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血の気が引いていく(フィリップ)
しおりを挟む【 フィリップの時点 】
休暇をとって領地へやってきた。
執務室へ向かうと二人の補佐が仕事をしていた。
「ネグルワ家の状態とエステルがどう維持していたのか教えてくれ」
「投資の失敗と不作の件はご存知ですね?」
「ああ。だが不作は一度だと」
「その通りですが、ただ不作で終わりではありません。一年分の生活を面倒見なくてはなりませんし次の収穫に向けてダメージを負った土などをよみがえらせるための費用も必要です」
「そんなものは領民が」
「領民は育てて収穫し商品化するところまでやりますが給金として払っているので従業員なのです。
オーナー社長は子爵であるフィリップ様なのですよ。
利益はネグルワ家が持っているのですからネグルワ家が対応しなければならないのです。
領民に負担させたら皆移住しますよ」
「……」
「孤児院や教会、診療所や兵士の宿舎や訓練施設の維持費も必要ですし給金も支払わなければなりません。領内の橋も壊れて修理待ちが二箇所ありました。
私達より長く勤めていた者は、前当主に領地経営をして欲しいと頼んでいましたが“任せる”としか仰いませんでした。
だから彼は耐えきれずに辞めてしまいました。
私達は補佐です。
主人を補佐する仕事をするのであって、主人の仕事を丸投げされるために雇われたのではありません。
それにお金がなくても一家は生活を慎むことをなさいませんでした。
耳を傾けてくださったのはエステル奥様です。
奥様からも先代に頼んでもらいましたが、先代は無視をしました。
それでも諦めずにお願いしたところ、“そんなに言うならお前がやれ”と奥様に代理権を与えました。
与えたというより投げたんです。
優先順位や費用の把握のため、奥様は領内を巡りました。
そして数ヶ月後に妊娠が判明。
かなりお辛い体をおして仕事をしてくださいました。
先ず出来るのはネグルワ邸での支出を減らすこと。
ですが先代と大奥様は応じませんでした。貴方もですフィリップ様。
王都の屋敷の維持はネグルワ家にとって贅沢で不幸を呼ぶものでした。ですが手放さないと仰って働くからと奥様にお強請りをなさいました。
旦那様のお給金は私より低いのですよ?
旦那様が出せたのはご自身の贅沢な食事代くらいでしょう。純粋に材料費だけですよ?多分お酒などの類は賄えていないでしょう。
奥様以外ツケ払いを止めず贅沢を続けました。
奥様は具合が悪くても休めず、食事をする時間も惜しまれつまむ程度。内容だって我々と同じものを召し上がりました。
ドレスなど新調なさいませんでした。できなかったのです。
大奥様も大旦那様も“貴族は”などと言って務めを放棄なさいました。領主、当主という言葉の意味を調べてみてください。
はっきり申し上げます。旦那様も 大奥様も 亡き大旦那様もエステル奥様に群がる物乞いです!」
「っ!」
「しかも実の子を取り上げられて辛い仕事だけ任されて、その子は悪魔のような子に育て上げられ奥様を罵り暴力を振るっておられました。旦那様だって父親ではありませんか?」
「……」
「挙句 住まわせてもらっているタウンハウスで浮気ですか。捨てられない方がおかしい」
「エステルは…どう運営していたんだ」
「ご自身の婚姻前の貯えを基に、投資をしたり店を出したりなさいました。
それが成功して、さらに違う店を出したりして、5店舗の繁盛店をお持ちでした。その収益で少しずつツケを払い 私どもの給金を払ってくださいました。領地収入は長年放置されていた領地の修繕や維持でほぼなくなります」
「エステルの出した店の利益は婚姻後なのだからネグルワ家のものだろう」
補佐のジャンは大きな溜息を吐いた。
「婚前の私財を基にして得た収益は個人資産です。
領地収益からのお金だとしたら領地のものです。
お強請りをなさってタウンハウスを使わせてもらい、一家で物乞いとなり、奥様から追い剥ぎまでなさるおつもりですか?」
「なっ!」
