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3)カリンと謎の老人
しおりを挟む神社の巫女さんからニンジンの買い出しに走らされる剣道部主将。
なんだこりゃ?
バレると面子丸潰れだ。
しかも道着のままテクテクと歩いていたらよけいに目立つ。仕方が無いのでランニングの振りをかまして走って行くことにした。間違っても幽霊に慄き、ではない。それとカリンの家来としてでもない……カレーにはニンジンが必要だからさ。
県道を行くこと数分。駅名の書かれた標識を右に折れて再び数分進むと、最初のバス停におかしな連中が集まっていた。
昨日、マコトをカツアゲていたワルではない。普通の男女なのだが、妙に挙動不審な動きをするので目が止まったのだ。
バス停にはたくさんの腰掛けがあるのに誰も利用しておらず、一列に並んで、通りゆくクルマを珍しげに見たり、ちょうど差し掛かったバスが停車すると、吃驚(びっくり)して散らばる。バスは不審に思いつつも一定時間は乗降口を開けていたが、誰も乗らないのを確認すると駅方面へ発車。するとまた停留所へ集まって好奇な態度で辺りを見渡した。
その前を走り抜けるオレが注目されるのは当然だ。
「…………………………」
無言で痛い視線をかわしながら通過する。
スーツを着込んだメガネの男性。
高級そうな山高帽子を被った老人。
葬儀の帰りなのか、黒服のドレスを着こんだスタイル抜群の女性が二人。その人らは双子で間違いない。高い背丈、体つき、髪型もウエーブの掛かった黒髪が肩に垂れているところまで瓜二つだ。
その横には、ここらでは見慣れない制服の女子高生が鞄を膝に当てつつ、通り過ぎようとするオレを上目で見つめ、それからもっとも不可解なのは、どう見ても駅前にある郵便局の制服に制帽を深々と被った若い男性。この時間にバス停に立つのはおかしすぎる。まだぎりぎり郵便局の窓口が開いている時間帯だ。
集団が放つ不審な雰囲気はオレが通り過ぎても痛く射して来る。あまりに気持ち悪いので、逃げるように次の角を曲がった。ちょうど前から来た北山高校の女生徒二人と鉢合わせになったが、この周辺でランニングする運動部の姿は珍しくも無いため、二人はこっちに視線を寄こすことなくすれ違い、オレが来たばかりの角を曲がって行った。そうあの集団が待ち構えているほうへな。
ほどなくして女生徒の足音が止まり、すぐにオレを追いかけて来た。
「あの。剣道部の柳生さんですよね?」
「そうだぜ」
「あそこのバス停にいる人たち何者ですか?」
「そんなことオレに訊かれても…………でも不気味だったろ?」
二人は揃ってうなずいた。
「オレも気味が悪かったのでこっちに曲がったんだ。キミら学校へ戻るんだったら田んぼの道を使ったほうがいいぜ」
再びうなずく女生徒を従えて、しばらく歩くことになった。
数メートル離れて二人は互いに怪訝な気分を報告しあっていた。どうやらあの視線に耐えきれなかったのはオレだけではなかったようだ。
やがて現れた十字路で、オレは駅へ、女生徒たちは学校へと分かれた。
数時間後───。
当然だが怪しい集団のことなど、カリンの歓迎会の騒ぎですっかり忘れていた。
ところで話は変わるが、マコトが学校で言っていたことは本当のことで、剣道部全員とマコトの家族が勢揃いしたところで、神殿右手の奥にある大広間には、何の問題も無かった。むしろ空いたスペースのほうが広くて、寒々としていたぐらいだ。
畳の部屋のど真ん中に背の低い長テーブルが置かれ、カレーとオデンの食べ放題、お代わりし放題だ。
「うっひょー。腹ぺこっすよ、ジブン」
一年坊主は差し詰めサバンナのライオン状態で、殺気立つ連中を制するのもの主将の役目。
「剣の道を志す者は礼儀も重要な修行のひとつだ。慌てるな。全員正座しろ!」
静々と従う部員たちに睨みを利かせ、って。カリンの野郎。今スプーンを後ろ手に隠したのを見逃さなかったぞ。しょうがねえな。ま、オレの管轄ではないから、どうでもいいのだが。
「まずはこの神社の宮司さんからのお話しを伺う」
と宣言して、一番前で差袴(さしこ)姿もこなれたニコニコ顔のマコトのお父さんに一礼する。
「そんな形式ばったことしなくていいよ。剣豪くん」
とか言いながらも、人前に出ることには慣れている宮司さんだ。軽い足取りで簡易舞台に上がり、カリンを紹介。
