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終章 月と亜空落着編
勇者の爪痕、識の憂い、そして真は久々にやらかす
ロッツガルド学園は立て続けの二人の勇者の来訪でお祭り騒ぎになっていた。
彼らが去ってなお興奮はさめる事なく、関係者とみなされた非常勤講師の周辺はにわかに騒がしさを増している。
「非常に不本意だ」
「心から同意します」
そうだよ、僕らだよ!
英雄講師とか言われて散々な僕らですよ!
くっそ、何か妙に事情通っぽくぺらぺらと嘘をもっともらしく語って広めた生徒め。
僕らは……そりゃ同郷だし……縁が無いとは言わんけども……。
親友でもなけりゃ誓いを立てる関係でもない!
「学園での僕らの立ち位置は権力とは無縁て事で決着した筈なのにさ」
「見事に蒸し返されましたね。勇者の置き土産にしては面倒極まりなく」
「もしかして先輩が滞在を少し延ばした理由は僕らとの関係を印象付ける為、いや違うか。あんま意味がない」
「響の方でしたら、ジン達の力の見極めが主だった気がします。現在の学園生で一番実力があるのは文句なく彼らですから」
珍しく識も不機嫌を隠してない。
「勧誘じゃなく?」
「はい見極め、かと。リミアのアカデミーとの違いを観察し持ち帰る目的だったと推察しております」
「リミアの底上げ、ロッツガルドのレベルの確認か。先輩も大変だ、魔族と戦う勇者だけでも激務だろうに」
その上リミアの国力、内政と外交まで触ってるんだから。
……良いなあ、一度に幾つも考えを走らせる事が出来る人種は。
「とはいえ、響が動いて回った影響はそれだけには留まりません。……アベリアまでも目の色を変えて更なる力を身につけんと鍛錬に励んで、若干オーバーワーク気味になる始末で」
「先輩の周囲は、そうなるんだよ。一番才能がある人が何より一番頑張る。そんで結果も出す。強烈だよ」
そりゃあんま年も変わらないジン達も必死になる。
響先輩の光は、本当に強烈だ。
リミアほどの大国でも本当に変えられるのかもしれない程に。
王族にも協力者や信奉者がいるし、同じく大国のローレル連邦の巫女との関係も良好だ。
もしかして、と思わされる。
「そしてその残滓でさえ我々に纏わりついて動きにくくします。学園内のどこにいても人の目が常に向けられるのは、困りものです」
「識の調べものにも影響でてる?」
「学園の司書は優秀なのですが、ええ、あまり好ましくない視線を感じますね」
「入るの難しい閉架……区画? てとこでもか。やれやれ」
亜空でもそれなりに本を揃えてはいるけど、やっぱりロッツガルド学園の蔵書量は群を抜いている。
ようやく学園の蔵書なら持ち出さない限りはどの本でも好きに閲覧できる権限を得られたというのに、これは識にとってはかなりの痛手だ。
僕の助手という立場を一番に考えてくれる識だからこそ、学園では常に温厚な彼でいようとしてくれてる。
不愉快な視線や、ついでとしか思えない質問や雑談にもにこやかに応じているんだろう。
調べものが満足に進む環境とは程遠い。
識は元々研究もだけど知識欲もかなり強い方で、言うまでもなく本は大好きだ。
「若様もかなり本気の愛の告白などされているご様子で」
「愛、ねえ。ださんってふり仮名打ちたくなる愛はいらないなあ……」
大人過ぎて僕はノーサンキューです。
「間違っても今の学園には澪殿はお連れできませんね」
「絶対に連れてきたくないね。巴もだけど」
見える形が違うだけで巴もそこそこやきもちってのをする。
二人に共通するのは、その八つ当たりは僕じゃなく他の人にいくってとこだ。
その場で止めるのも結構ひやひやするのに、後にどこに飛び火するのかもわからない。
結論、予防こそ至高って訳だ。
「私も不要な事を口走らないよう気をつけます」
「悪いね。で、識の方の調べものは順調なの? ここ最近は別にしてさ」
僕の問いに識は微妙な反応を見せた。
良くも悪くもない、のかな?
