またあの日のように

怜來

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過去

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 彼女の人生を変えてしまった責任は俺にある、だが、どうすればいいかわからなかった。真夜中ご飯を買い夜道を歩きながら考えていた。すると後ろから足音がした。すぐに察した。殺し屋だろう。隼人はわざと路地に入った。そして殺そう、そう考えた。足音はどんどん近づいてきた。そして、俺の頭に銃がつきつけられた。
 「動くな。動くと撃つぞ」
 その声は女だった。その時俺は確信した。彼女だ。俺は泣きそうになった。怖いのではない、嬉しいのだ。生きててよかった。そう思った。しかし、今の彼女は俺のことは分かっていない。だから、ここは一つ芝居をしようと思った。ズボンの横から銃を取り出し振り返った。そこには小さい頃と変わらない顔立ちの彼女が立っていた。嬉しくてたまんなかった。だけど、君は俺の事を思い出さないで今ここで俺の事を撃ってほしかった。
 それなのに君は俺の事を覚えていてくれた。嬉しかった。本当はそうだよ、と言いたかった。だけど、今の自分にはそんな資格はない。君は何も知らなくていいんだ。何も知らないまま俺を殺すんだ。
 けれど、彼女は銃を下ろした。
「隼人でしょ…?」
 ヒビキは涙を流しながら言った。俺はどうすればいいか分からなかった。
「だから、それは誰だ。いいから俺を殺すんだ」
「私は殺し屋。だけどね、罪を犯してない人は殺さないって決めてるの」
 「…俺は…人を今までたくさん殺めてきた。俺は沢山の罪を犯している」
「そんなの私だってそうよ…!私は沢山の人を殺めてきた。何十人何百人と!だったら、私を殺してよ」
 ヒビキは隼人を見た。いやだ、俺は君を殺せない。君が俺を殺さなきゃならないんだ。君の人生を狂わせたのは俺なのだから。俺の罪は重いんだ。隼人は心の中で叫んだ。しかし、ヒビキも同じだった。自分があの日時間も見ないでずっと隼人を振り回してたせいでこんなことになってしまった。ずっと謝りたかった。
「隼人…ごめんね…私があの時しっかりしてればこんなことにはならなかったのに」
 そんなの君が謝ることじゃない。元凶は俺だ。君は何も悪いことはしていない。
「君は悪くなんかない。俺が悪いんだ。今まで辛かっただろう。本当にごめん。ごめんで済むことじゃないんだ。だから、せめて君の手で俺を殺してほしいんだ」
 隼人は泣きながら必死に言った。隼人だということを認めながら。
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