琉球お爺いの綺談

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お爺の一考

続 遊動生活から定住生活へ

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西田正規著「人類史の中の定住革命」を参考文献として

 遊動から定住への課題は、ゴミや排泄物の処理であろう。
  ゴミや排泄物の処理について、実現するのは、かなりの困難が伴ったものと考えられる。清掃と排泄場所のコントロールができるようになって、定住する生物としての行動が可能となるのである。石器時代には、ゴミが散乱していた住居跡が、縄文期にはゴミが散乱しておらず、住居の外に貝塚のような形で、ゴミの集積所が構築されていったことが、発掘調査から確認されている。
  磨製石器による、石斧やナイフによって、木材加工が一定の精度で製作されるようになり、薪の確保も行われるようになったと確認できる。水場や薪、食料の調達が、一定の範囲内で可能でなければ、定住することはできない。



  社会的な緊張の解消は、集落の構成員によるストレスの増加や不和や不満を解消しなければならない。
  権利や義務の規定が始まり、一定の権威を持った存在を必要とするのも、こういった社会的な側面から発生したものと考えられる。また、貯蓄という概念が生じるのも、定住による影響となる。



  定住すれば、死や穢れともまた付き合っていかなければならない。結果的に、宗教的な儀式が始まるのも、定住による影響である。遊動であれば、死者と出会うことはない可能性も高いが、定住すれば、死者の霊という対象に対しの配慮を必要とするようになる。こういった宗教的な観念操作を必要とするのも、定住することによる影響である。
  こういった行為は、病などの災いについても、発生することとなる。



 定住すると、環境の視覚的変化が減少する。ここから心理的な緊張が低下すると考えられる。つまりは、心理的な緊張が低下するのを防ぐため、宗教的な儀式や、政治経済システム、芸能といった娯楽要素を必要とするのも、定住による影響と言える。ローマ帝国が、パンの提供と共に、娯楽の提供を必要としたのも、こういった心理的な緊張を持続するための工夫という言い方をすることができる。
  装身具や土偶といった、一定の芸術的な価値を持たせた製品が作られていくのも、こういった定住が必要とするの内容となる。ファーストネイションがおこなうポトラッチもまた、定住による心理的な緊張を維持するための技法ということになる。



  定住の動機は、狩猟や漁獲が、一定の範囲で可能であるという、生存条件に起因していると考えられる。
  鮭の遡上や鮎の遡上が、大量に発生する地域では、漁獲による食料の確保が可能であることを示す。つまりは、農耕が始まるよりも、定住生活は先であったと推定されている。定住生活が浸透した結果として、堅果類を住居近くに植えることによる栽培が進んだり、農耕というほどではないが、栽培に近い食料の定量確保がすすんでいたものと考えられている。
  ファーストネイションによる定住生活は、魚網などの漁獲技術の進展が、重要な要素であったことは間違いない。
  越冬可能な食料加工法もまた、定住生活に必要な技術的な課題であった。クリ、ドングリ、マツ、クルミといった堅果類について、一定の収穫が可能となっていくのも、定住生活の前提条件であったように考えられる。



  定住生活の始まりと浸透が、人類世界を大きく変えたことは、間違いのない事実である。
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