彼女はこれから神官職の修行を行いつつ、授与所などの業務全般と御祈願、御祈祷の窓口などを担当するので、家に帰ったらご両親にも七海神社をよろしくと、カリンのことよりも神社の営業をぶちまけるあたり、さすがはマコトのお父さんだ。ちゃっかりしているが、このパーティ会場や食事などすべて神社側のご好意なわけだから、誰もがにこやかな表情を維持していた。
やがて宴もたけなわ。カリンにべったり張り付いていた山本や岩井、そして広川から質問攻撃か始まった。
「カリンさんの出身地はどこですか? 関西じゃないっすよね」
「んー。内緒ぉ」
「趣味は何ですか?」
「男をいじめること」
「カリンさんのスリーサイズ教えてください」と言い出したのは山本だ。
「おほぉぉー。ちょーウケるんすけど」
「バカ! 山本、岩井、死ねっ!」
女子からの猛烈なブーイングで連中は撃沈したが、カリンは平気だった。
「身長は165センチ………」
「カリンさん。こんな助バカトリオの一年坊主の言うことなんか真に受けること無いですよ」
としゃしゃり出たのは二年の女子、黒瀬だ。
カリンはニコリと微笑み、
「サイズぐらいのどーってことないわ。上から、二尺九寸、一尺八寸、二尺八寸よ」
と堂々と告知するものの。戸惑うのは質問した側だ。全員そろって首をかしげた。
「しゃくって………」
「何センチっすか、主将?」
「知るか!」
もはや歓迎会じゃなくなってるし……………。
助バカ一年坊主は副将の助けを求めてその前で雁首をそろえるが、顔を赤らめて目を落とす中村くん。たぶん尺の意味を解っているのだろうな。
「副将。知ってるんですか………何センチになるんすか?」
「めっちゃ気になるっす」
一年坊主に取り囲まれる副将だったが、
「一尺は30コンマ3センチ」
と言ったっだけで、恥ずかしげに目を逸らした。
「おぉぉぉぉぉ」
男子部員は歓声をあげて集まり、誰かが出したスマホで計算開始。たまに「うおぉー」とか盛り上がり、女子部員はそれぞれにそわそわ。カリンはニタニタ。ミコトは小さじをくわえたままキョトン。
ところで何センチになったんだろ。確かに気になる。あとで一年坊主から聞き出してみよう。
やがて適度にこなされた頃。いつの間にか、マコトのお母さんが執り行っていた給仕をカリンとミコトが代わっていた。
「はーい。まだいっぱいありまーす。どんどん食べてくださーい」
「まらまらいっぱいれーす」
ミコトはカリンの物真似だが、今日の主役がオレたちの世話をするって、ちょっとおかしい。
「こらー。剣道部、女子! オマエらがやらんか!」
小言の一つでも落としてやろうとするが、
「ワタシたちも申し出たんですよ主将」
口の先を尖らせて、綾羽が前に出てきた。
そしてカリンも言う。
「いいのさ。あたしは修行の身。何でもやらなきゃね」
「ほらね。この一点張りなんです」
綾羽はまだ不服なのか、唇の先を平たくさせた。
アヒル口を突き出しても綺麗なヤツは綺麗だ。それからカリンの巫女衣装もみごとだ。と感じているのかどうか知らないが、マコトのお父さんはずっと目じりが下がりっぱなし。半面、マコトは部屋の隅で、中村くん相手にカレーのスプーンを黙々と口に運んでいた。
「おーい。ここだけ葬式みたいになってんぞ」
オレもカレーの皿とオデンの具が数点入った器(うつわ)を持ってあいだに入る。
「そんなことないよ。中村くんと宇宙の話をしていたんだよ」
「へぇ。中村。オマエそんな話し得意なんだ。オレはぜんぜんダメだ」
中村くんはちらりと困惑した目をオレに向け、クールな仕草でポツリと。
「何を言ってるのか……解らない」
とだけ言いのけて、口の中に山盛りのスプーンを突っ込んだ。
「だろうな………」
憐憫の情を中村くんへと捧げていると、カリンの声が場内を響き渡り、ついと振り返る。
「みんなー聞いてぇーー! 剣道部員さんに申告するわよ」
「なんすか?」
首を突っ込みたがるのは、まったく懲りていない山本だ。
「あんた名前は何だっけ?」とカリン。まるで先生気取りだ。
「や、や、ヤマモトっす」
あのバカ、詰まることは無いだろうに。
「山本くんかぁ。みんなよく聞いてね。あたしは……あの柳生剣豪を………」
だいぶ離れたところで、ぽかんと眺めるオレを指差し、怪しげな視線を放ちながら会場を一巡させた。
「あいつ。あたしの彼氏にするかんね」
ぶふぅぅぅぅーー!
