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第11章 船出
第72話 身を守る術
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第72話 身を守る術
船に乗って5日間。
僕とミレーヌはフェリシアに異国の言葉を教わっている。
クシャナさんとパホさんと簡単な会話も出来るようになった。
船の上というのは船員以外暇なもので、散歩も甲板の上でしか出来ないし周りは船員が忙しく働いているので邪魔にもなる。
船員は風向きによって帆を張ったりマストの方角を変えたりと忙しい。
風は追い風とはいえ最適の風を捕まえないと速度が維持できない。
潮の流れもあるのでそれに合わせて舵を切ったり戻したりと船員には休む間もないほど忙しそうだった。
そんな事もあって僕とミレーヌは船室でフェリシアに言葉を教わったり、フェリシアに通訳して貰いながら異国の話を聞いている。
クシャナさんの住む国は島が多く農業に適さないから、最初は島に生えている木材を輸出する貿易から別の国で仕入れた品を別の国に転売するという交易国になったそうだ。
木材は高温多湿な島ではよく育つので輸出に回す余裕があるので、その木材を使って船を作っているらしい。
流石に僕達が乗っているサ・セント号という高速帆船ほど大きくは無いけど十分外洋を航行できる船だそうだ。
パホさんの国は内陸部から宝石や金を運んできて交易しているらしい。
農業国でもあり食料に困らないからクシャナさんの国ほど盛んじゃないけど交易をおこなっている。
家は竹のような木を編んだ上に泥と土を塗って作っているらしく、暖かな気候で過ごしやすく風も良く通る土地に最適だそうだ。
また交易で手に入れた資金を使って図書館や学校が作られていて教育が盛んだという。
パホさんも海の暮らしでお金を貯めたら教師になりたいらしい。
クボハさんの国は森に覆われた熱い地方で香料や香辛料が盛んに取引されている。
僕達の国では高価な香辛料もクボハさんの国では安く手に入るらしい。
クボハさんはシャムド男爵と交渉して自分用に樽を一つ船に乗せる契約をしていた。
自分の国で購入した香辛料を僕達の住むフレーベル国に売りさばき、既に多額の資金を貯めている。
将来は自分の国の商館で自由に交易できるように船を買いたいそうだ。
「船があるとそんなに儲かるのですか?」
「儲かるよ。危険を考えても手を出さない理由にはならないな」
僕の質問にクボハさんは答えてくれる。
クボハさんはフレーベルの言葉も少し覚えているようで会話が出来る。
将来クボハさんは直接フレーベル国と交易したいようで、シャムド男爵の船に乗るのも航海の勉強をする為だ。
当然航海術にも明るい。
そんな会話をしていると他の護衛の男たちを忌々し気に見ていたシグレさんが流石に腹に据えかねたようだ。
彼らは起きて寝るまで酒を飲んでいる。
一応酔いつぶれる事はないようだが博打や酒に浸っているのでいざという時に戦えるのか不安だ。
「もう我慢ならん」
そう言って護衛の男たちの所へシグレさんが文句を言いに行こうとするのをセシルさんが止めた。
「まあまあ。あいつらだっていつ死ぬか不安なんだよ。だからああやって憂さを晴らしてるのさ。とは言っても酔っぱらって喧嘩でも始めたら困るね」
そう言ってセシルさんはクボハさんとクシャナさんとパホさんに笑いかける。
3人と他の7人の女性冒険者はセシルさんの言葉の意味が分かったのか頷いた。
「セシル。そういう事はやめるのではなかったのか?」
「ある程度は大目に見てよ。あたいだってすぐに品行方正になれる訳じゃないのさ」
「私は参加しないぞ」
「わかってるって。今夜はシグレと子供達は別の部屋に泊まるように手配して貰うよ。なんならユキナも参加するかい?」
「セシル!!」
「冗談だよ。そんな事したらミレーヌに切り殺されちまう」
セシルさんとシグレさんは何を言っているのだろう。
僕達の会話を聞いていた赤ら顔の傭兵が僕に酒臭い息を吐きながら大声で話し出す。
「坊主船に乗ったらいつ死ぬかわかんないからな。生きてるあいだに楽しめよ」
そう言って豪快に笑う。
流石に僕も何を言っているのかは理解したけど、まさか本気じゃないだろうとも思っている。
要するに今夜セシルさんとクボハさんとクシャナさんとパホさんと他の女性冒険者は傭兵や船員達と乱交パーティをするという事だ。
慌ててミレーヌとフェリシアを見ると二人とも顔を真っ赤にして俯いていた。
「下衆な連中だ。性欲くらい抑えられないのか」
クヌートがそう吐き捨てるように言う。
そういえばハーフエルフのクヌートは性欲とかないのだろうか?
