせずにそういうモノだと認識して、ソフィの腕を切り飛ばしてはいた。
だが、ソフィの腕をいくら飛ばしたところで直ぐに再生される以上、仕留められるというビジョンが全く見えてこなかったのであった。
――それこそが、シゲンの抱いた不満の正体であった。
(いくら俺が今以上の力をつけたところで、斬った傍から再生をされる以上は、ソフィ殿を倒す事は叶わぬ……のか?)
これがまだ『鬼人』の持つ皮膚の固さが要因なのであったのならば、研鑽の積みようもあるというものだが、ソフィの身体自体は斬り飛ばす事が出来るのだ。刃が通らぬというわけでもなく、正常に斬れる以上はシゲンにはこれ以上はどうしようもない。
(試したいわけではないが、きっとソフィ殿は腕だけではなく、胴体を斬り飛ばしたところで再生されるのだろう。下手をすれば、頭や首を斬り飛ばしても何事もなく、瞬時に反撃を行ってきそうだ……)
あの王琳との戦いで何度か似たような展開があった事を思い出し、あながちそこまで間違ってはいないのではないかと、まさに生物としてどうなのだろうかという問題の理解に行き着くシゲンであった。
シゲンはその後、数秒間目を瞑りながら何かを考えていたが、再び目を開けた時に刀を鞘に納めるのだった。
「ソフィ殿、付き合ってもらって感謝する。勝負……、といっていいのかどうかは分からないが、ここで終わりにしてもらいたい」
「何……?」
この後もまだ続ける気であったソフィは、唐突に終わりを告げたシゲンに眉をひそめながら、驚きの声を上げるのだった。
「おかげで俺自身の力量というモノを理解出来た。これ以上はこの段階ではやれる事はないと判断した」
そう告げるシゲンの顔は、さっぱりしたものであり、先程まで浮かべていた重苦しい表情は綺麗に消え去っていた。
「お主が良いというのであれば我も構わぬが、良ければどういう結論に至ったのかを僅かにでも教えてもらえぬだろうか?」
本当はソフィ自身が続けたかったというのが本音ではあるが、これは王琳戦のように戦いを約束されたものではなく、あくまでシゲン自身が、自分の力量を試す為にソフィが協力するという体であった為、いくらソフィが続けたいと考えても強要する事は出来ないだろう。そもそもが反撃を行っていた時点で、おかしな話だったのかもしれないと、今更ながらに考えたソフィはそう言葉を続けたのだった。
「このままの方針では、俺の天井は近いと理解させてもらったのだ。強くなる為には別の手段を講じる必要性があると俺は理解した。その考えを持てただけでも今回は非常に実りのある結果になった。だからソフィ殿、貴方には感謝する」
そう言って再びソフィに礼を告げると、彼はそのまま深々と頭を下げたのだった。
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