【携帯電話がスパイの役割】監視から遠隔操作まで…イスラエルのハッキングとAI技術の急速な進展に日本も他人事ではない理由

2024.03.05 Wedge ONLINE

 イスラエルの諜報機関は、ガザ地区で使用されている全ての携帯電話を追跡する能力を持っているとされる。どの携帯電話が地元パレスチナの通信会社によって提供されていないSIMカードかをリアルタイムで特定できるともいわれている。

 イスラエルの携帯電話監視ソフトは、ガザ地区でイスラエル製の未知のSIMカードがオンになった時に赤い警告ランプがつくようになっており、イスラエルの諜報機関はすぐに気づく仕様になっているといわれる。

 数千人のガザの住人は、10月7日まではイスラエル国内で働く許可を持っていてイスラエルのネットワークも自由に使えるのだが、10月7日の夜に数百台もの未知の携帯電話と不自然な位置情報は、明らかに何かの兆候を示していた。

 ハマスの奇襲攻撃が成功した要因として、イスラエルの諜報機関に情報が漏れないようインターネットなどの電気通信手段を一切使用せず、伝令をつかって対面で作戦を練り上げていたからだといわれている。そんな中、最後の最後に携帯電話を使用して連絡を取り合っていたことが明らかになったのである。

 イスラエル国防軍(IDF)とイスラエル公安庁(ISA)が、その日開催した緊急電話会議ではこの問題について言及されたが、いつもの演習だろうとの意見が大半を占めたため、上層部への報告は行われなかったようだ。

 IDFやISAはこれを否定しているが、警告ランプが点灯したにもかかわらず、この問題を軽視したのは明らかにイスラエル諜報機関の失態だろう。

ガザ攻撃に利用されるAIターゲティングシステム

 イスラエル国防軍によるガザへの攻撃には「Habsora」(英語での名称は「The Gospel(福音)」)と呼ばれるAIターゲティングプラットフォームが使用されているとホームページに紹介されている。戦争においてAIを活用しようとする試みは世界中の国々で研究されているが、標的を定めるターゲティングシステムの精度を高めるには膨大なデータが必要となる。

 「The Gospel」の場合は、ドローンや衛星、航空機から収集した監視映像、そして通信傍受した通話記録やピコセル(ショッピングモールなどの狭い地域をカバーする小型セルラー基地局から得られた情報)、そして携帯電話やタブレット、ラップトップコンピュータ、監視カメラや防犯カメラの情報をもとに標的が設定されているようだ。

 国際的にも批判を浴びているイスラエル国防軍のガザ地区の病院や学校への空爆、そしてイスラエルが誤射と説明する民間施設への攻撃は、全てAIの指示によるものかも知れない。AIの判断には人道的配慮などというものは微塵もあり得ないのか。イスラエルはガザをモデルにAIターゲティングシステムを試しているようにも見える。

携帯電話の盗聴は他人事ではない

 AI技術の戦争への応用は確実に進んでいる。携帯電話の盗聴などというと自分とは縁遠い存在に見えるかもしれないが、AIは膨大な数の携帯電話の監視を可能とする。そしてそれらの情報は、AIの分析技術によって有事の際に強力な武器となるのである。

 日本は、憲法第21条に定められた「通信の秘密は、これを侵してはならない」という言葉に縛られ、ターゲティングシステムの研究などはもっての外だが、せめて、国会議員や自衛隊員の携帯電話は、すでに盗聴されていることを前提にした利用に努めてもらいたい。ナスララ氏の警告は海の向こうの話ではない。