エルフは発情期にならないと性行為をしないというし、クヌートとフェリシアもそうなのだろう。
一緒の宿に泊まってる時は毎夜求めあう僕とミレーヌも下衆に入るのだろうか。
クヌートに聞くのは怖いからやめておこう。
◆◆◆
その夜の食事は船長のジョルジュさんの計らいで豪華な食事になった。
まだ港を出て5日しか経っていないので新鮮な野菜や果物、乾燥したり塩漬けしたりしていない肉。
時々釣れる魚などが並ぶ。
味は貴重な香辛料が使われており臭みも無い。
「ま、船長として船員の不満は悩みの種だろうからね」
そう言ってセシルさんはハンバーグをナイフとフォークで切り分けて食べている。
シグレさんとクヌートは呆れるような怒ったような顔をしていて、僕とミレーヌとフェリシアは赤面したままだ。
つまり今夜行われる乱交パーティの報酬という事だろう。
船員達は酒に酔っていて性欲に飢えた目を誤魔化そうともしていない。
「ミレーヌもユキナもこういうの嫌いかい?」
「セシルさん。僕達がこういうの好きだと思いますか?」
「ボクもユキナと同意見です」
セシルさんに僕とミレーヌは小声で答える。
僕達の返事に満足そうに大きく頷いてハンバーグをワインで豪華な夕食を堪能しているセシルさんだ。
「まあそうだろうね。でもさ、ここは海の上なんだよ。怪物や海賊に襲われたら逃げ場所なんてない。沈む船と一緒に沈むあいつらの気持ちもわかってやってほしいな。陸に上がったら乱痴気騒ぎも出来るけどこれからずっと長い船旅だ。疲れも不満も溜まる。勢い余ってあたいらにレイプでもしてきたら死人が出るだろ?」
確かにミレーヌをレイプしようと襲い掛かってきたら僕は船員を斬るだろう。
人を殺すのはまだ慣れないけど場合による。
「だからさ。そういう事にならないように前もってこういうお祭りをする訳なんだよ。これも身を守る術ってやつさ」
そうなのかもしれない。
船員の生活は過酷で今夜みたいな食事は明日からは出ないだろう。
明日からは干し魚か干し肉に豆のスープと乾燥した果物と野菜という侘しい食生活が何日も続く。
魔法の冷蔵庫はあるがその中に入っている冷凍された肉や魚は船長や上級航海士用で一般の船員の口には入らないのだ。
壊血病という野菜や果物不足からくる死の病に対処する為定期的に果物が支給される程度。
ひたすら酒を飲んで憂さを晴らすしかない。
船の護衛に雇われる女性冒険者にとって自分の身体を差し出す事は身を守る為の行為なのだろう。
兎に角今夜は早く寝てしまおう。
そうでないとそんなに大きくない船内だから嬌声が筒抜けになって寝れなくなる。
悶々とした夜を過ごすのは健康的な僕には耐えがたい事になる。
船に乗って5日間。
僕とミレーヌはフェリシアに異国の言葉を教わっている。
クシャナさんとパホさんと簡単な会話も出来るようになった。
船の上というのは船員以外暇なもので、散歩も甲板の上でしか出来ないし周りは船員が忙しく働いているので邪魔にもなる。
船員は風向きによって帆を張ったりマストの方角を変えたりと忙しい。
風は追い風とはいえ最適の風を捕まえないと速度が維持できない。
潮の流れもあるのでそれに合わせて舵を切ったり戻したりと船員には休む間もないほど忙しそうだった。
そんな事もあって僕とミレーヌは船室でフェリシアに言葉を教わったり、フェリシアに通訳して貰いながら異国の話を聞いている。
クシャナさんの住む国は島が多く農業に適さないから、最初は島に生えている木材を輸出する貿易から別の国で仕入れた品を別の国に転売するという交易国になったそうだ。
木材は高温多湿な島ではよく育つので輸出に回す余裕があるので、その木材を使って船を作っているらしい。
流石に僕達が乗っているサ・セント号という高速帆船ほど大きくは無いけど十分外洋を航行できる船だそうだ。
パホさんの国は内陸部から宝石や金を運んできて交易しているらしい。
農業国でもあり食料に困らないからクシャナさんの国ほど盛んじゃないけど交易をおこなっている。
家は竹のような木を編んだ上に泥と土を塗って作っているらしく、暖かな気候で過ごしやすく風も良く通る土地に最適だそうだ。
また交易で手に入れた資金を使って図書館や学校が作られていて教育が盛んだという。
パホさんも海の暮らしでお金を貯めたら教師になりたいらしい。
クボハさんの国は森に覆われた熱い地方で香料や香辛料が盛んに取引されている。
僕達の国では高価な香辛料もクボハさんの国では安く手に入るらしい。
クボハさんはシャムド男爵と交渉して自分用に樽を一つ船に乗せる契約をしていた。
自分の国で購入した香辛料を僕達の住むフレーベル国に売りさばき、既に多額の資金を貯めている。
将来は自分の国の商館で自由に交易できるように船を買いたいそうだ。
「船があるとそんなに儲かるのですか?」
「儲かるよ。危険を考えても手を出さない理由にはならないな」
僕の質問にクボハさんは答えてくれる。
