イスラエルのレバノン侵攻が懸念される中、シーア派イスラム主義政党で武装組織であるヒズボラの事務総長ハッサン・ナスララ氏が2月13日、イラン国営テレビプレスTV(Press TV)で1時間21分という長いスピーチを行った。スピーチはYouTubeで確認できる。
スピーチの前半部分は2月のはじめにレバノン、シリア、イラクの各地で数十人のイラン支援民兵の幹部がイスラエルによる空爆とドローンによる攻撃で殺害されたことへの哀悼であったが、スピーチの終盤1時間9分を過ぎた頃、イスラエルによる盗聴に警戒するよう呼び掛けたのである。
ナスララ氏は、携帯電話を通してイスラエルに情報が漏れていることを強調し、レバノンおよびレバンノン以外のシリア、イラク、イエメンのヒズボラ支持者に対して携帯電話の使用を止めるようよびかけたのだ。
ナスララ氏は、イスラエルの諜報機関がアラブ通信会社へハッキングして、データベースから数百万件の電話番号と加入者の名前などを奪い取ったと指摘。イスラエル人は標的の携帯電話やコンピュータを遠隔操作して電子メール、テキストメッセージ、写真、パスワードなどにアクセスできることや、携帯電話のマイクとカメラを秘密裏に作動させ、会話や行動を記録できる可能性があると警告した。
また、イスラエルの諜報機関は、中東全域で使用されている安全でないインターネットに接続された無数の監視カメラや防犯カメラにもハッキングしており、ヒズボラをはじめとする武装組織の活動を監視しているとした。
もはやスパイや工作員は必要とせず、携帯電話がスパイの役割を担っており、シーア派武装組織に対して携帯電話の電源を切って、金属製の箱に閉じ込めておくよう嘆願した。これらは「イスラエルに対する戦いのための忍耐」だとして、監視カメラをインターネットから切り離すよう警告したのである。
携帯電話の盗聴に関してイスラエルの技術は世界的に見ても秀でたものがある。
ナスララ氏が指摘した携帯電話の盗聴は、イスラエルの情報部門であるユニット8200の退役軍人らによって開発され商用化されているスパイウェア「ペガサス(Pegasus)」によって行われている。ペガサスはnso Groupというサイバーセキュリティの会社から販売されており、各国の政府や法執行機関にのみ販売するとしており、イスラエル政府も重要な顧客の一つだ。
ペガサスは携帯電話をハッキングし、電子メールや通話、テキストメッセージを携帯電話の使用者に気づかれることなく記録することができる強力なツールだ。携帯電話の電源のオン・オフの操作も可能とされているため、ナスララ氏が「金属製の箱に閉じ込めておくように」といったのもペガサスを指している。
ペガサスの最新バージョンでは、AI技術が導入されており、大量の情報を迅速に処理することができる「AIターゲティングプラットフォーム」を使用することで、多数の携帯電話を監視することができる。こうした機能はイスラエル政府のリクエストに応じて追加されており、その見返りとしてnso Groupはサービスの大部分を無償で提供しているといわれている。
イスラエルの携帯電話の監視について興味深いニュースがある。ハマスのイスラエルへの奇襲攻撃から4カ月以上が経った2月25日、イスラエルのテレビ局「チャンネル14」が新たな事実を報じたのだ。ハマスの攻撃が開始される数時間前の真夜中、ハマスの戦闘員数百人が一斉に携帯電話のSIMカードをイスラエル製に切り替えていたことが明らかになったというものだ。