Retry 異世界生活記

ダース

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第2章.少年期

30.道筋

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1ヵ月の収入が1200ガルしかないのに
今月の支出は3000ガルになってしまった。

どうしよう。

それもこれも全部あいつナイススレンダーのせいだ。


結局この前も、
「金はわたしがなんとかすると言っておるだろう。今は持ってないが…」
とか

「先週約束したことを反故ほごにするばかりか、わたしの要求を断ると…そう言っているのか…?」
と再び脅され、

次もシュクルムを1つだけでいいから持って来いと約束させられてしまった。


ちくしょう…。
あいつナイススレンダー、金をなんとかする気なんて絶対にない。
なんたって、普段は森にいて週末だけシュクルムをたかりに来ているんだから…。

そういえば、
「買ってきた暁には褒美をやろう…」
とか言ってたのになにも貰ってないぞ?

俺がせっかく稼いだお金を搾り取りやがって…

あいつナイススレンダーから貰えそうなものか…

…よし…。

今日はあいつナイススレンダーを問い詰めてやる。


そう決意し、今日もシュクルムを持ってあの路地裏に向かう。



やっぱりいたか。金髪め。

「待っておったぞ。出すがよい。」

本当にこいつ…。
と思いつつシュクルムを手渡す。

受け取るや否やばくばくと食べだす。
もう気にしてもしょうがないなと思い、今日の決意を口に出す。


「そう言えばこの前、シュクルムを持ってきたらやると言っていた褒美を貰おう。」
俺がそう言うと、


「へ…?そ…そうだっかのう…。ほ…褒美…?」
と言って自分のポケットなどをあさり始めた。

うむ。これはあれだな。

「な…何も持っておらんな…。…今日は…」
と視線をあさっての方向に向けてつぶやいた。

予想通りである。

そして
「絶対次も持ってないだろ!金の当てもどうせないだろ!!」
図星ずぼしであろうことをナイススレンダーに向かって言い放った。


「な…無いものは無いのだ。しょうがないであろうに…。」

「じゃあ、もうシュクルム買えないな。」

「で…ではどうすればよいのだ…。」
表情が絶望的になっている。
俺を脅している時の表情はどうした。


金髪、スレンダーな品のいい女性の風貌のくせに
こいつはコロコロと表情が変わるな。
と思いつつ、

偉そうな態度から急降下で絶望的な表情を浮かべている目の前のやつが
なんだかいたたまれなくなり、金策の手立てを提案してしまった。


「お前強いんだろう?なにができる。」

戦ったわけではないが、
あの気圧けおされるような恐怖感…。
あの魔法。
こいつナイススレンダー、悔しいが明らかに強い…。


するとさっきとはうって変わって
得意げな表情になり、
「わたしか?まぁそうだな。それなりに強いぞ?下手な魔物や人など一瞬で焼き払える。わたしの魔法は強力だからな。」


「…そうだな。じゃあ、来週、お前の普段の住処すみかの周りで、弱い魔物を数匹倒して持ってこい。金を作れるかもしれない。」


「本当か!?…弱い奴でよいのか?」


「弱い奴がいい。」










「…それと…俺に、お前の魔法を教えろ。」





無一文のこいつナイススレンダーから貰える唯一の褒美。

だが、おそらく相当な価値があるのではないかと思った。
学校での授業や、家で一人で練習しているだけでは成し得ないことができそうな気がしたのだ。

そして俺は最初に路地裏に連れて行かれた時に
こいつナイススレンダーが火の球を10個同時に出したことに対して
単純にすごいと思った。

まぁ、強力な魔力を持つ魔物「妖狐」としては普通なのかもしれないが。

俺はそれを身に付け、
学校の授業で、「わーすごーい!!」と言われたいのだ。
いつまでもこ綺麗な少年におかどを奪われたままではいられないのだ。


それと、
…こいつはめちゃくちゃなやつだが、
今のところ人を殺したりはしなさそうだ。
わざわざヒトに化けて、人の街に入ってくるくらいだからな。


この世界の魔法のことは勉強し始めたばかりだし、わからなことだらけだ。

強いやつに聞いてみたかったのだ。



ナイススレンダーは俺の言葉を聞くと、
赤みがかった瞳で俺を見据え、
いつか見た、
口元を少し上げたような、にやりとした顔で言った。

「それが褒美でよいのか?おまえに、わたしの魔法が使えるかはわからんぞ?なにせわたしの魔法は強力だからな。」


「やってみなきゃわからないだろ。」

俺もなぜか少しにやりとしながら答えた。

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