〈海外からの投資の影響は?〉ベトナム国家主席の突然の辞任、見えない理由に深まる政治的混乱

2024.04.16 Wedge ONLINE

 3月20日、ベトナム共産党はヴォ・ヴァン・トゥオン国家主席の辞任を公表した。これにつき、フィナンシャルタイムズ紙の3月20日付け解説記事‘Vietnam political turmoil deepens as president resigns’は、①トゥオン国家主席の辞任の理由の詳細は明らかにされていない、②国家主席の更迭は昨年のフック氏に続く異例の事態であり、ベトナムへの投資を検討している投資家心理に悪影響をもたらす、と報じている。要旨は次の通り。

辞任したベトナムのヴォ・ヴァン・トゥオン国家主席(代表撮影/ロイター/アフロ)

 ベトナム共産党は、何百人もの役人の逮捕と高いランクの政治家の辞任を生んだ汚職捜査の中、「トゥオン国家主席は規則違反などを理由に辞任した」と公表した。このことは、政治的混乱を深め、投資家の心理に良くない影響をもたらす。

 米中の緊張激化を受けて、製造拠点の中国からの多角化がすすみ、ベトナムが外国投資を引き付けている中での政治的混乱である。

 共産党は、トゥオン氏の辞任を受領し、「同氏が党員としての禁止事項に関する規則を破った」との声明を出した。「トゥオン氏の違反行為は、世論や党、国家の評判を傷つけた」と同党は述べたが、詳細は明らかにしなかった。

 国家主席は、党書記長に次ぐポストである。この2つは、首相と国会議長を含む4人の集団指導体制の一員である。現書記長のグエン・フー・チョン氏は、数年にわたる汚職粛清の陣頭指揮を執ってきた、評論家は粛清の対象は政敵にも及んでいると言っている。

 53歳のトゥオンは昨年3月に国家主席に任命された。そして79歳のグエン・フー・チョン氏の後継者の一人と目されていた。

 チョン氏は2026年には退任するとみられる。チョン氏による政府上層部の大改革の中で、23年1月、トゥオン氏の前任者であるグエン・スアン・フック氏が辞任し、2人の副首相も職を離れた。

 汚職捜査が長引き、民間企業にも拡大するにつれ、政府のプロジェクト承認やライセンス付与に影響を及ぼしていることから、投資家は神経質になっている。役人たちは、汚職捜査の対象となることを恐れて、認可を与えることを躊躇するようになっている。

 トゥオン氏の辞任は政治的安定にとって好ましくない。また、捜査の一環として外資系企業が汚職容疑で調べられることはなくても、官僚的手続きの遅れと政治的不安定が投資家に影響を及ぼす。このような事態は、ベトナムに大規模な投資を行おうとしている外国企業を躊躇させてしまう。

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昨年1月から4人が解任

 今般のトゥオン国家主席の辞任は、多くの人にとって突然の驚きであった。記事が述べている通り、外国投資家の心理に影響が出ることが懸念されるだけでなく、各種プロジェクトの承認がこれまで以上に遅延する恐れが高くなると思われる。

 辞任理由については、「党員として禁止事項を破った」という説明しかなく、詳しいことは推測するしかないが、3月20日の臨時中央委員会総会では、トゥオン国家主席の辞任だけでなく、ラン・ビンフック省前共産党書記の除名処分等が決定されている。ラン前党書記は、不動産会社フックソン・グループの不正経理事件に絡み、8日に収賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングでビンフックおよ及びクワンガイ省の人民委員長、元人民委員長等も収賄容疑で身柄を拘束されている。

 トゥオン国家主席は、11年から16年までクアンガイ省の党書記をしていたことから、この事件に関連して責任を問われていると思われる。新国家主席の有力候補の一人は、マイ党書記局常務(越日議連会長、女性)であろう。