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元治元年

京の都目指してレッツゴー!(弐)

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 ところで、目も見えず耳も聞こえず足の裏に地面を感じることもできない(つまり相当詰んでる)私がどうやって移動しているかというと非常に実態が複雑です。

 まず、生命や物体の気配や位置を察知する、おなじみの風読みの術はほぼ常時発動している必要がある。

 "目"であるほむろに任せても良いのだが、それだとどこに何があるのか、誰がいるのかをいちいち聞かないといけないから手間がかかる。

 そして実際に面倒事に遭遇した場合、ほむろから連絡が入るのを待つんじゃあ逃げ出すまでにタイムロスができてしまう。その間にバッサリ斬られる可能性もある。

 二つ目、時々立ち止まって、周りに使える薬草や山菜、キノコがないかを探るために探査の術を使う。

 ここで歩きながら術を使うと、私は周りの空気の状態を読み取れないから多分いろんな問題を起こす。木にぶつかったり、石につまづいたり、蔓に引っかかったり。

 この術は周囲の探索し、私が事前に指示を出した"安全に食べられる"または"薬草"の条件を満たす植物があるかどうか、あるのなら何があるのかを知らせてくれる。

 ここで大事なのは、場所までは教えてくれないところです。物々の場所を教えてくれるのは、いつだって風読みの術だけなんです。

 そしてそういう植物を見つけたら、移転の術でほむろの背中に結びつけてある風呂敷の中に収納。風呂敷の中には空間拡張の術がかけてあります。

 進むべき方向などは全てほむろに丸投げである。こればっかりは目が見えないからどうしようもない。

 妖術は便利だけど、万能というわけではないのです。できないこともあるのですよ。方角を知ることとか。

『前方注意!』
(巨大な岩があるのを探知!迂回しなきゃ)
『あ、そっちには段差があるぞ。こっちの平らな方から迂回した方が良くないか?』
(すいませんごめんなさいそっち行きます。お前が悪いんだぞ!段差!)
『いや段差にそんなこと言ってどうするんじゃ。それに段差はそっちじゃない、も少し手前じゃ』

 皮膚の感覚がなくなり、道を歩いても空中を歩いているようにしか思えないこの浮遊感?にもだいぶ慣れてきたけど、段差は未だに怖くて寿命が縮まる思いです。

 だってみなさん想像してみてくださいよ。段差がある場所はわかるけど、踏み出した先のどこに次の地面があるかわからないんですよ?

 段差だ、と言われて踏み出した先は1mある可能性もあるのに、それを知ることができないのです。

 風読みの術はあくまで空気の流れを読む術であって、段差の高さや床の位置を教えてくれる術ではないから。

 空気の流れ上、または下に向いているからここには段差がある。これ以外のことはわからないのです。




 怖すぎます。




 触覚よ早く戻ってこい。でも触覚が戻ってくる痛覚もセットで戻ってくるからそこだけちょっとやだ。誰だって痛いのは嫌いだもん。

(………よいしょ。これで迂回できたかな?岩の気配は背後にあるけど)
『問題ない。ほれ、先に進むぞ!』
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