拝啓、くそったれな神様へ

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繰り返しの世界

とある悪逆貴族の独白6

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ソフィアから婚約破棄を告げられて1週間がたった。




が、俺の待遇はいつもと変わることなく、相変わらず嫌がらせを受けてはやり返し、やり返しては嫌がらせを受けるというそんな日々がずっと続いていた。
そんな何一つ変わらない日々にいい加減辟易としていた。




――――――――――――――――――――――





婚約破棄をしたいと告げられたあの後、家に帰ってすぐ父に婚約の旨を伝える。
政略的な目的ではなくて、友好のための婚約だったから政治的にはなにも問題ないはず、と思い、父の反応を待つ。

俺の言葉を筆を動かしながら聞いた後、
父はただ一言、

「……そうか………」

と呟いた。
何かを書いていた手を止めて書類を隅におき、やけに綺麗な便箋を机から出してまた何かを書き始める。
きっとソフィアの両親に手紙を書いているのだろう。
冷めていた目がさらに冷たくなっているような気がしたが気づかないふりをした。

カリ、カリ、カリ、とペンが走る音を聞きながら、執事にテーブルへと促され、出された紅茶を飲む。

大好きなレモンティー。母が大好きだった紅茶。

これを飲むといつも心が落ち着き、大好きな母を思い出すことができる。


そして、あの日起こった悲劇も。



パタン、とペンを置く音にハッとし顔をあげ、父と目が合う。


少し目尻にシワがあり、目の下にはクマがあるが父の顔は眉目秀麗だ。悪逆貴族と呼ばれていなければ婦人たちからは今もモテモテだっただろう。

そうして、思い出す。

悪逆貴族と呼ばれる前は積極的に舞踏会や大きなパーティーに参加していたが、その度に婦人達に囲まれてよくアプローチをかけられていた。

婦人達のいきおいに女慣れしていない父は固まってしまってその場から動けなくなっていたのを母が助ける。
全く、あなたってば、と目をつりあげ、頬を赤く膨らまして父の頬をつねる。

もはやお決まりの光景だったが今はもう決して見れることはない。



「…お前はこれでいいのか?」


気遣うように、優しい目で、優しい声音で俺に尋ねてくる。


相変わらず父は俺にとても優しくて甘い。

きっと学校での俺の悪行や他生徒に対する傲慢な振る舞いも父の耳に入っているのだろう。
それでも何も言ってこずに毎日父は優しく俺を迎えてくれる。
俺の行動に意味があると、信じているんだ。

父の優しさと信頼を改めて実感し、思わず口角が上がる。
母が死んだ日から人が変わったように冷たい人になったが俺への態度は以前と変わらないままだ。



「いいんですよ。元々そんなに好きじゃなかった。」

父を安心させるように、余裕のある笑みで答える。


「…そうか。……まぁ、私は最初からあの子はお前には相応しくないとは思っていた。あの子とお前じゃ、格が違いすぎるからな。あの子に比べたらお前は……」

「俺は優秀すぎる、ですか?」

「……あぁ、お前が優秀すぎるな。比べものにならん。」



フフ、と口角を上げて笑う父に一瞬目を丸くしてしまったが、久しぶりにみる父の笑い顔に嬉しくなってつられて一緒に笑う。
ずっと、この時間が続けばいいのに、と思いながら、その日は夜遅くまで談笑したのだった。




こうして俺とソフィアの婚約はいとも簡単にあっさりと、解消できた。

婚約破棄を告げられて、1週間後のことだった。




―――――――――――――――――――――




「よかったねぇ!ソフィア!!悪逆貴族からの解放ー!!今日はお祝いだ!!」

「そんな、大袈裟だよ。それに解放だなんて…私にも悪いところがあったし…」

「んもぅ~!!ソフィアは優しいんだからぁ!!そんな謙虚にならなくてもいいのにっ!!」


今日も今日とて嫌がらせされたのでやり返していたらそんな会話が聞こえた。
全く下品な声だ、と思いながら床と接吻している男子生徒に八つ当たりをするように足蹴りをする。

全く、いつまでこんな日が続くんだ、このつまらない日々が。

自分の悪行だけが学校どころか国中にも広まり、父もますます肩身が狭くなり動きにくくなっている。

父の仕事を助けて安心して跡を継ぐために学校へ学びに行ってるのに今のこの評価では助けどころか足を引っ張ってる。


本気でもう学校を辞めて家庭教師を雇って家で勉強した方がいいんじゃないかと考えた時、


フ、と疑問が浮かんだ。


俺の悪行だけが、学校どころか国中に広まっている?
俺が受けている嫌がらせは??


なぜ、俺の悪行だけが広まっている?


俺の悪行だけが学校中、国中に広まり、俺が学校の奴らから嫌がらせを受けていることは広まってないのは何故だ?


思えばこの学校に入学した時から少しおかしかった。
入学してまもないのに生徒のみんなはもうすでに父の領地でのひどい振る舞いを知っていた。
領民に裏切られ、母を亡くした悲劇なんてなかったかのように、父の恐怖政治だけが学校中に広まっていたのだ。



なぜ、疑問に思わなかったのだろう


心臓がドクドクと速くなる。



思えば思うだけ、おかしいところが次々と浮かんでくる。



そうだ、あの優しい父だ。父の行動もおかしい。



俺の学校での情報を知っているなら、学校の奴らに嫌がらせを受けているのも知っているはずだ。
なのに父は何も言わなかったし、何も行動しなかった。
俺が嫌がらせを受けているのに、何も行動しないわけがない。
と、いうことは、誰かがその情報を意図的に伝えてない、という事になる。

悪い情報だけ伝えるということは、俺と父を引き離すことが目的だろう。
まぁ、これは父が思ったよりも俺をゲロ甘に溺愛しているから意味ないものとなったが……



そうして考えて出た答えは1つだ。


―――――誰かが俺たちアストロ家を貶めて没落するのを狙っている。―――――




気づいた時はゾッとした。

もしかしたら、この計画は俺が入学する前から練られていたかもしれない。
いや、もしかしたらそれよりもずっと、ずっと前から。

そうだ、今思えば、あの日も、母上が殺された、あの日の出来事もすべて計画されたものだったら?

暴動が起こった日
この時にはもうすでに俺たちの没落を狙って計画が動きだしていたのかもしれない……!!



気づいたら走り出していた。
この事を、いち早く父に伝える為に、
手遅れになる前に、1秒でも早く手をうって対処をしなければ俺たちの未来がない。


早く、父上に伝え――――


『なぁ~んだ。気づいちゃったかぁ~。』



廊下を抜け、校舎から出ようとした時、老人の萎れた声と子供の高い声が混ざり合ったような気持ちの悪い声がした。



『でも、もう遅いよ。君たちはもう終わりだ。』



トス、と首になにか突き刺さるような鈍い痛みが走る。

その瞬間、目の前の景色が虹色になり、視界がグルグルと回り始めた。

立っていることが困難になり、膝から崩れ落ちる。
身体中が痛い。肉が、骨が軋む感覚がし、なんとも言えない不快感が身体全体を襲う。
次に、バラバラバラッと音がした。
まだ目がまわり、赤く染まった視界で見えたものは、抜け落ちた自分の歯だった。
驚き、口の中を確認しようとした時には歯が生える気持ち悪い感覚が襲ってきた。


自分の身体に何が起こっているのか、身体中の痛みに混乱している中、



『おめでとうっ!!今日が君の誕生日だよ!!!』



あの気色の悪い声を最後に俺の意識はプツっと消えた。




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