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経験
しおりを挟む「ノアがいなくなった?」
「はい。先ほどまで談笑をしていたのですが、廊下先で、どちらへ曲がったのか分からず……」
「とにかく探せ。俺も行く」
ノアには、一応見張りをつけていた。
1人で楽しめるよう、ストレスにはならない程度に。
それが、どうだろう。
あいつの顔は、誰が見たって可愛いと言う顔だ。
心配していたけど、こうも一瞬目を離した隙に狙われるなんて。
「ちょっと!どこ行くの!?」
「すまん。先に帰る」
呼び止める声を背中に、ノアが消えたと言う方向に走った。
楽しげに、仲良く話していた男。
最近話題のビール会社の息子だろう。
ノアが俺の嫁だとは、誰も知らない。
だからこそ危害が加えられることはないと思っていたが、こうも堂々と連れ去られるとは。
もう少しあいつの顔を重要視するべきだった。
場合によっては、誘拐されたっておかしくない。あれは、そのまま高値で売り飛ばせる顔。
だから、あいつの両親が不用意に外へ出せなかった気持ちも分かる。
揉め事が起きても、言い訳できない美貌。種子は蒔かないに越したことはない。
社会関係が重要となるこの世界では、尚更。
そしておそらく。
「ノア……っ」
このチャラい男は、被害者なんだろう。
見つけた扉の先。
ソファでは上半身裸のノアが、赤くなって転がっていた。
顔はとろんとしていて、まるで情事を連想させる。
その向かいには、理性を保ったか、あの男が胸元を掴んでいた。
「やはり、ローズブレイド公爵の……」
「気付いていたか」
「ジャケットの裏に、紋章が見えましたので……」
「迷惑をかけて、悪かった。すぐに水を用意しろ」
エリックに頼んで、用意された水のうち一つはノアに。一つは男に渡す。
「そのお方の顔は……なんとも、罪深いものですね」
「……そうだろう。だから、気を付けてはいたんだが」
まさかこうも、酒に弱かったとは。
もっと知るべきだった。事前に調査するべきだった。
服を着せて、そのまま抱き上げて馬車に寝かせた。
こいつのことだ。起きた時、どう騒ぐか……
「も、申し訳ございません!!」
案の定、目を覚ましたこいつは盛大に謝罪し、そしてなにも、覚えてはいないようだった。
「その、ワインを溢してしまったところまでは覚えているのですが……」
「まあ良い。無事だったなら、なにも言うことはない。こっちの用意不足だったからな。ただ、お前は今後、俺の見えないところで酒を飲むな」
「えっ、あの甘いお酒……」
「俺の見えるところで飲めばいいだろう」
ヒヤヒヤしたんだ。
たまたま紋章が目に入って気付かれたから良かったものの、そうじゃなかったら、あいつが悪い男だったら、どうなっていたか。
やはり、繋いでおくべきなのか。
でも、それはこいつの意思に沿わない。
やりたいことを、なにも気にせずにやれるように。
「その、公爵さま……」
「そんな顔はしなくていい。それと」
仮にも、結婚したんだ。いつまでもそんな呼び方じゃ、よそよそしいだろう。
「これからは、名前で呼べ」
「っな、名前ですか?そんな……」
「エリクス、分かったな」
「っは、はい……」
「敬語もなくていい。気を許せ」
初対面のあいつには、あんなに砕けていたのにな。
酒の力なのか?
「今日は、もうゆっくり休め」
手を滑らせ前髪を持ち上げて額に口付ければ、驚いた顔から、甘い匂いがふわりと香った。
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