「思う様には進んでおりません。時折記憶を刺激するものに出会えはするのですが……」
識は僕の従者になる前はリッチだった。
肉体を捨ててアンデッド化した経緯があって、識は元々はヒューマンだ。
ただ……アンデッド歴が長く正気を失っていた歴も長かった。
弊害としてヒューマンだった頃の記憶についてはかなり欠落があるんだ。
もちろん、アンデッドになってまで追い求めた望みであるグラント周りの事はしっかり覚えてる。
目的と手段が狂気で逆転しかけてはいたけど……そこはまあ置いといて。
魔術に関する知識もアンデッドになってからの研究と成果についてもそこそこ覚えてるみたい。
逆にヒューマンだった頃の人間関係や当時の環境や所属してた学校やら国については、ほぼ壊滅的。
親兄弟も友人も、識曰く体格もはっきりしない影としてしか思い出せないという。
非常に悲しい現状だと僕は思うんだけど、本人はあまり気にしてない風に振舞ってる。
巴や澪が更に力をつけているのを見て、ようやく自分のルーツや当時の研究や知識にも成長の鍵があるかもしれないと昔を探り始めたくらいだ。
識ほどの研究者なら多分当時もあっただろうロッツガルドに何らかの資料は残ってそうだという見当は正しいと僕も思うし、ロッツガルド学園には識にまつわる何かはある筈だ。
実際記憶を刺激するものにはそこそこ巡り合ってるみたいだしね。
「あまり学園を代表するような研究はしてなかったようです。それに、どこかで一時代を築くような人物でも無かったようで……埋もれた人材となると古の自分と出会えるのはいつになる事か」
「只者ではないと思うよ、識だもん」
「自分がリッチであった期間すら正確に言えぬのです、存外ポンコツかもしれません」
自虐してみせる識。
でも絶対名のある人だと思う。
有名で実力もあっても、始まりの冒険者の皆さんみたいな例もあるか。
歴史に記されないアンタッチャブル扱いになってるとかなり難しそう。
「巴殿に過去を見てもらえれば一気に解決するかと楽観視してもいたのですが」
「澪の過去も見通せなかったらしいし、巴の過去視も万能じゃないよ」
「私はグラントを調べ、グラントに至り……異世界に跳ぼうとした友を追い。その後何をどうしたかったのか。ぽっかりと穴が開いたままのようで……情けない限りです。そもそも人を捨てた身で再会して何になったというのか……」
「識……」
どこでもない遠くを見つめて呟く識。
「学生にものを教えていたであろう慣れらしきものはこの体に確かに残っているのに」
「生前の自分の適性だとか得意としていたスタイルとか、属性とか。記憶として蘇ったらきっと今以上に心強い識になるだろうから、僕も頑張らんとだ」
「若様は今のペースで是非ゆるりと頑張り過ぎないでお待ち頂きたいですね。商人の道に精を出されるのが嬉しいところです」
「それ、巴にも言われた」
「人と魔族の戦いが一区切りつけば、どのみち我々も本格的に世の動乱に巻き込まれましょう。その時、私も若様の支えとしてお力になりたいのです。必ずすべてを思い出し新たな力を手にしてみせますとも」
新たな力、か。
「識の場合十三階梯も鍛えなきゃだろう」
「確かに安定発動が覚束ないナンバーもありますね……」
「じゃなくてさ。アレ、かなり強力なスキルでしょ。しっかり使いこなさないと、識はまだ入門くらいなんだから」
僕の指輪が識の中で変質した彼の特殊能力、十三階梯。
非常に汎用性が高い。
「入門、ですか? 一応全部の指輪の能力を」
「?」
「使えるようにはなっております、が」
「だけ、でしょ?」
「??」
あれ。
もしかして、識自身が認識してないのか?
本気でわかってない感じで聞き返されてるぞ。
思えば識に直接伝えた事……ないな?
