勇者の弟子

イーカ

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一章 

練習

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俺とツルギは王都から出て、緑広がる草原に来ていた。
「なあツルギ、早速こんなとこに来てなにすんだ?」
「まず、魔物と戦うには魔力が使えないと話にならないからね。
ユウに魔力の使い方を教えるよ。」
「マリョク?」
俺は首を傾げた。
「この前、魔物と戦った時にユウは感じたはずだよ。」
俺は魔物を殴った時に感じた『何か』を思い出した。
「アレか!でも、どうやってやるんだ?
あの時の事はあんま覚えて無いんだけど...」
「安心して、今から魔力の使い方を教えるから。
初めは楽しかった事や嬉しかった事とかを思い出してみて。」
俺はスラム街の仲間達と一緒に、鍋を囲んで食事した事を思い出した。
あの日はみんなで沢山稼いで、沢山食べ物を買って、沢山食べて、沢山話した。
「ああ、思い出した。
次は何をすれば良い?」
「次はその感情を安定させて、それを全身にまとう様にイメージしてみて。」
俺は思い出を懐かしむ気持ちを安定させ、全身にまとう様にイメージした。
(難しいな...
あともうちょっとで...出来た...!)
全身にイメージが行き渡った瞬間、俺の体が一気に軽くなった。
「何だこれ...?体が、軽い...!」
「それを維持したままにして、
それじゃあ、ジャンプでもしてみようか。」
俺は軽くジャンプをしてみた。
そしたら、俺は木のてっぺんと同じ高さ
まで飛び上がった。
「うおぉ!何だこれすげぇ!
って、うおわぁ!?」

ドコッ!

俺は上手く着地しようと思ったが、そのまま落下して、尻もちをついてしまった。
「イテテテ...どうして急に...」
「あー、高く飛び過ぎて驚いちゃったから魔力の身体強化が解けちゃったんだね。
次は感情を一定に保ち続けよう!」
「それ、早く言ってくれよ...」
俺は魔力を保ったまま、体を自由に動かしてみた。
「そい!」

ヒュン!
ピシッ!

俺が岩に石ころを投げてみたら綺麗にヒビが入った。
ツルギがその様子を見て、言葉をかけてきた。
「よし!魔力での身体強化は慣れてきたみたいだね!
次は魔力での攻撃をやってみよう!」
「えっ、これで終わりじゃねえのか?」
「魔物は魔力を使わないと倒せないからね。
魔力で身体強化しただけじゃ、魔物には勝てないんだ。」
「ってことは、次は体を強くするのに使った魔力を放てばいいんだろ?」
「違うよ。」
「違うの!?」
「そうだよ。
魔力で攻撃する場合は、さっきとは逆で悲しかった事や怒った事を思い出してみて。」
俺は思い出した。
スラムでゴミの様な扱いを受け、差別された苦しみを。
そして、仲間を魔物に殺された怒りを。
そしたら、俺の様子を見たツルギが、
「ちょっと魔力が大きいから、もう少し抑えてみて。
大丈夫、ゆっくりと自分のペースでやっていいよ。」
(そうだ、自分のペースだ。
もう十分怒ったろ、もう十分泣いたろ、
感情を安定させる事を意識するんだ、俺。)
俺の魔力は次第に安定していった。
ツルギがその事を確認したら、魔法で剣を出して俺に渡してきた。
「よし、魔力が安定してきたね。
この剣にその魔力を流して、あそこの木を切ってみて。」
ツルギが向こうにある
「えっ、剣の扱い方とか知らねえんだけど...
あと、木って剣で切るもんなのか?
斧使わねえの?」
「いいからやってみて!」
ツルギはニコリと微笑むと、俺に剣を渡してきた。
俺は渡された剣に魔力を込めて、振り上げた。
「ふんっ!」
俺は木に向かって、勢いよく剣を振り下ろした。

バゴッ!