「領主ははっきり言えば権限を持った管理運営者にすぎません。
領地を上手く運営してくれると信じて領民はお金や収穫物などを納めるのです。
領民や領地は金蔓ではありません。
旦那様は妻子を持ち、爵位を継いだ大人です。
知らなかったや出来ないでは済まされません。
私達は今月末で辞めることになっております。
出来るだけ引き継ぎますので気を、」
「二人でやれないのか? 私には城の仕事が、」
「説明は無駄だったようですね。
私達は補佐です。具体的な指示をいただいて動く従業員です。それ以上のことをすることはありません。
もしやれば当主はこちらで 貴方は金のかかる居候になってしまいます。
まあ、先代からその状態でしたけどね」
「領地はどうなるんだ!」
「それはこちらの台詞です。
奥様はお店も全て売却し、念の為預金も移しました」
「あいつは何で貸付け帳簿など。
私を困らせることが目的で、」
「いい加減になさいませ!!」
「っ!」
「国に領地の収支申告をする際に、奥様の貸付け帳簿を付けて提出しないと 多額の不明金として怪しまれて大規模な監査を受けることになるからです。
利益が少ないからと国にほとんど納めることができていないのにそんな不明収入があれば大勢の調査官を派遣され調べを受けることになります。
質疑応答も奥様と私どもがやるとなると、全てストップしてしまいます。何年分遡るか分かりません。つまり何日かかるか分からないのです。
納得がいかなければ不正の証拠が出るまで探し続けるでしょう。
そんな誤解を防ぐために付けたのです。
散々迷惑をかけ、自分の母親を止めることもしないで、お世話になった奥様をこれ以上侮辱なさるなら、月末とは言わずに今すぐ辞めさせていただきます!」
2人は荷物を纏め出した。
「悪かった!待ってくれ!」
「もううんざりですよ!」
「書類は纏まっておりますから、お好きにどうぞ。
愛人の実家に借入でもなさったらどうですか!」
「待て!」
2人は出て行ってしまった。
休暇をとって領地へやってきた。
執務室へ向かうと二人の補佐が仕事をしていた。
「ネグルワ家の状態とエステルがどう維持していたのか教えてくれ」
「投資の失敗と不作の件はご存知ですね?」
「ああ。だが不作は一度だと」
「その通りですが、ただ不作で終わりではありません。一年分の生活を面倒見なくてはなりませんし次の収穫に向けてダメージを負った土などをよみがえらせるための費用も必要です」
「そんなものは領民が」
「領民は育てて収穫し商品化するところまでやりますが給金として払っているので従業員なのです。
オーナー社長は子爵であるフィリップ様なのですよ。
利益はネグルワ家が持っているのですからネグルワ家が対応しなければならないのです。
領民に負担させたら皆移住しますよ」
「……」
「孤児院や教会、診療所や兵士の宿舎や訓練施設の維持費も必要ですし給金も支払わなければなりません。領内の橋も壊れて修理待ちが二箇所ありました。
私達より長く勤めていた者は、前当主に領地経営をして欲しいと頼んでいましたが“任せる”としか仰いませんでした。
だから彼は耐えきれずに辞めてしまいました。
私達は補佐です。
主人を補佐する仕事をするのであって、主人の仕事を丸投げされるために雇われたのではありません。
それにお金がなくても一家は生活を慎むことをなさいませんでした。
耳を傾けてくださったのはエステル奥様です。
奥様からも先代に頼んでもらいましたが、先代は無視をしました。
それでも諦めずにお願いしたところ、“そんなに言うならお前がやれ”と奥様に代理権を与えました。
与えたというより投げたんです。
優先順位や費用の把握のため、奥様は領内を巡りました。
そして数ヶ月後に妊娠が判明。
かなりお辛い体をおして仕事をしてくださいました。
先ず出来るのはネグルワ邸での支出を減らすこと。
ですが先代と大奥様は応じませんでした。貴方もですフィリップ様。
王都の屋敷の維持はネグルワ家にとって贅沢で不幸を呼ぶものでした。ですが手放さないと仰って働くからと奥様にお強請りをなさいました。
旦那様のお給金は私より低いのですよ?
