4 / 166
ご主人様の正体 ①
しおりを挟む
ふかふかの布団で目が覚めた。
「あ、痛ててて。」
頭がずきずきする。
「おや、お目覚めですか。あ、そのまま、そのまま。」
高梨さんが、ベッド脇の椅子から起き上がろうとする俺を制止しながら立ち上がった。
「先日の事は何か覚えてらっしゃいますか。」
「先日って、、、。あああああああ。は、はい、、。一応は、、。」
男気出して、逆にヴァンパイアにコテンパンにやられたことなら、残念なことにはっきりと覚えていた。
「でも、途中からの記憶がなくて。」
「ほほほ、当然ですね。一宇さまは脳への酸素供給が途絶えたことによる失神状態になられたのですから。柔道の選手が絞め技で落ちるのと同じ原理ですね。丸一日お休みになってたんですよ。」
「そ、それで、アヤメは無事なんですか?」
飛び起きようとする俺を再び制止しながら、高梨さんが続ける。
「アヤメ様の心配を?それならご心配は無用でございますよ。アヤメ様はピンピンんしておいでです。一宇様に酷いことをした無頼の輩も捕らえ、バイクのパーツも無事に取り戻しましたから、ご安心ください。あのヴァンパイアは人間の眷属を使って置き引きやひったくりをしていたようですね。その罪も加算されるでしょう。」
「ところで、俺はどうやってここに帰ってきたんですか。」
その時、ドアが開きスマ眷の宗助所長が顔を出した。
「僭越ながら、私とケンタロウでこちらまでお連れしたんですよ。」
「一宇、心配したよ。」
小太りの眼鏡をかけた青年が寄ってきて顔をペロペロと舐める。
「うわっ。ヤメロ!誰だよ。」
俺は男を遠ざける。
くーん。
「え、ケンタロウなのか?」
青年の尻のあたりに無いはずの尻尾がブルンブルンと振られているのが見えたような気がした。
「宗助所長、お手数をおかけして、すみませんでした。ケンタロウもありがとうな。」
俺はケンタロウの頭をなでた。人間のケンタロウがベッドの上に転がって腹を上に向けた。
「撫でてくれって言ってます。」
「今度、狼の時な。」
さすがに男の腹の撫でるのは気が引ける。ケンタロウは不満そうにベッドから降りた。
「紅谷の翁饅頭もよろしくね。」
この卑しさ間違いなくケンタロウだ。
「ほらね。アタシの言った通りだったでしょ。一宇君ならアヤメとうまくやれると思いましたよ。」
「お言葉ですが、宗助所長は僕が旧式バイク修理できることを知ってたからアヤメとうまくやれると思ったんでしょ。」
「え。旧式バイク。修理ができるんですか?なるほど、なるほどねぇ。でも、それは初耳ですよ。」
「じゃなんで。」
「アタシは、そういう感が働くって言ったでしょ。」
そう言って宗助さんは、意味ありげに笑った。
そういえば。宗助所長は俺の履歴書も見ないでここに派遣したんだった。
「なので、バイクの修理が終わったら速攻クビになると思いますんで、そん時はまた別の仕事紹介してください。」
「そんな心配はないですよ。契約したんでしょ?」
そう言って宗助所長は小指を立てる。
「まぁ、クビになったら新しい眷属先を紹介しましょ。」
「あいつ、目が覚めたの?」
今度はアヤメが部屋に飛び込んでくた。
「あんた。大丈夫なの?日本男児とかなんとか威勢のいいこと言って飛び込んでいったくせに、何なのよあのザマ。情けないったらないわよ。」
「いや、面目ない。」
俺は可能な限り小さくなった。
「アヤメちゃん、手厳しいねぇ。日本男子ねぇ。今どきの日本で珍しいじゃない。アタシは嫌いじゃないですよ。」
「実力が伴わないんじゃ意味がないわよ。」
俺はさらに小さくなった。
「そんな意地悪な事ばっか言って。夕べは心配で何回もこの部屋を出たり入ったりしてたんでしょ。素直じゃないねぇアヤメちゃんは。」
アヤメが真っ赤になる。
「宗助兄さまの意地悪!一宇!今日はそこで寝ていなさい。これは命令よ。明日になったらバイク修理してもらうからね!」
アヤメは乱暴に扉を閉め部屋を出て行った。
「アヤメ様の言う通りです。一宇さまはもう少しお休みになってください。後でお食事をお持ちしますね。」
高梨さんの一声でみんなが出ていき部屋が一気に静かになった。
丸一日寝ていただけあって不思議と眠くはなかった。思い出したくない筈なのに夕べの事を思い出す。
意識が遠のく前に聞こえたヴァンパイアポリスってなんなんだ。あの声は間違いなくアヤメの声だった。それと、あいつ俺より年上って、どう見ても15、6歳ぐらいにしか見えない。
そういえば、ヴァンパイアは人間の倍の寿命があるらしいから、成長も人間の2倍かかるのかもしれない。ってことは、15くらいに見えるけど実際は30歳ってことか。
でもあいつの行動はまんま15歳くらいにしか見えないけどな。
ぐるぐると考えていくうちにいつの間にかまた眠りに落ちた。
翌朝はスッキリと目が醒めた。頭痛もない。
布団から起き出して、食堂に行くと高梨さんが食事の準備をしていた。
「おや、お目覚めになったんですね。体調はいかがですか?」
「おかげさまで絶好調です。ご迷惑をおかけしました。」
「宗助様とケンタロウ様はお帰りになりました。アヤメ様もお休みになっておられます。」
