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連載
ビャクヤの気苦労
しおりを挟む「ど、どこいくの?」
「温室。ここ最近、厩舎ばっかりだから新鮮なご飯をあげようかなって」
この二頭は頭が良いので、畝にある作物は無暗に食べない。ちょろちょろしている白マンドレイクは容赦なくもっしゃぁっと食べる。
ついさっきまで普通に草を食んでいたのに、すっと口元を方向転換して流れるような動きで捕食するのだ。
本当は思い切り走らせたいところだが、ここは校内。
また別の日に、冒険者として街の外に出た時に思い切り走らせてやろう。
最初はおっかなびっくり、馬の背に乗るというより乗せられているようだったエリシアも、温室についた頃には目を輝かせていた。
シンも気持ちが理解できる。初めて騎獣に乗った時は、ハレッシュと一緒だった。高い視点で拓けたように世界が見える。馬が歩く揺れと、風が駆け抜ける爽快さ別格だ。自分には出せない速度と高揚感を覚えている。
温室に着くと顔を覆ってさめざめと泣くビャクヤと、後ろテヘペロ☆ と絶妙に苛立つ誤魔化し笑顔を浮かべるカミーユがいた。
もう察しがついてしまうシンである。
「この馬鹿……本っ当になんでこんなに阿呆なん? アホアホなん?」
「どうどうビャクヤ。一応聞くけど何があった?」
ビャクヤは悲嘆に暮れるというのが相応しい嘆きようである。
「馬鹿が小テストで赤点やったから、補講に付き合わされとるんだけど、延長補講決定した……っ」
「あの、ビャクヤ……貴方は補講の必要ないのでしょう?」
戸惑いながら効くエリシアに、ビャクヤは力なく頷く。
「せやかてエリシアちゃん! コイツの単位落とすわけにはいかんのよ! 俺は自分より一個下になったコイツの面倒まで見とうない! こいつが自力で出来へんのが分かっている以上……!」
「いやー、努力はしたのでござるが!」
「だまらっしゃい。努力しようが死にかけようが、結果が出とらんやろ。現実を見ろや、ボケナス」
この会話だけ菊とビャクヤが悪く聞こえるかもしれないが、それなりに付き合いのあるシンには良く分かる。
きっと勉強に前向きじゃないカミーユを、何とか机に向かわせて手伝っていたのはビャクヤだ。自分の勉強をほっぽり投げて、カミーユに覚えさせていた。
同科同学年出題範囲は一緒なので、カミーユに教えることは消して無駄ではない。
だが、学年がずれたら話は変わる。
ビャクヤは全学年を重複して覚えて教えながら、現学年分も覚えなくてはいけない。
「やはり某には勉強は向かないでござるな!」
「アンジェリカさんとレニちゃんにチクるかんな。その態度含めて。ゴリッゴリのコッテコテに絞られまえ」
「某を殺す気でござるか!?」
「ヤル気がないならそのまま死ね」
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