当然知ってるものだと思い込んでた。
何せ自分の特殊能力なんだし。
「指輪を喚んでさ、能力を発動するじゃん」
「はい」
「それが十三種類あるじゃん」
「です、ね」
「で更にそれが十三段あるよね。自覚してる、よね?」
「!?!?!?」
おお。
初耳なお顔をしている。
十三番目の能力を無事に発動させた時、妙に達成感に溢れてたのはそれが一応のゴールだったからか。
一つの区切りではあるけど一通りスキルを使えるようになっただけのチェックポイントだと思ってた僕と温度差があったのはこの所為か。
十三番目のスキル『天弾の射手』はかなりピーキーな性能だったけど、別にそこに生暖かい目を向けてた訳じゃない。
長い事勘違いが続いていたんだな。
「亜空にさ、農業試験場あるじゃん」
「あの、円形の棚田を模した」
生育に適した日当たりとか気温を割り出すべく亜空でも魔術を併用して超活用されてる重要施設である。
「棚……うん。識の十三階梯はまさにアレだよ。中心に識がいて、十三の方向に十三の階段が伸びてる」
「っ!!!!」
「基礎能力向上の四つだっけ。あれもわかりやすくいえばダエナの二段階だの三段階だのみたいに次のレベルがあるよ?」
「な、え?」
「ま、ダエナは分身覚えて忍者ルートに突っ走ってる感あるけど」
「あの、若様、え?」
「消費魔力や制御も格段に難しくなるから先に一通りの発動を達成するのは一つの手だろうなと思って見てたけど、そっか、自覚なかったのか」
「……」
「てっきり記憶云々も先に挑む指輪の番号を決める材料探しを兼ねてるのかとばっかり……なんかごめん。伝え忘れてて」
「……」
「巴と澪に並ぶくらいの潜在能力、環だけじゃなくて識にもあるから。十三階梯の研鑽も忘れちゃ駄目だよ」
以前環と識が深刻な顔して巴と澪との差を相談してきた事がある。
でも僕から見ると正直、環も識も素養とか潜在的な成長期待値では互角だ。
何か僕と契約して従者としては初期値はともかく頑張り次第で最終的には皆同じくらい強くなるものなんだなあ、なんて軽く考えてた。
当たり前に考えすぎて共有できてないって怖いな。
あの時の気にせず励めばその内並ぶって答えも、もしかして全く違う意味合いで二人に伝わってたかも。
「……わ、私の十三階梯が、そんな……。え、完全に使いこなして巴殿や澪殿と互角になる可能性、という事は……あのお二方、どこまでの化け」
「識、それ以上はいけない」
「し、失礼しました!! 若様、申し訳ありません、学園での仕事も残っておりませんので先に戻らせていただいてもよろしいでしょうか!?」
「うん、どうぞ」
識は疾風を残してぶっ飛んでいった。
真面目だな、亜空に直帰するんじゃなく一応商会で最低限の指示をしてから戻る気だ。
そうだ、識へのお詫びに僕も図書館での蔵書漁りに付き合うか。
十三階梯についてはどの道、基礎をみっちりやってかないとまだ使えたものじゃないだろうから今日明日でどうにかなるものじゃない、と思う。
それでも識なら道を見つければそこに向けて全力疾走する。
うん、開眼が一月二月ずれる程度の指摘でも無駄にはならないよね。
彼らが去ってなお興奮はさめる事なく、関係者とみなされた非常勤講師の周辺はにわかに騒がしさを増している。
「非常に不本意だ」
「心から同意します」
そうだよ、僕らだよ!
英雄講師とか言われて散々な僕らですよ!
くっそ、何か妙に事情通っぽくぺらぺらと嘘をもっともらしく語って広めた生徒め。
僕らは……そりゃ同郷だし……縁が無いとは言わんけども……。
親友でもなけりゃ誓いを立てる関係でもない!
「学園での僕らの立ち位置は権力とは無縁て事で決着した筈なのにさ」
「見事に蒸し返されましたね。勇者の置き土産にしては面倒極まりなく」
「もしかして先輩が滞在を少し延ばした理由は僕らとの関係を印象付ける為、いや違うか。あんま意味がない」
「響の方でしたら、ジン達の力の見極めが主だった気がします。現在の学園生で一番実力があるのは文句なく彼らですから」
珍しく識も不機嫌を隠してない。
「勧誘じゃなく?」
「はい見極め、かと。リミアのアカデミーとの違いを観察し持ち帰る目的だったと推察しております」
「リミアの底上げ、ロッツガルドのレベルの確認か。先輩も大変だ、魔族と戦う勇者だけでも激務だろうに」
その上リミアの国力、内政と外交まで触ってるんだから。
……良いなあ、一度に幾つも考えを走らせる事が出来る人種は。
「とはいえ、響が動いて回った影響はそれだけには留まりません。……アベリアまでも目の色を変えて更なる力を身につけんと鍛錬に励んで、若干オーバーワーク気味になる始末で」
「先輩の周囲は、そうなるんだよ。一番才能がある人が何より一番頑張る。そんで結果も出す。強烈だよ」
そりゃあんま年も変わらないジン達も必死になる。
響先輩の光は、本当に強烈だ。
リミアほどの大国でも本当に変えられるのかもしれない程に。
王族にも協力者や信奉者がいるし、同じく大国のローレル連邦の巫女との関係も良好だ。
もしかして、と思わされる。
「そしてその残滓でさえ我々に纏わりついて動きにくくします。学園内のどこにいても人の目が常に向けられるのは、困りものです」
「識の調べものにも影響でてる?」