クボハさんはフレーベルの言葉も少し覚えているようで会話が出来る。
将来クボハさんは直接フレーベル国と交易したいようで、シャムド男爵の船に乗るのも航海の勉強をする為だ。
当然航海術にも明るい。
そんな会話をしていると他の護衛の男たちを忌々し気に見ていたシグレさんが流石に腹に据えかねたようだ。
彼らは起きて寝るまで酒を飲んでいる。
一応酔いつぶれる事はないようだが博打や酒に浸っているのでいざという時に戦えるのか不安だ。
「もう我慢ならん」
そう言って護衛の男たちの所へシグレさんが文句を言いに行こうとするのをセシルさんが止めた。
「まあまあ。あいつらだっていつ死ぬか不安なんだよ。だからああやって憂さを晴らしてるのさ。とは言っても酔っぱらって喧嘩でも始めたら困るね」
そう言ってセシルさんはクボハさんとクシャナさんとパホさんに笑いかける。
3人と他の7人の女性冒険者はセシルさんの言葉の意味が分かったのか頷いた。
「セシル。そういう事はやめるのではなかったのか?」
「ある程度は大目に見てよ。あたいだってすぐに品行方正になれる訳じゃないのさ」
「私は参加しないぞ」
「わかってるって。今夜はシグレと子供達は別の部屋に泊まるように手配して貰うよ。なんならユキナも参加するかい?」
「セシル!!」
「冗談だよ。そんな事したらミレーヌに切り殺されちまう」
セシルさんとシグレさんは何を言っているのだろう。
僕達の会話を聞いていた赤ら顔の傭兵が僕に酒臭い息を吐きながら大声で話し出す。
「坊主船に乗ったらいつ死ぬかわかんないからな。生きてるあいだに楽しめよ」
そう言って豪快に笑う。
流石に僕も何を言っているのかは理解したけど、まさか本気じゃないだろうとも思っている。
要するに今夜セシルさんとクボハさんとクシャナさんとパホさんと他の女性冒険者は傭兵や船員達と乱交パーティをするという事だ。
慌ててミレーヌとフェリシアを見ると二人とも顔を真っ赤にして俯いていた。
「下衆な連中だ。性欲くらい抑えられないのか」
クヌートがそう吐き捨てるように言う。
そういえばハーフエルフのクヌートは性欲とかないのだろうか?
エルフは発情期にならないと性行為をしないというし、クヌートとフェリシアもそうなのだろう。
一緒の宿に泊まってる時は毎夜求めあう僕とミレーヌも下衆に入るのだろうか。
クヌートに聞くのは怖いからやめておこう。
◆◆◆
その夜の食事は船長のジョルジュさんの計らいで豪華な食事になった。
まだ港を出て5日しか経っていないので新鮮な野菜や果物、乾燥したり塩漬けしたりしていない肉。
時々釣れる魚などが並ぶ。
味は貴重な香辛料が使われており臭みも無い。
「ま、船長として船員の不満は悩みの種だろうからね」
そう言ってセシルさんはハンバーグをナイフとフォークで切り分けて食べている。
シグレさんとクヌートは呆れるような怒ったような顔をしていて、僕とミレーヌとフェリシアは赤面したままだ。
つまり今夜行われる乱交パーティの報酬という事だろう。
船員達は酒に酔っていて性欲に飢えた目を誤魔化そうともしていない。
「ミレーヌもユキナもこういうの嫌いかい?」
「セシルさん。僕達がこういうの好きだと思いますか?」
「ボクもユキナと同意見です」
セシルさんに僕とミレーヌは小声で答える。
僕達の返事に満足そうに大きく頷いてハンバーグをワインで豪華な夕食を堪能しているセシルさんだ。
「まあそうだろうね。でもさ、ここは海の上なんだよ。怪物や海賊に襲われたら逃げ場所なんてない。沈む船と一緒に沈むあいつらの気持ちもわかってやってほしいな。陸に上がったら乱痴気騒ぎも出来るけどこれからずっと長い船旅だ。疲れも不満も溜まる。勢い余ってあたいらにレイプでもしてきたら死人が出るだろ?」
確かにミレーヌをレイプしようと襲い掛かってきたら僕は船員を斬るだろう。
人を殺すのはまだ慣れないけど場合による。
「だからさ。そういう事にならないように前もってこういうお祭りをする訳なんだよ。これも身を守る術ってやつさ」
そうなのかもしれない。
船員の生活は過酷で今夜みたいな食事は明日からは出ないだろう。
明日からは干し魚か干し肉に豆のスープと乾燥した果物と野菜という侘しい食生活が何日も続く。
魔法の冷蔵庫はあるがその中に入っている冷凍された肉や魚は船長や上級航海士用で一般の船員の口には入らないのだ。
壊血病という野菜や果物不足からくる死の病に対処する為定期的に果物が支給される程度。
ひたすら酒を飲んで憂さを晴らすしかない。
船の護衛に雇われる女性冒険者にとって自分の身体を差し出す事は身を守る為の行為なのだろう。
兎に角今夜は早く寝てしまおう。
そうでないとそんなに大きくない船内だから嬌声が筒抜けになって寝れなくなる。
悶々とした夜を過ごすのは健康的な僕には耐えがたい事になる。
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