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本編
俺が王様の話を聞く話2
しおりを挟む「あの魔王討伐から40年近く経った。魔物が活性化の兆しが見えてきた時、まだ幼いエルンストとジークハロルドと初めて会った時に、勇者達だとすぐにわかった。でも、あの時と同じ瞳だった。しかしな、あの宿で晩餐を同席した時に、瞳が活き活きとしていた。誰が、何が勇者達を変えてくれたのか不思議だった。……其方が甘味を給仕に来たときにわかった。ユーリが変えてくれたのだと。」
「…俺はただ料理を作っているだけで。」
「その料理が美味いのだ。いや、美味いだけでない。食べる人を想って作ってくれている。…そこには愛情だとかあるんだろう。」
「……ソウデスネ。」
やっぱり王様には筒抜けなんだな。
「同じ工程で調理をしても、やっぱり人によっては、味に違いがでる。熟練と若手では全く違うモノになる。このお茶漬けも、ユーリと料理長では、違う味になると思う。」
「まぁ、そうなるかな。出汁の取り方、魚の焼き加減は、同じようにやっても人が違えば変わるね。」
「…だがな、勇者達はずっと勇者達のままなのだ。肉体は変わっても、魂は変わらない。料理人なら、何度も同じ味を再現できるだろう。だが、そこで成長が止まったままなんじゃ。」
王様がぐっと拳を握る。
王様の歯痒い思いが伝わる。
手助けしたいけど、どうしたらいいかわからない。
エル達はレベルがカンストしても、限界突破ができなかった。
だから、何度も眠りにつかせても、倒すことができないでいた。
王様もエル達には死なないで済む方法、魔王を倒す方法を模索していたのかもしれない。
王様は、自分の子でも親族でもないのに、こうして気にはしていたんだろう。
「ユーリと出逢って変わった。話によれば、魔力量が増えたと聞いた。でも、それだけではない。心がな、また成長しだしたと思えるんじゃ。エルンスト達は、良い出会いをしたもんじゃ。」
「…俺はそうやって心配してくれる人がいることが、良い出会いで、幸せだと思うよ。やっぱり王様は良い王様だ。」
「ほぉ、そうか。」
「為政者になれば、全体を見なきゃいけない。個々なんて気にしていられない。それでも、王様はこうして気にはしてくれる。エル達にとっては、親や家族ですら、心配なんてしてもらえないから、それで十分だと思うよ。…ねぇ、ナイフを出していい?」
護衛騎士に一応確認を取る。
俺は料理人だから、包丁やナイフで人を傷つける気はない。
頷いてくれたので、アイテムボックスからリンゴとナイフと皿を取り出す。
リンゴを八等分に切る。芯部分を取り除き、皮は剥かず、木の葉や市松模様に飾り切りをする。
王様も護衛騎士も、『ほぉ』と感嘆の声を上げる。
「食後の果物です。見た目は違うけど、元は同じリンゴ。エル達もそう。お、私たちも思い出さないだけで、前世、誰かに会っているのかもしれない。見た目が違うけど、魂は同じだから。覚えているなら、最初に魔王を倒したい気持ちを思い出させたかった。思い出したら、やる気がでるでしょ?」
「…やはり、エルンスト達には良い出会いであったな。うむ、リンゴだな。」
王様はシャクシャクと食べる。
俺もウサギさんリンゴを食べる。
「みんな、難しく考え過ぎなんだ。単純でいいんだよ。」
「皆がユーリみたいに単純だと楽なんだがな。」
「ええ、なんか貶されている?」
「ん?」
「……。ま、いっか。頭の出来は王様に比べたら悪いのはわかっているし。食べ終わったし、俺は片付けてきます。王様、話してくれてありがとうございました。」
「なに、食事中の世間話にしか過ぎん。こちらこそ馳走になった。」
「お粗末様でした。」
「また頼む。」
「はい、是非!」
またなんて何時になるかわからない。
もしかしたら、もう二度と会わないのかもしれない。
でも、王様が王様であるなら、俺は王様のためだけに心を込めて料理を作りたいと思った。
「…俺はただ料理を作っているだけで。」
「その料理が美味いのだ。いや、美味いだけでない。食べる人を想って作ってくれている。…そこには愛情だとかあるんだろう。」
「……ソウデスネ。」
やっぱり王様には筒抜けなんだな。
「同じ工程で調理をしても、やっぱり人によっては、味に違いがでる。熟練と若手では全く違うモノになる。このお茶漬けも、ユーリと料理長では、違う味になると思う。」
「まぁ、そうなるかな。出汁の取り方、魚の焼き加減は、同じようにやっても人が違えば変わるね。」
「…だがな、勇者達はずっと勇者達のままなのだ。肉体は変わっても、魂は変わらない。料理人なら、何度も同じ味を再現できるだろう。だが、そこで成長が止まったままなんじゃ。」
王様がぐっと拳を握る。
王様の歯痒い思いが伝わる。
手助けしたいけど、どうしたらいいかわからない。
エル達はレベルがカンストしても、限界突破ができなかった。
だから、何度も眠りにつかせても、倒すことができないでいた。
王様もエル達には死なないで済む方法、魔王を倒す方法を模索していたのかもしれない。
王様は、自分の子でも親族でもないのに、こうして気にはしていたんだろう。
「ユーリと出逢って変わった。話によれば、魔力量が増えたと聞いた。でも、それだけではない。心がな、また成長しだしたと思えるんじゃ。エルンスト達は、良い出会いをしたもんじゃ。」
「…俺はそうやって心配してくれる人がいることが、良い出会いで、幸せだと思うよ。やっぱり王様は良い王様だ。」
「ほぉ、そうか。」
「為政者になれば、全体を見なきゃいけない。個々なんて気にしていられない。それでも、王様はこうして気にはしてくれる。エル達にとっては、親や家族ですら、心配なんてしてもらえないから、それで十分だと思うよ。…ねぇ、ナイフを出していい?」
護衛騎士に一応確認を取る。
俺は料理人だから、包丁やナイフで人を傷つける気はない。
頷いてくれたので、アイテムボックスからリンゴとナイフと皿を取り出す。
リンゴを八等分に切る。芯部分を取り除き、皮は剥かず、木の葉や市松模様に飾り切りをする。
王様も護衛騎士も、『ほぉ』と感嘆の声を上げる。
「食後の果物です。見た目は違うけど、元は同じリンゴ。エル達もそう。お、私たちも思い出さないだけで、前世、誰かに会っているのかもしれない。見た目が違うけど、魂は同じだから。覚えているなら、最初に魔王を倒したい気持ちを思い出させたかった。思い出したら、やる気がでるでしょ?」
「…やはり、エルンスト達には良い出会いであったな。うむ、リンゴだな。」
王様はシャクシャクと食べる。
俺もウサギさんリンゴを食べる。
「みんな、難しく考え過ぎなんだ。単純でいいんだよ。」
「皆がユーリみたいに単純だと楽なんだがな。」
「ええ、なんか貶されている?」
「ん?」
「……。ま、いっか。頭の出来は王様に比べたら悪いのはわかっているし。食べ終わったし、俺は片付けてきます。王様、話してくれてありがとうございました。」
「なに、食事中の世間話にしか過ぎん。こちらこそ馳走になった。」
「お粗末様でした。」
「また頼む。」
「はい、是非!」
またなんて何時になるかわからない。
もしかしたら、もう二度と会わないのかもしれない。
でも、王様が王様であるなら、俺は王様のためだけに心を込めて料理を作りたいと思った。
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