「学園の司書は優秀なのですが、ええ、あまり好ましくない視線を感じますね」
「入るの難しい閉架……区画? てとこでもか。やれやれ」
亜空でもそれなりに本を揃えてはいるけど、やっぱりロッツガルド学園の蔵書量は群を抜いている。
ようやく学園の蔵書なら持ち出さない限りはどの本でも好きに閲覧できる権限を得られたというのに、これは識にとってはかなりの痛手だ。
僕の助手という立場を一番に考えてくれる識だからこそ、学園では常に温厚な彼でいようとしてくれてる。
不愉快な視線や、ついでとしか思えない質問や雑談にもにこやかに応じているんだろう。
調べものが満足に進む環境とは程遠い。
識は元々研究もだけど知識欲もかなり強い方で、言うまでもなく本は大好きだ。
「若様もかなり本気の愛の告白などされているご様子で」
「愛、ねえ。ださんってふり仮名打ちたくなる愛はいらないなあ……」
大人過ぎて僕はノーサンキューです。
「間違っても今の学園には澪殿はお連れできませんね」
「絶対に連れてきたくないね。巴もだけど」
見える形が違うだけで巴もそこそこやきもちってのをする。
二人に共通するのは、その八つ当たりは僕じゃなく他の人にいくってとこだ。
その場で止めるのも結構ひやひやするのに、後にどこに飛び火するのかもわからない。
結論、予防こそ至高って訳だ。
「私も不要な事を口走らないよう気をつけます」
「悪いね。で、識の方の調べものは順調なの? ここ最近は別にしてさ」
僕の問いに識は微妙な反応を見せた。
良くも悪くもない、のかな?
「思う様には進んでおりません。時折記憶を刺激するものに出会えはするのですが……」
識は僕の従者になる前はリッチだった。
肉体を捨ててアンデッド化した経緯があって、識は元々はヒューマンだ。
ただ……アンデッド歴が長く正気を失っていた歴も長かった。
弊害としてヒューマンだった頃の記憶についてはかなり欠落があるんだ。
もちろん、アンデッドになってまで追い求めた望みであるグラント周りの事はしっかり覚えてる。
目的と手段が狂気で逆転しかけてはいたけど……そこはまあ置いといて。
魔術に関する知識もアンデッドになってからの研究と成果についてもそこそこ覚えてるみたい。
逆にヒューマンだった頃の人間関係や当時の環境や所属してた学校やら国については、ほぼ壊滅的。
親兄弟も友人も、識曰く体格もはっきりしない影としてしか思い出せないという。
非常に悲しい現状だと僕は思うんだけど、本人はあまり気にしてない風に振舞ってる。
巴や澪が更に力をつけているのを見て、ようやく自分のルーツや当時の研究や知識にも成長の鍵があるかもしれないと昔を探り始めたくらいだ。
識ほどの研究者なら多分当時もあっただろうロッツガルドに何らかの資料は残ってそうだという見当は正しいと僕も思うし、ロッツガルド学園には識にまつわる何かはある筈だ。
実際記憶を刺激するものにはそこそこ巡り合ってるみたいだしね。
「あまり学園を代表するような研究はしてなかったようです。それに、どこかで一時代を築くような人物でも無かったようで……埋もれた人材となると古の自分と出会えるのはいつになる事か」
「只者ではないと思うよ、識だもん」
「自分がリッチであった期間すら正確に言えぬのです、存外ポンコツかもしれません」
自虐してみせる識。
でも絶対名のある人だと思う。
有名で実力もあっても、始まりの冒険者の皆さんみたいな例もあるか。
歴史に記されないアンタッチャブル扱いになってるとかなり難しそう。
「巴殿に過去を見てもらえれば一気に解決するかと楽観視してもいたのですが」
「澪の過去も見通せなかったらしいし、巴の過去視も万能じゃないよ」
「私はグラントを調べ、グラントに至り……異世界に跳ぼうとした友を追い。その後何をどうしたかったのか。ぽっかりと穴が開いたままのようで……情けない限りです。そもそも人を捨てた身で再会して何になったというのか……」
「識……」
どこでもない遠くを見つめて呟く識。
「学生にものを教えていたであろう慣れらしきものはこの体に確かに残っているのに」
「生前の自分の適性だとか得意としていたスタイルとか、属性とか。記憶として蘇ったらきっと今以上に心強い識になるだろうから、僕も頑張らんとだ」
「若様は今のペースで是非ゆるりと頑張り過ぎないでお待ち頂きたいですね。商人の道に精を出されるのが嬉しいところです」
「それ、巴にも言われた」
「人と魔族の戦いが一区切りつけば、どのみち我々も本格的に世の動乱に巻き込まれましょう。その時、私も若様の支えとしてお力になりたいのです。必ずすべてを思い出し新たな力を手にしてみせますとも」
新たな力、か。
「識の場合十三階梯も鍛えなきゃだろう」
「確かに安定発動が覚束ないナンバーもありますね……」
「じゃなくてさ。アレ、かなり強力なスキルでしょ。しっかり使いこなさないと、識はまだ入門くらいなんだから」
僕の指輪が識の中で変質した彼の特殊能力、十三階梯。
非常に汎用性が高い。
「入門、ですか? 一応全部の指輪の能力を」
「?」
「使えるようにはなっております、が」
「だけ、でしょ?」
「??」
あれ。
もしかして、識自身が認識してないのか?
