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モロビトコゾリテ

2裏

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撮影も終わって、これからご飯でも行こうって流れになる現場で、ウチは一人スマホをいじっていた。普段だったら付き合いで一緒に行くこともあるけど、今日は先約があって断っていた。
「えー、冴子ちゃんマジで行かないの? ノリ悪いー」
後輩がしつこく食い下がってきたけれど、ウチは適当にあしらいながら、撮影が終了したことをメッセージで送る。すると、可愛らしいスタンプのあとに、『すぐに向かいます!』と返信がくる。
ウチはくすっと笑ってから、『まだ場所も決めてないじゃん』と送信する。
この前、久しぶりに連絡をくれた間久辺の妹、絵里加ちゃんから、『ウチに彼氏がいるのか?』と質問を受けたことで、あいつが大きな勘違いをしていることを知ったウチは、空き教室に間久辺を連れ込んで、彼氏なんていないことをはっきり告げた。
それをきっかけに、絵里加ちゃんとは連絡を取り合うようになり、今日、これから出掛けることになっている。
まあ、出かけるって言ってもいきなり二人きりっていうのも緊張させちゃうかもしれないと思って、友達でも誘いなよって伝えたんだけど、ウチに遠慮したのか、絵里加ちゃんは誰も誘わなかったみたい。
それならと、ウチの親友を誘ってみることにした。
百合は人当たりが良いし、年下の絵里加ちゃんも緊張せずに接することができると思う。
そういう訳で、待ち合わせ場所に一番乗りして待っていると、相変わらずの人通りの多さにうんざりする。駅改札の前は待ち合わせ客でごった返しているため、少し外れた切符売り場の脇でSNSをチェックしながら待っていると、二人組の男が近付いてくるのを視界の端で捉え、勘違いならいいなーと思いながら身構えていると、案の定声をかけられた。
「こんにちわー。君一人? 暇だったら俺たちと遊び行かない?」
うるさいなぁ。そう思い、無視を決め込んでいると、男たちは更にしつこく食い下がってくる。
「ねえねえ。俺ら全部金持つし、いいじゃん。街、繰り出しちゃおうぜ」
あんまりにもしつこいもんだから、いい加減頭にきて、ウチはスマホから顔をあげる。二人組の姿を上から下に眺めて、一言、「ダッサ」と言う。
まずは、右側に立つ男の方をウチは指差した。
「青シャツにチノパンとか、まんま大学生ファッション。後ろ見てみな? 同じ格好した人めっちゃ歩いているから」
そして、今度は左側の男の腰のあたりを指差す。
「つか、ウォレットチェーンとか中学生? じゃらじゃらうるさくて、数メートル向こうから近付いてるのわかったから」
捲し立てるようにそう言うと、今度は二人を交互に観察してから、はっきり告げる。
「その身なりでナンパとか、ないわぁ」
しみじみそう言うと、男たちは最初こそ苦笑いをつくろっていたが、後半は赤面して言葉も出ないようだった。
「な、なあ。もう行こうぜ」
そう言って、チェーンの男は振り返り、友人を連れて足早に立ち去って行った。
ウチは、ふんと鼻をならすと、再びスマホに視線を落とした。
別に、ウチだってあんなこと好きで言ってるわけじゃない。
他人の服装に口出すつもりなんてないし、道行く人がどんな格好をしていても気にはならない。最低限、周りの人間を不快にさせない配慮があるのであれば、ファッションなんて、結局のところ自己満足で完結していいと思う。似合う似合わないはあるけれど、本人が好きだという格好を、他人がとやかく言う権利はない。
だけど、あんな風にへらへらして女に声かけてくるような男は、自分に自信がある勘違い野郎ばかりだ。そういう、他人のパーソナルスペースに平気で入り込んでくる男には、ビシッと言ってやらないと気が済まないのよね。