オレは飲み込みかけたオデンのスープを噴き出し、中村くんはどうしたわけか顔を赤くして下を向いた。何でお前が恥ずかしがるんだ。ちゅうよりも、
「な……何を言い出すんだ、オマエ!」
部屋の中央へ飛んで行くものの、こっちはしどろもどろさ。
ところがその前を遮ったは綾羽恭子だ。オレが言葉を吐くよりも先に、
「そうよ。なに勝手なこと言ってんの! 主将に手を出したらワタシが許さないわ!」
何度も言う。スタイル、美貌、そして剣の腕前も女子部員の中で最も上位のオンナで、先に言ったボディガードとはこいつのことだ。オレの周囲に甘酸っぱい香りが漂い始めると、どこからともなく飛んできて、散々蹴散らして消えるオンナなのだ。
だが状況はいつもとは異なった雰囲気が漂っていた。
オレの前で盾となり、カリンの侵入を拒んだ綾羽へ歩み寄り、
「うふふふふ」
してやったり面(つら)で、不気味な笑みを漏らしながら巫女衣装の胸を張った。
「いい子がいるんじゃない。よかった、けんご。その子を大切にするのよ」
「な……なによ。あなた………」
真っ赤に色付いた面差しをテーブルに落とした綾羽は、箸の先で大根の表面を突っつきだした。
「あ……あのだな。カリンはこういう女だ。みんな気を付けるようにな」
と言うしかなかったが、部員の表情はそれぞれで………。
オレと綾羽の様子を交互に窺うのは上層部の男子。残りの女子は中村くんを、ほとんどの男子はカリンを熱い眼差しで見つめていた。
「すんません。カレーお代わりいいすか?」
黙々と我が道を行くのは広川だけだ。何だか恥ずいよ、主将として……。
「ねえ剣豪くん。僕の部屋に来ない?」
その後、退屈したマコトに連れられて、自慢の部屋へ行くことに。
マコトの理数系頭脳は校内でも有名なため、興味のある数人の男子も一緒に付いて来た。
「うぉぉ。すげえぇ」
防具と竹刀しか見たことも無い部員たちだ。中に入り、そこに並んだ複雑な装置を目の当たりにして、皆は驚愕の声を打ち震わせた。
松岡は壁に貼られた葉書みたいなものを指差し、
「綺麗なカードっすね。絵葉書ですか?」
「べリカードだよ」
マコトは淡々と解説する。
「短波受信報告書を放送局に送ると、お礼としてプレゼントしてくれるんだ。ほら、これは南半球にある大陸の放送局だよ。ここの放送が受信できる設備は日本でもそんなにないんだ」
「はあ…………そうっすか」
松岡はあまり興味が無い様子で続ける。
「インターネット全盛の時代っすよ。ネットラジオじゃだめなんすか?」
と言うと、富山もうなず好き。
「アナログっすね」
「ゼロから作るから面白いんだよ。そうするとどんどん思いが未来に広がるんじゃないか。自分の手で何かを作るってアナログもデジタルも無いよ」
マコトの瞳が色濃く煌めきだしたのは間違いない。お前ら火を点けやがったな。
「でもスマホもパソコンも買って来たらすぐインターネットできますよ」
「だからそれでおしまいになるんじゃないか。ゼロから作りあげた人ならその先に夢を馳せることができるんだよ」
「パソコンをゼロからつくるんっすか?」
「もちろんさ」
「…………………………」
青ざめるな、富山。パソコンをゼロから作ることができるのはマコトぐらいだ。
オレだって長年マコトとつるんでいるが、時々コイツは宇宙人じゃないって思うときがある。
だけど中にはこんな奴もいた。
「こっちの機械はなんすか先輩?」