木が真っ二つに割れた。
「ええぇ!?すげぇ!」
俺は腰を抜かして、驚いた。
「おっ、結構上手くいったね!」
「もしかして、魔物を殴った時に感じたやつがこれか?」
「その通り!
あの時は安定して無かったから全然威力が無かったけど、今は安定してるから威力が大きいね。」
「つーか、色々やってみたけど、魔力って何なんだ?」
「魔力には二種類あるんだけど、一つが
身体強化に使う『プラス魔力』。
もう一つが敵や物体にダメージを与える為の『マイナス魔力』だね。」
「へー、そうなのか。
なんでみんな魔力を使わないんだ?
便利なのに。」
「魔力が使える人間は限られていて、
二種類いるんだよ。
一つ目は、生まれつき使える人だね。
ちなみに、私は生まれつき使えるよ。」
「へー。
それで、もう一つ目は?」
「二つ目は、激しい感情の起伏が起こったり、特殊な環境に長く居て、魔力が使える様になる人だね。
多分、ユウは激しい感情の起伏で、魔力を使える様になったんだと思うよ。」
「そうだったのか。
もう、魔力の練習は終わったし、次は何すんだ?」
「次はコレ!」
ツルギはそう言うと、俺の目の前に剣を出してきた。
「自分に合った武器を探してみよう!」
「おお!
デカい斧とか、カッケェ槍とか、色々使いてえ!」
「私は剣術しか教えられないから、そういうのは無理だよ。」
「無理なのかよ...
だったら、なに使えばいいんだ?」 
「私が色んなサイズの剣を出すから、試しに素振りでもしてみて。」
「わかった。」
さっそく、俺は色んな剣を試した。
「んぎぎぎ、デカすぎるぞ!この剣!」
俺はツルギの出した大剣を持ち上げようとしたが、重くてびくともしなかった。
「次はコレを試そう!『剣の巨兵』!」
「もっとデカくなったじゃねえか!」
「あははっ!ごめーん!
色々試したけど、やっぱりユウは、短剣の方が好み?」
「そうだな。
短剣は軽いし、取り回しもきくからな。」
「わかった、短剣にしよう。
王都に鍛冶屋を探しに行かないとね。」
「鍛冶屋か...
俺、いいとこ知ってるぜ!」
俺たちは『あの鍛冶屋』に向かった。
「ねえユウ、こんなのが本当に鍛冶屋なの...?」
「大丈夫だって、安心しろよ~。」
俺たちは鍛冶屋の中に入った。
そこにはいつも通り酔っ払っているローブ爺さんが居た。
「また来たぜ!爺さん!」
「久しぶりだな、ユウ!
そっちの嬢ちゃんは...?」
「刀条ツルギです!勇者です!
よろしくお願いします!」
ツルギは礼儀正しく、元気に挨拶した。
「ガハハッ!勇者かぁ、こりゃとんでもねえ客が来たな!こっちこそよろしくな!」
ローブ爺さんが豪快に笑いながら、挨拶をした。
「それで、今日は何が買いたいんだ?」
「うーん、今日は物を買うっていうよりか、
武器を作って欲しいんだ。」
「武器をぉ?
一体何に使う気だ?」
「魔物を倒すのに必要なんだ、作ってくれねえか?」
「ユウ、アイツらのことはわかってる。
でも、お前が魔物を倒す必要は無いんだ、他の誰かがやってくれる。」
いつもと違った真剣な表情で、ローブ爺さんが俺に語りかける。
「違う、魔物を倒すのが俺の目標じゃ無い。
俺はアイツらの夢を叶える為に魔物を倒すんだ。」
「夢?」
「ああ、世界一うめぇ飯食いたいってヤツもいれば、すげぇ綺麗な景色を見てみたいってヤツもいた。
だから、魔物の親玉ぶっ倒す旅でアイツらの夢を叶えるんだ。
それに、『仕方ない』って言い訳する弱い俺はもう居ねえ。
頼む、俺に武器を作ってくれ。」
俺は爺さんの眼をしっかりと見た。
「そうか...わかった。
そこまで言うなら作ってやろう。
ってか、嬢ちゃんホントに勇者だったんだな...」
「えっ、私ってそんなに勇者には見えないの...!?」
ツルギの顔には驚いた表情と落胆した表情が混ざっていた。
そして、俺たちは短剣のサイズや素材について話し合った。
「よし、これで決まりだな!」
「ああ、でも足りねえ鉱石がある。
洞窟に行って、それをとって来て欲しいんだ、頼めるかユウ、嬢ちゃん。」
「私は勇者だよ、それくらい楽勝!」
「いいぜ!
早く魔物をぶっ飛ばしてえしな!」
俺とツルギは元気に返事をした。
「いい返信だ!
無事に帰ってこいよ!」
俺らは手を振りながら、短剣の素材が眠る洞窟へと向かった。











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