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文久3年

勤務先、ゲットだぜ!(壱)

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 翌朝。淡い朝日が窓の障子を抜けて部屋に入り込んでいる。

 あ、言い忘れていたが、この南部屋です。

 私はふかふかの布団の中で天井を見上げていた。いや、目ぇ見えてないから正確には"見上げて"ないけどね。顔が天井の方向いてるだけだから。私には天井なんて見えてないから。

 いや、長かった。とても長かったよ。鎧のア○フォンス・○ルリックさんよ。私はあなたの感じていたことがしみじみよくわかるよ。

 不眠の夜って長すぎて辛い!!




 え?いきなりどうしたって?

 いや、夜も間一睡もできないのが予想よりもはるかに辛いってことを悟ったんですよ。

(夜が長すぎるーー!)
『ふわぁ………なんじゃなんじゃ。朝から騒がしいのう』
(やかまし!ほむろはぐっすり寝てたでしょ!)

 私と違って、あなたさっきまで超熟睡してたでしょ!私は超覚醒してたんだから安眠妨害ぐらい水に流しなさい!

 早くも性格がひねくれてきたかもしれない。

 私は九尾の狐の持つ9つの能力を持っている。それは周知(もちろん私とほむろ限定である)の事実だ。

 その能力の中には、"何をしても永遠に疲れない"、みたいな感じの能力があるのだ。

 里から大坂まで、あれだけ長く歩いてきたのに全然疲れないし、おお!これは便利な力だなぁ~、と本気で思っていた。




 ただし、昨日の就寝前までは、だが。

 昨日の夜に、この能力が実はとんでもない曲者であることが判明したのだ。

 この能力は、なんと持っていると眠ることができないのだ!

 眠気なんて一切合切こないし、目を閉じても一行に寝れない。頭の中を無にしても眠れる気配はかけらもない。

 そう!つまりあの鎧の錬金術師くんのように、夜の6・7時間をまるっきり起きた状態で過ごさないといけないのだ。

 ほむろは不眠の能力を私に取られたからさっさと寝入ってしまって、話し相手もいなかった。

 叩き起こしてもよかったんだが、あまりに良く寝てたからそっとしておいたのだ。

 猫(狐?)への気遣いは残っているというね。なんか悲しくなってきた。

 私は窓辺から夜の寝静まった大坂の街を眺めたり、部屋で柔軟体操をやったり、ラジオ体操をやってみたり、とにかくあらゆる方法を考えて暇をつぶすハメになった。

 最終的には部屋を抜け出し、"誰にも気づかれずに家の廊下を走破できるか!"っていう、ものすごく謎な挑戦を始めたり。

 それでもネタが尽きて3分の1の時間は布団の上でぼーっとするいがいなかったけど!

 これでも頑張ったんだよ?

 テレビも漫画もゲームも(あっても今の私には見えないけど)何もないこの世界で、(謎に満ちた行動でだが)4時間も時間をつぶせた自分を褒めてやりたい。

 空虚な時間、ってのはこういうものなんだ!なんていういらない悟りを開いちゃって………。




 これは拷問だ。精神的な拷問だ。




 不眠になる理由としてはおそらく…………。

 "何をしてもお疲れることがないし、体に疲労が蓄積されないのだから、疲れを取るための行為である睡眠も必要もないでしょ?"

 みたいな感じなのだろうなぁ………。
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