「邪悪な政権は罰せられる」イランの怒りを買ったイスラエル、「最悪の指導者」ネタニヤフにあすはあるのか

2024.04.20 Wedge ONLINE

 4月1日、イスラエル軍はダマスカスのイラン大使館の領事部を空爆、イランの革命防衛隊の3人の幹部らが死亡した。フィナンシャルタイムズ紙の4月2日付け解説記事‘Iran accuses Israel of killing general in Damascus consulate strike’は概要、次のように報じている。

 イランの革命防衛隊の3人の幹部が4月1日、ダマスカスのイラン大使館の領事部への空爆で殺された。これはハマスのイスラエル攻撃以来の地域での敵対行為の激化になる。

イスラエルのテルアビブで、ネタニヤフ首相に抗議する人々(AP/アフロ)

 「抵抗の枢軸」(イラン代理勢力ネットワーク)は10月以来イスラエルと砲火を交え、中東での米軍を攻撃し、地域的緊張を高めてきた。しかし最近、イランは3人の米兵が死亡したヨルダン・シリア国境の米軍基地への無人機攻撃のあと、緊張を緩和しようとしてきた。米国とイランの高官は1月には間接的対話をし、敵対行為減少の努力をしていた。

 チャタムハウスの中東プログラムの長のヴァキールは、「イスラエルの戦争は単にハマスに対するものではなく、多くのグループを弱体化する抵抗の枢軸への攻撃になっている。イランはイスラエルとも米国とも直接紛争は避けたいと明らかにしてきたが、外交使節への攻撃は「イランに対応を強いる」可能性があると述べた。

 イランのアミール・アブドラヒアン外相は、イスラエルは「国際約束と条約に違反する」イラン領事部への攻撃に責任を負うと述べた。

 イスラエルはテヘランとその代理人の多くの施設をこれまでシリア全土で攻撃してきた。イスラエルはシリアでのイランの軍とヒズボラ戦闘員の存在がイスラエルに対する新しい戦線を作り出すと、長い間心配してきた。10月以来、イランとイスラエルの緊張は高まり、イランの施設へのイスラエルの攻撃につながった。

 イランはイスラエルと米国に攻撃を仕掛けている武装グループを支援しつつも、繰り返し米との直接紛争と全面的地域戦争は避けたいと言ってきた。国際戦略問題研究所(IISS)のホカイエムは「イスラエルはイランは効果的に抑止されていると信じており、イランとヒズボラを弱体化するために戦争のリスクも冒す。この計算はそうでなくなるまで続くが、そうでなくなる時は破局になる」と言う。

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レッドラインを越えたイスラエル

 今回の件でイスラエルはレッドラインを越えたように思われる。シリアにいるイランの代理勢力をイスラエルが攻撃するのはこれまでもあったことであるが、ダマスカスのイラン大使館を直接空爆するのは初めてである。

 これはイラン本土を攻撃することと同じではないが、それに限りなく近いといえる。中東紛争での相場観を逸脱したのではないか。

 ハメネイ・イラン最高指導者はイスラエルに「邪悪な政権は罰せられるだろう。罪を犯したことを後悔させる」と発言したが、イランが今度の件で何の反応もしないことは考え難い。この記事の中でチャタムハウスの中東専門家が「これはイランに何らかの反応をするように強いる」可能性に触れているが、その通りであろう。

 どういう反応になるかは、イラン国内でのイスラエルへの反発や、外交安保についての利害得失についてイランがどう判断するかによるが、イランは外交安保政策については慎重に諸情勢を考えて決定する傾向があり、抵抗の枢軸の代理勢力を使った攻撃になる可能性が高いと思われる。とにかく中東での大戦争は避ける方向でイランが対応することが望ましい。

ネタニヤフ退出には極右政権も甘受を

 イスラエルがダマスカスのイラン大使館を直接攻撃した理由はよくわからないが、ネタニヤフがネタニヤフへの反対世論が抗議デモなどで噴出する中、イランとの戦争の可能性を掻き立てて国内を団結させることを狙っているだとすれば、危険な火遊びとしか言えない。イスラエルはガザ戦争で国際的に孤立してきており、対米関係も危機に瀕している今、イランとの緊張を自分から高めるのは愚策であると思われる。

 ただ、ネタニヤフはイスラエルにとりこれまでで最悪の指導者で、彼を政権の座から去らせるためにイスラエル国民は早期選挙を求めるなどの対応をすべきである。そのためには一時的に極右政権が出来て状況がさらに悪化することも甘受するのが正解かもしれないとさえ思える。ガザ戦争が中東に拡大される危険は何としても避ける必要がある。