剣道部の中で最も理科系寄りの月島が興味津々の目を向けた。
マコトはニコニコして気さくに説明する。
「短波帯フルモード受信機とアンテナを制御するコンピュータだよ」
「こっちは?」
「マルチバンドレシーバー。500キロヘルツから1ギガヘルツ以上をカバーする受信機さ。意外と優れもんなんだ」
何がどう優れてんのか皆目わからん。
結局、この時点で脱落者続出。大半がパーティ会場へ逃げ戻った。
でも月島は何とか必死で食らいつこうとしていた。
「こりゃすごいですね先輩。これだけの機材があれば気象衛星からの電波でも受信できそうです」
「へぇ。月島くんも傍受したことあんの? それじゃあ『ひまわり』受信したことある? 難しいでしょ。でもねアメリカのNOAAサテライトならフリーソフトでトラッキングできるよ」
「トラッ? ぬなぁーっ! うっ。だ? が?」
ばーか。月島のヤツ、まんまとマコトに釣り上げられてやんの。
エンジンが掛かったマコトはもう止まらない。
「………でさ、僕はもっと違うこと考えてんの。宇宙からの信号解析アプリなんだよ」
「な、なんすか、それ?」
「いま出回っている信号解析ソフトって、いまいちでしょ。そこで…………」
──この後、月島がパーティ会場に戻って来た時は、げっそりやつれていたと言うことだ。
それでオレはどうしたか、って?
そんな難しそうなものを『いまいち』だと宣言するマコトに愛想を尽かして、オレはとうの昔に部屋を出ていた。
会場に戻ると、カリンとミコトの姿が無かったので辺りを探った。
いくら部屋がでかいと言っても、あの二人は目立つ。ちっこいのと紅白衣装のエラそうな女だからな。
中村くんは女子連中に囲まれ迷惑そうだ。その隙間を縫うように山本と岩井がうろうろ。マコトのオヤジさんとお母さんは部屋の隅に持ち込んだテレビを見て腹を抱えて笑っているし、大広間の隅では素振りを繰り返す真面目な、というかバカな連中も現れる。畳が傷むとか言って止めるべきだろうか………。
神殿へ続く長い廊下に出てみたが、そこにもカリンとミコトの姿は無かった。
縁側から外。月明かりがちょうどいい照明となった境内が白く光っており、そこに一人の女性の姿が──。
綾羽だった。
一人きりで、その背中がやけに寂しそうだったので、マコトのツッカケを借りて縁側から降りて近寄ろうとした。だが砂利の音ですぐに気付いた綾羽が手招きをした。
静かにというジェスチャー付きだったので、音が出ない石畳の上へ移動して、綾羽の横に歩み寄った。
「何してんだよ?」
小声で尋ねるオレへ、艶やかな唇を人差し指で押さえ、すぐにその指で石段を示した。
なるほど…………。
数段下りたところで、カリンとミコトが座っており、昇って来たばかりの満月を眺めていた。
巫女衣装が月光に照らされ一種独特の荘厳な雰囲気を漂わせていて、文句無しに溜め息ものだ。
「さっきからあーやってお月さまを見ているんです。なんかあの二人だと絵になりますよね………」
「そうだな。何だかよく分からないオンナだけど。黙っていたら、月から来たと言ってもおかしくないな」
「ねぇー。そう感じますよね」
綾羽の言うとおり、憂いに沈んでるルナ的な絵図らは真剣にそう思ってしまいそうだ。
ミコトも隣で小さな肩を寄り添わせ………。そんな光景に目じりを下げた。
気付かれるとうるさいし、そっと数歩前に出て窺う。
ん?
