【トランプは帝国軍か?ジェダイか?】スターウォーズから読む米国社会と大統領選挙

2024.03.25 Wedge ONLINE
いいか、みんな自分たちが欲しいのは自由だと思っているが、本当に欲しいのは秩序(オーダー)なんだ。そして、それがわかると、両手を広げて我々を歓迎してくれるのだ。
ヴァリン・ヘス(帝国軍将校)
 

 現在世界では、至る所で旧来の秩序が崩されようとしている。ウクライナしかり、ガザしかりである。米国も例外ではない。2000年に人気アニメ『シンプソンズ』で、ロナルド・トランプが大統領の近未来が描かれたとき、それはあくまでジョークであった。しかしいまやトランプは大統領経験者であり、二度目の当選さえも現実味を帯びてきている。

スターウォーズの世界と米国社会の共通点とは?(スターウォーズ公式HPより)

 もはや旧来の枠組みや常識では米国の政治は語ることはできない。ここでは、そのような現象を「秩序(オーダー)」と「カオス」という切り口をもちいて、米国の叙事詩ともいえるスターウォーズをもとに読み解いてみたい。

人が求めるのは秩序なのか、カオスなのか

 スターウォーズのスピンオフ作品である『マンダロリアン』のシーズン2エピソード7で、この記事の冒頭で掲げたセリフを帝国軍の将校であるヴァリン・ヘスが薄ら笑いを浮かべながら放つ場面は印象的だ。ここでヘスは、普通の人間がカオスを嫌い、秩序と支配を求めていると説いているが、これは一面の真理をついている。しかし、その様な人間の性質に対して、それは間違っていると目覚めさせる存在は歴史を辿っても時として登場する。

 スターウォーズの世界では、ジェダイやレベル(反乱者)がその役割を担っている。そもそもジョージ・ルーカスが創り出したスターウォーズは秩序とカオスとのせめぎあいの物語ともいえるが、その背景としては彼が青年期を過ごした反体制運動の時代の影響がみられることは明らかである。

 世界一豊かな社会を実現した1950年代の米国は、コンセンサスの時代と言われた。そこでは米国的政治体制や米国的生活様式に疑問を呈したりしなければ、世界一の豊かさを享受することが出来た。

 第二次世界大戦の被害が大きかった日本やヨーロッパ、あるいは第三世界では、日々の食事にも事欠く中にあって、米国のスーパーマーケットには色とりどりの食品が山と積まれていた。実質賃金は右肩上がりに上昇し、昨日よりも今日、今日よりも明日がより豊かであることに疑いを差し挟む者はいなかった。

 しかし、60年代から70年代にかけて、この体制への信頼は大きく揺らいでいく。自由主義体制を「邪悪な共産主義」から守るためとして時の政府はベトナムに介入していった。しかし、米国兵がベトナムの村々を焼き払い、現地の子どもたちが裸で逃げ惑う映像が米国のお茶の間に流されると、自分たちの体制は果たして正義の側に立っているのだろうかという疑問が生じた。

秩序とカオスを交互に見せるスターウォーズの世界

 そして若者を中心に米国内では激しいベトナム反戦運動が巻き起こった。その動きは、人種差別をなくそうという公民権運動と重なり、大きなうねりとなっていった。しかし、国民は選挙で、何よりも秩序を重んじるリチャード・ニクソンを大統領に選び、そして、歴史に残る地滑り的勝利で再選させた。ルーカスは次のように語っている。

 私が[スターウォーズを最初に書き始めた]時はベトナム戦争中だった。ニクソンは三期目を狙っていた、あるいは三期目を狙うために憲法を変えようとしていた時だった。そして、民主主義がどのようにして独裁に変わるのかについて考えさせられた。

 ニクソンは、「帝王的大統領制」と言われるほどの権力を手にしたものの、それに飽き足らず、その地位をより盤石なものにするために犯罪にまで手を染めていき失脚する。先の発言に続けてルーカスは、シーザーを殺したローマ市民が自ら帝政を創り出し、ルイ16世を断頭台に送ったフランス人が、ナポレオンを求めたと語り、如何に人間というものがカオスを嫌い秩序に傾き易いかを強調している。