6 / 7
壮大な詐欺じゃないのか?
しおりを挟む
(6)壮大な詐欺じゃないのか?
僕の銃弾は残り1発。ジャンヌの銃弾は尽きている。
それに対して敵は1人。
何としても僕が敵を仕留めなければならない。もし外れると2人とも殺される。
― ジャンヌだけでも逃げすことができないか?
僕はそう考えた。
敵は1人だ。僕が敵を引付ければジャンヌを逃がすことができるだろう。
僕は決心してジャンヌに首から下げていたペンダントを渡した。
「これ何?」
「お守りだよ」
「お守り? 急になぜ?」
「もう弾が1発しか残っていない。僕が敵を引付けるから先に逃げてくれないか?」
「断る。一緒に逃げるって約束したでしょ」
「僕は大丈夫だよ。直ぐに追いかける。それまで僕のペンダントを君が持っていてくれないか?」
ジャンヌはペンダントを見た。
“Marc Virtue”
「アンタって、英語だとマーク・ヴァーチューなのね」
「それを言ったら、ジャンヌ(Jeanne)だって英語だとジェーンじゃない?」
「そっちじゃなくてファミリーネームの方」
「ああ、そっち。本当はイタリア語でヴェルチュ(Virtù)だ。オーダーした時に職人が英語と間違えてeを足したんだ」
「でも、良い言葉だね。Virtue(美徳)って」
「ただのスペルの間違いだよ。でもありがとう」
「いえいえ」
「さて、そろそろ僕はいくよ。ジャンヌ、直ぐに会いに行くから。愛してる」
「私も。愛してる」
ジャンヌと別れると、僕は敵兵の方へ走り出した。
― 神頼みか・・・
少なくとも今の僕にとって、何もしないよりはいい。
それにしても、スペルが間違ってても大丈夫なのだろうか?
***
僕はドレークの話を聞いて笑いが止まらなくなった。
「お前も女関係で問題起こしたの? 僕のこと文句言えないよな?」
「お前が笑うのはどうかと思うぞ? 俺なんか20歳で目覚めたら2回とも病院のベッドの上。2回とも女性に刺されて病院スタートなんだぞ」
僕たちのやり取りを聞いていたアランは僕に質問した。
「20歳のときも何かあったのですか?」
「え? 家族から聞いてませんか? 僕が20歳の誕生日に当時付き合っていたメアリーに刺されたんですよ。僕の浮気が原因です」
「40歳のときも・・・」
「そっちは俺の不倫ですね!」
「威張ることじゃねーよ!」
アランは僕たちの話を少しは信用したようだ。だから、僕は別の話をした。
「それと、話はもう一つあるんだ。夢の話だ」
「夢ですか?」
「僕はいつも見る夢がある。大体は戦場で戦っていて、僕はその戦場でマルクと呼ばれている。そっち(ドレーク)はダニエルって呼ばれている」
「ああ、その夢ですか。私はアンドレと呼ばれていますね」
「アンドレって、スナイパーの?」
「ええ」
「妻と息子を残して戦場に来た?」
「そうです。詳しいですね」
「射殺した人数が45人目か46人目かで僕と口論になった?」
「ええ。あれは46人目でしたよ」
僕はマルク、ドレークはダニエル、アランはアンドレ。
僕たちは同じ人間の人生を生きているし、同じ夢を見ている。
異常な体験を共有していると言えるだろう。
僕は本題を切り出した。
「なあ、行ってみないか?」
「あそこにか? 14年間も戦争続いたんだろ?」
「でも、1975年に終わった。今は戦時中じゃない」
ドレークは少し考えてから「いいよ、アランはどうする?」と言った。
アランはついさっき2人に会ったばかりだ。
ここは慎重に判断しなければならない。
― 壮大な詐欺じゃないのか?
詐欺だったら、わざわざ59歳のおっさんをベトナムに連れて行かないよな・・・
アランは決心した。
「行くよ」
僕の銃弾は残り1発。ジャンヌの銃弾は尽きている。
それに対して敵は1人。
何としても僕が敵を仕留めなければならない。もし外れると2人とも殺される。
― ジャンヌだけでも逃げすことができないか?