暗くてよく見えていなかったが、二人は何やら会話をしていた。
(して………花梨(カリン)。ナナミさまの到着は遅れておるのか?)
(はい。レジスター側の到着が相次ぎまして、たぶん身を隠してチャンスを狙っている模様です)
どこかにもう一人、老人がいるようだ。しかも買い出しに行く直前に聞こえた声だと分かり、ひとまず胸を撫で下ろした。
本気で幽霊だとは思っていなかったが、あの時はちょっとどきりとしたのはマジさ。おそらくカリンの身内の人が挨拶をしにこの神社に訪れていたんだ。
(そうか。では今しばらく様子を窺うとするか)
(ですが、お大師様。レジスターはこちらの動きに気付いています)
(かまわぬ。連中もナナミ様がバック付くことを知っておる。そう簡単には手を出さんじゃろ)
それにしても会話の内容がとても不可解で、えらい気になる。何度もナナミと聞こえて来るが、神社のことではなさそうだし。それと、どこからこの老人は語りかけてくるのか、その姿も見当たらないのだ
念入りに辺りを窺うが、爺さんどころか二人以外に人影は無い。声からするとかなりの年配のようだが………。
さらに数歩進んで階段の下を窺うが白い石段が続くだけ。周りは鬱蒼とした茂みが囲っており、人が潜む気配はゼロ。
またもや背筋が寒くなる。
こういうのに弱いんだ。腕っ節が強いのとそっち系が強いのとは比例しない。
触らぬ神に崇り無し。ひとまず戻ることにした。抜き足差し足で綾羽の位置まで引き戻る。
「カリンのヤツ、老人と話してんだけど、その人がどこにもいないんだ」
表向き、老人と称しておこう。霊的な話は伏せておく。
「そんなことありません。二人だけですよ」
「何で言い切れる?」
「だってついさっきまでわたしも混ざって、三人でお月サマを見ていたんです。それで……そろそろ門限の時間だから帰るわね、って声を掛けて部屋に戻ろうとしたら主将と会ったんですから」
「じゃあ。あれはミコトの声か? ありえんぜ。いくら舌足らずで丁寧に喋ったからって、あんな老人みたいな口調にはならんだろ」
(とにかく、今日のところはここまでじゃ)
(はい、お大師様………)
「ほら聞こえただろ? カリンが『オダイシ様』った呼んだぜ? ミコトにか?」
「ワタシには何も聞こえませんけど……………。でもお大師様って徳の高いお坊さんを敬(うやま)って呼ぶことですよ」
「詳しいんだな」
「わたしの家は七海寺(しちかいじ)の檀家(だんか)ですから。仏語(ぶつご)はよく聞いてます」
「でも。ミコトは神社の子だぜ」
「いや知りませんよ。主将がそう言うから………それよりワタシは門限があるので……………そろそろ帰らないと………もしよければ送っていただければ……………」
「おぅ…………」
気もそぞろなオレの耳には、綾羽の声など届くはずもない。
あそこにはミコトしかいないだと?
そんなばかな。いや百歩譲って、あの子の放つ幼げな言葉が老人ぽく聞こえたとしよう。でもなんで綾羽には聞こえない。
やっぱ幽霊?
ば、ばかな。ここは神社だ。幽霊なんか出るものか…………出るのか?
「主将……送ってほしい………」
「え? 何を? 郵便局はもう閉まってるぜ」
綾羽は瞬間絶句。すぐに厳しい面持ちに反転させた。
「な、何を聞いてんですか! もういいですよ!」
月明かりに輝く彼女の怒った顔も、とんでもなく美しかった。
生唾ごっくんさ……………。
で、何で怒ったのだろ?
応援ありがとうございます!
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