旦那様が出せたのはご自身の贅沢な食事代くらいでしょう。純粋に材料費だけですよ?多分お酒などの類は賄えていないでしょう。
奥様以外ツケ払いを止めず贅沢を続けました。
奥様は具合が悪くても休めず、食事をする時間も惜しまれつまむ程度。内容だって我々と同じものを召し上がりました。
ドレスなど新調なさいませんでした。できなかったのです。
大奥様も大旦那様も“貴族は”などと言って務めを放棄なさいました。領主、当主という言葉の意味を調べてみてください。
はっきり申し上げます。旦那様も 大奥様も 亡き大旦那様もエステル奥様に群がる物乞いです!」
「っ!」
「しかも実の子を取り上げられて辛い仕事だけ任されて、その子は悪魔のような子に育て上げられ奥様を罵り暴力を振るっておられました。旦那様だって父親ではありませんか?」
「……」
「挙句 住まわせてもらっているタウンハウスで浮気ですか。捨てられない方がおかしい」
「エステルは…どう運営していたんだ」
「ご自身の婚姻前の貯えを基に、投資をしたり店を出したりなさいました。
それが成功して、さらに違う店を出したりして、5店舗の繁盛店をお持ちでした。その収益で少しずつツケを払い 私どもの給金を払ってくださいました。領地収入は長年放置されていた領地の修繕や維持でほぼなくなります」
「エステルの出した店の利益は婚姻後なのだからネグルワ家のものだろう」
補佐のジャンは大きな溜息を吐いた。
「婚前の私財を基にして得た収益は個人資産です。
領地収益からのお金だとしたら領地のものです。
お強請りをなさってタウンハウスを使わせてもらい、一家で物乞いとなり、奥様から追い剥ぎまでなさるおつもりですか?」
「なっ!」
「領主ははっきり言えば権限を持った管理運営者にすぎません。
領地を上手く運営してくれると信じて領民はお金や収穫物などを納めるのです。
領民や領地は金蔓ではありません。
旦那様は妻子を持ち、爵位を継いだ大人です。
知らなかったや出来ないでは済まされません。
私達は今月末で辞めることになっております。
出来るだけ引き継ぎますので気を、」
「二人でやれないのか? 私には城の仕事が、」
「説明は無駄だったようですね。
私達は補佐です。具体的な指示をいただいて動く従業員です。それ以上のことをすることはありません。
もしやれば当主はこちらで 貴方は金のかかる居候になってしまいます。
まあ、先代からその状態でしたけどね」
「領地はどうなるんだ!」
「それはこちらの台詞です。
奥様はお店も全て売却し、念の為預金も移しました」
「あいつは何で貸付け帳簿など。
私を困らせることが目的で、」
「いい加減になさいませ!!」
「っ!」
「国に領地の収支申告をする際に、奥様の貸付け帳簿を付けて提出しないと 多額の不明金として怪しまれて大規模な監査を受けることになるからです。
利益が少ないからと国にほとんど納めることができていないのにそんな不明収入があれば大勢の調査官を派遣され調べを受けることになります。
質疑応答も奥様と私どもがやるとなると、全てストップしてしまいます。何年分遡るか分かりません。つまり何日かかるか分からないのです。
納得がいかなければ不正の証拠が出るまで探し続けるでしょう。
そんな誤解を防ぐために付けたのです。
散々迷惑をかけ、自分の母親を止めることもしないで、お世話になった奥様をこれ以上侮辱なさるなら、月末とは言わずに今すぐ辞めさせていただきます!」
2人は荷物を纏め出した。
「悪かった!待ってくれ!」
「もううんざりですよ!」
「書類は纏まっておりますから、お好きにどうぞ。
愛人の実家に借入でもなさったらどうですか!」
「待て!」
2人は出て行ってしまった。
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