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長島一向一揆

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 永禄九年(1566年)三月 岐阜城

 織田家の重臣が居並ぶ、ここは評定の間。現在、重要な案件について、評定が行われていた。

「前年、三好三人衆に討たれた義輝公の弟、義秋殿が上洛せよと、山のように書状を寄こしおるわ」

「それで、上洛成されますか」

 信長が吐き捨てる様に言った言葉に、村井貞勝が一応たずねる。

「長島をそのままにして、上洛など出来るものか」

「殿、では長島を攻めるので?」

 小柄で貧相な男が、長島を攻めて弱体化させてから上洛するのかと聞いた。
 信長の再三にわたる武装解除の通達を無視し続けた願証寺側。信長も建て前として通告しているのだから、通告を跳ねつけられる事は何とも思っていない。併せて長島への攻撃を宣告、長島の明け渡しを求めた。立て籠もる門徒や雑兵に対しても退去勧告を行う。
 この勧告で長島から逃げ出した者は少数だった。

「猿、長島は義弟殿と共同で攻める。北畠も桑名の目の前に、いつまでも狂信者どもが居ては目障りだろう。於市も虎松丸も安心出来まい。
 彦右衛門説明せよ」

 信長が、滝川一益に詳細の説明をまかせる。

「はっ、長島の地は、大軍を展開するに難しい土地です。今回の長島攻めでは、軍を四つに分けて進軍する予定です。
 先ず、殿の第一軍が津島から一ノ江砦を攻めます。第二軍は羽柴殿が、立田輪中の小木江砦を、第三軍は柴田殿が、香取砦から大鳥居砦を、最後に第四軍は某が、鯏浦砦を攻めます。
 左中将殿の北畠軍は、水軍で海上封鎖を行い、水上から大筒で攻撃します。桑名の北にあった中江城と屋長島城は、既に桑名城の詰めの城になっています。左中将殿は、大島城を攻めるそうです」

 滝川一益は周りを見渡し、話を続けて良いか確認する。

「第一目標を達成後、第一軍と第二軍は篠橋城へ。第三軍は松ノ木砦へ。某の第四軍は加路戸砦へ。左中将殿の北畠軍は殿名砦から押付砦へ向かいます」

「ほう、それで長島城はまる裸になる訳か」

 柴田勝家が拡げられた地図を眺めて感心する。

「長島城周辺の城や砦へは、北畠水軍が水上よりの砲撃で徹底的に攻撃を加えます。織田水軍は、我等を輸送する事のみに専念出来るため、迅速な進軍が可能になりました」

「皆、分かったか。各自一つの目標を落とすことに集中すればよい。一向宗からの増援は来ん。では各自準備に取り掛かれ」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 信長は、この度の出陣で長島を潰してしまう積りだった。今川との桶狭間での戦いの際も、服部左京進は、一向宗と組み信長の背後で蜂起しようとしていた。この機会に全て潰し、上洛への障害を取り除こうとしていた。




 永禄九年(1566年)三月 桑名城

 源太郎の前に、仕官希望者が座っていた。

(う~ん、単独でこっちに来たか……、確かに腹に色々溜め込んでそうだけど、義兄上の所へ行くよりは、私の下に居た方が良いだろうな)

 北畠家に仕官を希望して訪れた、四十手前位の壮年の武将。明智十兵衛光秀が仕官を望んで桑名へ訪れた。

 当初、朝倉家へ仕官したそうだが、そこでの扱いはあまり良くなかったそうだ。

(もう少し待てば、足利義秋が朝倉家を頼って越前国へ逃げて行ったんだけど)

「十兵衛殿、私は足利将軍家では、もう日の本は治められないと思っています。このままでは、南蛮の植民地になりかねない。
 ですから私は、将軍家の為に働くのではなく、日の本に住む人の為に働くつもりです。十兵衛殿がそれでも北畠家へ仕官を望むのなら、喜んでお迎えしましょう」

 足利将軍家を見限った発言をした源太郎に、少し驚いた顔をした明智光秀だが、逆に言えば少ししか驚かなかった。

「左中将様の兄弟子だった、義輝公ならいざ知らず。義輝公の弟の義秋殿では話にもならず、平島公方の義親殿では、ただ三好の傀儡を将軍にするだけでしょう。……確かに、足利将軍家は終わってますな」

 明智光秀は少し考え口を開く。

「明智十兵衛光秀、左中将様のもと、天下万民の為に働きます」

「よろしく頼む」

 ここで半兵衛が十兵衛に話しかける。

「某、竹中半兵衛重治と申します。早速ですが、織田殿と合同で長島を攻める事になりました。そこで明智殿にも一軍を率いて頂きたい」

「某が一軍をですか……」

「必要な兵糧や資材があれば、申告すれば支給致します。当座の必要な銭も支給致しますので、遠慮はいりません」

 光秀は、改めて北畠家の財力に畏怖を覚える。そして日の本を一つにする為には、この力が必要になる事も。

「では、某は準備に取り掛かります。殿、某の娘の珠を置いて行きますので、お側に置いて頂ければと思います。では、後ほど」

 光秀は、途中から一方的に話して去って行った。

 ポカンとする源太郎と半兵衛を残して。

「……なんと言うか、中々喰えない御仁ですな」

「あぁ、……娘を押し付けられたのか?」

「このような事が度々あると困りますが、明智殿は、殿との縁を繋ぐと同時に、御自身の野心を抑える為なのではないでしょうか」

「……確かに、……於市になんて言おう」

 源太郎が溜息を吐く。

「因みに、珠殿はまだ四つだそうです」

 半兵衛から、光秀の娘の年齢を聞かされ、首を横に振る。

「それ、虎松丸の方が歳が近いじゃないか」

「しかし虎松丸様では無理ですね。殿でないと」

 虎松丸の正室にしても側室にしても、それなりの家から嫁を迎えなければいけない。

(四つって、しかも珠って、細川ガラシャじゃなかったっけ。今から考えても仕方ないか)

 その後、於市のもとに戻ると、於市と小夜が小さな女の子を可愛がっていた。

「旦那様、明智殿はなかなかに遣り手の様ですね。珠とは、十四になったら祝言を挙げましょう」

「苦労かけるな、於市。よろしく頼む」

 源太郎が於市に頭を下げると、於市と小夜がクスクス笑う。

「殿方が女子に、頭を下げるものではありませんよ。ねえ、小夜殿」

「於市様、そこが殿のお優しい所ではないですか。私は命を救われたばかりか、新たな幸せも頂きましたし」

 そう話す於市と小夜のお腹が少し膨れていた。
 小夜が去年産んだ子は女の子だった。

「旦那様、奥のことは於市にお任せ下さい」




 織田信長が長島に向け軍を動かした。

 それに呼応するように、北畠具房が長島に向け軍を動かした。


 織田軍  五万。
 北畠軍  四万。 北畠水軍二万五千。

 合計  十一万五千。


 対する長島は、七万。

 ここに、史実とは違う長島討伐が始まった。

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