それから五分もしないうちに、百合が待ち合わせ場所にやってきたみたい。
メッセージを見て、改札前に到着すると、周囲をきょろきょろ見渡す百合の姿があった。
ポンと肩を叩き、「おはよ」と呼び掛ける。
百合との合流を果たして、五分も経過しない内に、絵里加ちゃんが走ってやって来る。そんなに急がなくてもいいのに、目の前に来てからも、肩で息しちゃって、なんだか健気で可愛い。後輩って本来こうあるべきよね。
「あ、あのっ。ごめんなさい、待たせちゃって」
慌ててそう言う絵里加ちゃんに、ウチは満面の笑みで首を振る。
「ウチは仕事終わりだし、百合もいま来たところだから、全然待ってないよ」
「あっ、そちらお姉さまのお友達の方ですよね? 初めまして。間久辺絵里加っていいます。よろしくお願いします」
深々とお辞儀した絵里加ちゃん。
だが、百合の視線は絵里加ちゃんではなく、バッとウチに向いた。
「冴子。中学生の子にお姉さまって呼ばせてるの?」
「違うっ、それは誤解よ! この件に関しては何度も止めたのに、絵里加ちゃんが頑なに止めてくれないのよっ」
髪を振り乱す勢いで頭を上げた絵里加ちゃんは、むんと鼻息荒く頷いた。
「当たり前ですよ。冴子ちゃんは私にとっての憧れであり、尊敬する対象ですからね! 冴子ちゃんマジお姉さま! って感じですよ」
……うわぁ。なんだろう、いますごい残念な血筋を感じちゃった。
「ねえ、冴子。私思ったんだけどさ、血は争えないよね。いまのってすっごい彼が言いそうだもん」
皆まで言わなくてもわかる。
ほんと、変な所があいつに似てるんだから。
「ちょっとお姉さまたち、いま聞き捨てならないこと言いませんでした?」
「そんなことないって。ウチら、人類の神秘について話し合ってただけだから。DNAってマジすごいよね」
「ほら、それやっぱり私が兄貴に似てるって言ってるんじゃないですか! やめて下さいよ本気でっ」
ドンマイ間久辺。あんたの妹、お兄様とDNAレベルで結びついてるの、割と本気で嫌がってるみたい。
「まあいいや。冗談はこれくらいにして、絵里加ちゃん、今日どっか行きたい所とかある?」
「え、私ですか? 私は、お二人に付き合いますよ。そんなわがまま言えませんよ」
「そう言われても、ウチは絵里加ちゃんに合わせるつもりだったからノープランなのよね。百合はどう?」
「私? 私だって誘われた立場だもん。なにも考えてないよ」
「だってさ、どうする絵里加ちゃん。ウチら先輩たちが、ノープランで困ってるよ。後輩がなにか意見くれると有難いんだけど」
そう言うと、絵里加ちゃんは少し考える素振りを見せる。どこかの鈍い兄貴と違って、彼女は勘が鋭いので、すぐにウチらの言いたいことを汲み取り、口を開いた。
「それじゃあ、服を見てもらいたいです。お姉さまに服を選んでもらうの、ずっと夢だったんで」
「そんなことなら喜んで。ちなみに言っとくけど、可愛い系の服なら百合にアドバイスもらうといいよ。ウチも知識としてはわかるけど、実際に着こなしてる人間には勝てないもん」
「そんなこと言って、私の服だって冴子が選んでくれた物ばかりじゃない」
そう言われ、ウチは百合の姿を観察する。今日の百合の格好は、チェックのシャツの上からダウンベストを羽織り、花柄のゆったりしたパンツに、白いスニーカーを合わせた、スポーティーな中に可愛らしさを取り入れた格好だ。それら一つ一つのアイテムは、確かにウチが買い物に付いて行って選んだ物だが、着こなしは彼女のセンスだ。
そう伝えると、百合は笑みを作って絵里加ちゃんを見た。
「冴子のお墨付きももらえたし、私でよければいくらでも意見聞かせるからね。絵里加ちゃん」
「ありがとうございますっ、お姉さま方!」
快活に答えた絵里加ちゃんを引き連れて、ウチらは早速行動を開始した。駅の西口の方を出て、買い物客で賑わうショッピング通りに三人で繰り出した。
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