僕はそう考えた。
敵は1人だ。僕が敵を引付ければジャンヌを逃がすことができるだろう。
僕は決心してジャンヌに首から下げていたペンダントを渡した。
「これ何?」
「お守りだよ」
「お守り? 急になぜ?」
「もう弾が1発しか残っていない。僕が敵を引付けるから先に逃げてくれないか?」
「断る。一緒に逃げるって約束したでしょ」
「僕は大丈夫だよ。直ぐに追いかける。それまで僕のペンダントを君が持っていてくれないか?」
ジャンヌはペンダントを見た。
“Marc Virtue”
「アンタって、英語だとマーク・ヴァーチューなのね」
「それを言ったら、ジャンヌ(Jeanne)だって英語だとジェーンじゃない?」
「そっちじゃなくてファミリーネームの方」
「ああ、そっち。本当はイタリア語でヴェルチュ(Virtù)だ。オーダーした時に職人が英語と間違えてeを足したんだ」
「でも、良い言葉だね。Virtue(美徳)って」
「ただのスペルの間違いだよ。でもありがとう」
「いえいえ」
「さて、そろそろ僕はいくよ。ジャンヌ、直ぐに会いに行くから。愛してる」
「私も。愛してる」
ジャンヌと別れると、僕は敵兵の方へ走り出した。
― 神頼みか・・・
少なくとも今の僕にとって、何もしないよりはいい。
それにしても、スペルが間違ってても大丈夫なのだろうか?
***
僕はドレークの話を聞いて笑いが止まらなくなった。
「お前も女関係で問題起こしたの? 僕のこと文句言えないよな?」
「お前が笑うのはどうかと思うぞ? 俺なんか20歳で目覚めたら2回とも病院のベッドの上。2回とも女性に刺されて病院スタートなんだぞ」
僕たちのやり取りを聞いていたアランは僕に質問した。
「20歳のときも何かあったのですか?」
「え? 家族から聞いてませんか? 僕が20歳の誕生日に当時付き合っていたメアリーに刺されたんですよ。僕の浮気が原因です」
「40歳のときも・・・」
「そっちは俺の不倫ですね!」
「威張ることじゃねーよ!」
アランは僕たちの話を少しは信用したようだ。だから、僕は別の話をした。
「それと、話はもう一つあるんだ。夢の話だ」
「夢ですか?」
「僕はいつも見る夢がある。大体は戦場で戦っていて、僕はその戦場でマルクと呼ばれている。そっち(ドレーク)はダニエルって呼ばれている」
「ああ、その夢ですか。私はアンドレと呼ばれていますね」
「アンドレって、スナイパーの?」
「ええ」
「妻と息子を残して戦場に来た?」
「そうです。詳しいですね」
「射殺した人数が45人目か46人目かで僕と口論になった?」
「ええ。あれは46人目でしたよ」
僕はマルク、ドレークはダニエル、アランはアンドレ。
僕たちは同じ人間の人生を生きているし、同じ夢を見ている。
異常な体験を共有していると言えるだろう。
僕は本題を切り出した。
「なあ、行ってみないか?」
「あそこにか? 14年間も戦争続いたんだろ?」
「でも、1975年に終わった。今は戦時中じゃない」
ドレークは少し考えてから「いいよ、アランはどうする?」と言った。
アランはついさっき2人に会ったばかりだ。
ここは慎重に判断しなければならない。
― 壮大な詐欺じゃないのか?
詐欺だったら、わざわざ59歳のおっさんをベトナムに連れて行かないよな・・・
アランは決心した。
「行くよ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
芙蓉の宴
蒲公英
現代文学
たくさんの事情を抱えて、人は生きていく。芙蓉の花が咲くのは一度ではなく、猛暑の夏も冷夏も、花の様子は違ってもやはり花開くのだ。
正しいとは言えない状況で出逢った男と女の、足掻きながら寄り添おうとするお話。
表紙絵はどらりぬ様からいただきました。
大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~
石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。
さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。
困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。
利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。
しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。
この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
少女が過去を取り戻すまで
tiroro
現代文学
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。
玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。
初めて会ったはずの恵利香に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。
恵利香を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。
『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』
玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく────
※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです
※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります
※イラストは「画像生成AI」を使っています
浴槽海のウミカ
ベアりんぐ
ライト文芸
「私とこの世界は、君の深層心理の投影なんだよ〜!」
過去の影響により精神的な捻くれを抱えながらも、20という節目の歳を迎えた大学生の絵馬 青人は、コンビニ夜勤での疲れからか、眠るように湯船へと沈んでしまう。目が覚めるとそこには、見覚えのない部屋と少女が……。
少女のある能力によって、青人の運命は大きく動いてゆく……!
※こちら小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる