ファンタジーはマジカルじゃない!

雉虎 悠雨

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another side ショートンの家 後編

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 だから僕はその本屋にまた行ってみた。今度はおつかいじゃなくて、自分が読めそうな本を探しに来た。僕は本は嫌いじゃないけど、読むのがとても遅くて、難しい本は途中で眠っちゃう。だけど、子供が読むような絵本はちょっとつまらないとも思う。
 でも本屋になんか来ないから本の探し方が分からない。
 これじゃあお嬢様と一緒で、オススメを店長さんに聞くしかないじゃないだろうか。でも、前も聞いて、でもあの本は全然読んでないし、本の名前も覚えてない。あの本たちの感想を聞かれても答えられない。
 折角薦めた本を読んでないのにまたオススメを聞くなんて失礼な気がする。
 仕方なく本棚の前で僕は目に付いた本を開いては戻してを繰り返して、なんとか読めそうな本を探していた。

「お困りかい?」

 見かねたのか、近くにいたお客の一人が心配そうに声をかけてきた。

「その、えーっと、本屋は慣れてなくて」
「なら、ケマルに聞くのが一番早い」
「ケマル?」
「おーい、この子に何か薦めてやって」

 そのお客はカウンターに向かって一声掛けてしまった。

「相変わらずチゲルさんは世話焼きだなー」
「性分だ」

 どうやらケマルとは店長さんの名前だったみたいだ。

「はい、はい。性分ね、それはもう仕方ないっすねー」

 わざとらしい言葉でそのお客の脇を通り過ぎて僕の前に来た。前回と変わらず飛び切りの笑顔ではないけど、柔らかい表情で僕を見る。

「いらっしゃい、どんなのをお探しですか」
「あ、いや、え、その、面白いの、が、いいっす」

 なんと、前回来たと思い出されるのが嫌で言葉がつられちゃった。
 それに、他に言えなかったのか僕! こういうセレクトの本屋は店主が面白いと思っているものを集めてるに違いないのに、そんな言い方しかできないなんて、僕ってやつは。もし前に来たことを覚えられていたら、あの本たちは面白くなかったってことになっちゃわないかな。

「面白いのかぁ。流行りのがいいとか、主人公はどれくらいの年齢層がいいとか、好きな世界観とかあるか?」
「えっ、えっと、そんなに、本読まない」
「じゃあ、それほど長くないのがいいか?」
「う、うん」

 この感じだと、もしかしたら僕のことを覚えてないのかもしれない。だったら少し僕の希望を言ってもいいかも。

「その、動物が出てるのがいい、っす」

 犬のような顔をしてる僕が動物が登場人物の本が好きなんて、笑われるかもしれない。でも僕は可愛い動物がほのぼの暮らしてたりする話が好きなんだからしょうがないじゃないか。冒険話もいいな。

「動物が活躍してるのがいいでやんす」

 別に僕はこういうしゃべり方をしているってわけじゃない。でも仲間にはいるから、聞きなれてる。だから前回来たのと別人になろるために咄嗟に、しゃべり方を変えていこうと決めた。よくゴブリンの顔は見分けがつかないとか、犬顔は似たようなのが多くてよく分からないとか言われるから、きっと気づかれないはずだ。

「いくつか出すから、そこでちょっと試し読みしていきな。気に入ったのがあれば是非ご購入をお願いします」
「あ、は、へい」
「まあ、なければ別にいいしな。もし、もっと違う感じのがいいとかあればいくらでも言ってくれて大丈夫だから」
「ありがとでやんす」

 店長さんは店の隅の椅子を勧めてくれて、そのあと五冊渡してくれた。
 少しずつ捲ると絵本と文字だけのと両方あった。まずは絵本の方からと思って、二冊あったうちから一冊取った。絵本の割には文字が多かったけど、難しい言葉はなかったから頑張って読めた。
 だから、うっかり時間が経っていた。

「あ、やば」

 どれくらいかは分からなかったけど、半分まで読み進めている手元の本を見てかなりじゃないかと思う。

「あ、あの、買います」

 キョロキョロと店の中を見ながら思わず声を出したら、店長さんが本棚からひょっこり顔を出してにこりと笑った。

「まいど」

 カウンターに案内されて、五冊とも買うつもりで自分の財布を覗いた。お嬢様に貰ったお金は半分は食料にしてみんなで食べたし、半分の半分は家の修理とか近くに住む赤ちゃんの服を買って、残りは一応へそくりとして隠してある。だから僕は相変わらずあまりお金を持っていない。
高かったらどうしようと不安に思いながらドキドキしていたら、店長さんはどれにするって聞いてくれた。

「全部買わなくてもいい、んっすか?」
「ん? そりゃ全部買ってもらえれば嬉しいけど、気に入ったのだけでいいよ。一応取り置きもできるし、読まない物を無理やり買わせたら、お客にも本にも悪いだろ」

 本もなんていうのはさすが本屋だな、と感心した。誰かの思いを書いたものだから、読んで初めて伝わるのだろうと僕はそう思った。

「読まれないと本を書いた人も悲しいですよね」

 けれど意外にも店長さんは首を傾げて少し眉間に皺を寄せた。

「いやー、それは分からん」
「へ?」
「作家もいろいろだからな、読んでもらいたいってのが大半だろうけど、売れるならなんでもいいってのもいれば、自分の書いた本を持っててもらうだけでもいいってのもいるらしいから」
「そうなんで……っすね。でも、本にも悪いってのは?」
「あー、それは俺の感覚っていうかな。本はページを捲られるように作られてるだろ。読むと自然と風通しもできるし、手垢も読み跡もつくけど、それが本来の姿だからさ。大事にされれば長持ちもするけど、好きな本ほどボロになっていくっていう矛盾もいいっていうか。ほら、ここにある物語たちなんかは知識のために読む本じゃなくて娯楽のためだろ。だからこそ、気に入ったのは何度だって読むだろうし、しばらく手に取らなくても自分の本棚にあるってのが心を満たす感覚? それでふとした時にまた読み返したり。でさ、子供の頃に読んでたのを大人になってからその本を懐かしんで読むとまた違う感情になったり。いらなくなったら売ってくれても全然良くて、それがまた別の人に届くってのが浪漫だと思うんだよな」

 思わず店主の心のなにかに触ってしまったみたい。
 でもなんかそれが僕には嬉しかった。どうしてだろう。
 それが分かりたくて僕はそれからも店長さんのところに通った。毎回は本は買えなかったけど、店長さんはそれにも嫌な顔はしなかった。

 毎日はとても忙しくなった。本も読むしお店にも通う、もちろん仕事も今まで通りしなくちゃいけなかったし、全然寝ないわけにもいかない。
 でもそれはすごく楽しい、今までにない日常で、僕は嫌だと思うどころか、もっともっとと思って毎日明日が来るのが楽しみで楽しみでしょうがなかった。

 けどある日、さすがに疲れが溜まっていたのか、お店中で選んでもらった本を読んでるつもりで眠っていた。店長さんはそんな僕をそのまま眠らせてくれて、起きたらおにぎりまでくれた。
 無理はするなよとは言ってくれたけど、それ以上は何も言わず何も聞かずにいてくれた。

 僕は少し仕事の効率をよくすることにした。もっともっとお店にいたかったから、雑用、御用聞きの仕事内容は変わらないけど、少しだけコネってやつを作るようにしたんだ。
 今までその日生活できればいいやってくらいの稼ぎしか興味はなかったから考えなかったんだけど、仕事ってのは意外と積み重ねって意味があることだって知った。そうすると僕みたいなのでも信用みたいのができて、少しいい仕事をくれたり紹介してくれたり。
 働く相手も場所もきちんと見極める。情報網の広い僕らだからきちんと考えれば危ない所は分かった。
 あのお嬢様ともいまだに繋がりがあったりする。貴族様じゃ手に入れるのに少し手間がかかる物や情報を調達する。もちろん危険なことはちゃんと回避している。その辺の嗅覚はちゃんと備わっている。だから変なところは今まで通り、でも信用できるところと思ったところは長いお付き合い。

 そうやってできた空いてる時間はずっとお店にいるようになった。お店もなんだかんだ忙しくなってきたから、僕が手伝えることも多くなってきたし、大量に仕入れた本たちを整理するのに泊まっていくことも多くなって、そうやって仕事に没頭しすぎる店長にご飯を用意するのも楽しかったりする。

「お前さ、最近家帰ってる?」
「たまに行ってるっすよ」
「行ってるって、帰ってるって言えよ。家族と暮らしてるって言ってなかったか? 心配してるだろう」
「全然っす!」

 店長さんは言葉を詰まらせる。それから少し険しい顔をしたから、もしかしたら家庭の複雑な事情みたいなのを想像したのかもしれない。店長さんは本当に心配性だな。

「ウチは大家族だからっすよ、自分で稼いでちゃんと生活していけてるって知れてれば信用して放っておいてくれるっす」
「なるほどな、もう構われる年でもないか」

 それで店長さんは納得してくれる。僕はちゃんと分かっている、それが単に人を信用しやすいからとか口車に乗りやすいわけじゃなくて、日頃から僕を見てくれているからだってこと。
 店長さんはむしろかなり疑り深いし、関心のない相手には容赦ない。
 でも近しい相手には実は丁寧に接してくれる。過保護でも過干渉でもなく、でもそれとなく心配もしてくれるし、何気ないふりしていろいろ世話を焼いてくれたりする。
 だから僕もそんな店長さんみたいな男になりたくて、もっともっと頑張ろうと思う。

 家族たちがいる長屋にもたまに顔を出しているから、心配もされていない。
 住むところが変わるくらいは日常的なことだから、ただ寝床が変わったんだなって思われるだけ。突然連絡もなく失踪したらさすがに探されるけど、どこでも報告・連絡・相談は大切ってこと。

 今の僕の家は『幻想屋』だ。
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