本気でわかってない感じで聞き返されてるぞ。
思えば識に直接伝えた事……ないな?
当然知ってるものだと思い込んでた。
何せ自分の特殊能力なんだし。
「指輪を喚んでさ、能力を発動するじゃん」
「はい」
「それが十三種類あるじゃん」
「です、ね」
「で更にそれが十三段あるよね。自覚してる、よね?」
「!?!?!?」
おお。
初耳なお顔をしている。
十三番目の能力を無事に発動させた時、妙に達成感に溢れてたのはそれが一応のゴールだったからか。
一つの区切りではあるけど一通りスキルを使えるようになっただけのチェックポイントだと思ってた僕と温度差があったのはこの所為か。
十三番目のスキル『天弾の射手』はかなりピーキーな性能だったけど、別にそこに生暖かい目を向けてた訳じゃない。
長い事勘違いが続いていたんだな。
「亜空にさ、農業試験場あるじゃん」
「あの、円形の棚田を模した」
生育に適した日当たりとか気温を割り出すべく亜空でも魔術を併用して超活用されてる重要施設である。
「棚……うん。識の十三階梯はまさにアレだよ。中心に識がいて、十三の方向に十三の階段が伸びてる」
「っ!!!!」
「基礎能力向上の四つだっけ。あれもわかりやすくいえばダエナの二段階だの三段階だのみたいに次のレベルがあるよ?」
「な、え?」
「ま、ダエナは分身覚えて忍者ルートに突っ走ってる感あるけど」
「あの、若様、え?」
「消費魔力や制御も格段に難しくなるから先に一通りの発動を達成するのは一つの手だろうなと思って見てたけど、そっか、自覚なかったのか」
「……」
「てっきり記憶云々も先に挑む指輪の番号を決める材料探しを兼ねてるのかとばっかり……なんかごめん。伝え忘れてて」
「……」
「巴と澪に並ぶくらいの潜在能力、環だけじゃなくて識にもあるから。十三階梯の研鑽も忘れちゃ駄目だよ」
以前環と識が深刻な顔して巴と澪との差を相談してきた事がある。
でも僕から見ると正直、環も識も素養とか潜在的な成長期待値では互角だ。
何か僕と契約して従者としては初期値はともかく頑張り次第で最終的には皆同じくらい強くなるものなんだなあ、なんて軽く考えてた。
当たり前に考えすぎて共有できてないって怖いな。
あの時の気にせず励めばその内並ぶって答えも、もしかして全く違う意味合いで二人に伝わってたかも。
「……わ、私の十三階梯が、そんな……。え、完全に使いこなして巴殿や澪殿と互角になる可能性、という事は……あのお二方、どこまでの化け」
「識、それ以上はいけない」
「し、失礼しました!! 若様、申し訳ありません、学園での仕事も残っておりませんので先に戻らせていただいてもよろしいでしょうか!?」
「うん、どうぞ」
識は疾風を残してぶっ飛んでいった。
真面目だな、亜空に直帰するんじゃなく一応商会で最低限の指示をしてから戻る気だ。
そうだ、識へのお詫びに僕も図書館での蔵書漁りに付き合うか。
十三階梯についてはどの道、基礎をみっちりやってかないとまだ使えたものじゃないだろうから今日明日でどうにかなるものじゃない、と思う。
それでも識なら道を見つければそこに向けて全力疾走する。
うん、開眼が一月二月ずれる程度の指摘でも無駄にはならないよね。
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です