「もうすぐ、朝食ができますがここでお召し上がりになりますか?」
鍋からはいい匂いのする湯気が立っている。
「ありがとうございます。迷惑かけた上に食事まで作ってもらって、すみません。」
「何をおっしゃいますか。実は、料理はわたくしの数少ない趣味の一つでして、久しぶりに「美味しい」と言って食べてくれる人が現れてうれしい限りですよ。亡くなった先代様は大変素晴らしい方で、先代様の眷属になれたことは身に余る幸せでしたが、料理の腕を振るえないことを常々残念思っておりました。ですから、一宇様はご遠慮なく沢山召しあがてください。」
「ありがとうございます。」
「高梨さんにお聞きしたいことがあるんですけど。」
「私に分かることでしたら。」
「先日、例のバーでヴァンパイアの男に首を絞められて気を失う寸前に、アヤメが入ってきてヴァンパイアポリスとか、執行官とか言ってたんですけど、あれはどういう意味ですか?」
「そうですね。一宇様はアヤメ様の眷属でらっしゃるからいずれ分かるとは思いますが、アヤメ様の苗字の刑部(おさべ)姓というのは、昔からヴァンパイア社会の秩序を守り、犯罪を犯したヴァンパイアを罰する任を担う一族なのです。
ヴァンパイア社会の警察みたいなものですね。ただし、人間の警察とは違ってヴァンパイアの警察官は世襲制でして、代々、刑部の者がその任に就く決まりです。先代様が亡くなって、今はその任をアヤメ様が継がれました。」
「しかし、そのコソ泥も運が悪い。よりによってアヤメ様の物を盗んで、眷属に手を出すとは、相当痛い目にあったでしょうね。」
高梨さんは愉快でたまらないといったように笑った。
(俺は肝心なところを見逃したわけか。)
「俺、ガレージでバイクを仕上げてしまいます。」
「お身体は大丈夫でございますか?無理をなさいませんように。」
「ははは。体調は良いです。それに、俺のミスで3日も遅れてますから。」
「わかりました。後で昼食をお持ちしましょう。」
「ありがとうございます。」
俺はキッチンを出てまっすぐガレージに急いだ。
「あ、痛ててて。」
頭がずきずきする。
「おや、お目覚めですか。あ、そのまま、そのまま。」
高梨さんが、ベッド脇の椅子から起き上がろうとする俺を制止しながら立ち上がった。
「先日の事は何か覚えてらっしゃいますか。」
「先日って、、、。あああああああ。は、はい、、。一応は、、。」
男気出して、逆にヴァンパイアにコテンパンにやられたことなら、残念なことにはっきりと覚えていた。
「でも、途中からの記憶がなくて。」
「ほほほ、当然ですね。一宇さまは脳への酸素供給が途絶えたことによる失神状態になられたのですから。柔道の選手が絞め技で落ちるのと同じ原理ですね。丸一日お休みになってたんですよ。」
「そ、それで、アヤメは無事なんですか?」
飛び起きようとする俺を再び制止しながら、高梨さんが続ける。
「アヤメ様の心配を?それならご心配は無用でございますよ。アヤメ様はピンピンんしておいでです。一宇様に酷いことをした無頼の輩も捕らえ、バイクのパーツも無事に取り戻しましたから、ご安心ください。あのヴァンパイアは人間の眷属を使って置き引きやひったくりをしていたようですね。その罪も加算されるでしょう。」
「ところで、俺はどうやってここに帰ってきたんですか。」
その時、ドアが開きスマ眷の宗助所長が顔を出した。
「僭越ながら、私とケンタロウでこちらまでお連れしたんですよ。」
「一宇、心配したよ。」
小太りの眼鏡をかけた青年が寄ってきて顔をペロペロと舐める。
「うわっ。ヤメロ!誰だよ。」
俺は男を遠ざける。
くーん。
「え、ケンタロウなのか?」
青年の尻のあたりに無いはずの尻尾がブルンブルンと振られているのが見えたような気がした。
「宗助所長、お手数をおかけして、すみませんでした。ケンタロウもありがとうな。」
俺はケンタロウの頭をなでた。人間のケンタロウがベッドの上に転がって腹を上に向けた。
「撫でてくれって言ってます。」
「今度、狼の時な。」
さすがに男の腹の撫でるのは気が引ける。ケンタロウは不満そうにベッドから降りた。
「紅谷の翁饅頭もよろしくね。」
この卑しさ間違いなくケンタロウだ。
「ほらね。アタシの言った通りだったでしょ。一宇君ならアヤメとうまくやれると思いましたよ。」
「お言葉ですが、宗助所長は僕が旧式バイク修理できることを知ってたからアヤメとうまくやれると思ったんでしょ。」
「え。旧式バイク。修理ができるんですか?なるほど、なるほどねぇ。でも、それは初耳ですよ。」
「じゃなんで。」
「アタシは、そういう感が働くって言ったでしょ。」
そう言って宗助さんは、意味ありげに笑った。
そういえば。宗助所長は俺の履歴書も見ないでここに派遣したんだった。
「なので、バイクの修理が終わったら速攻クビになると思いますんで、そん時はまた別の仕事紹介してください。」
「そんな心配はないですよ。契約したんでしょ?」
そう言って宗助所長は小指を立てる。
「まぁ、クビになったら新しい眷属先を紹介しましょ。」
「あいつ、目が覚めたの?」
今度はアヤメが部屋に飛び込んでくた。
「あんた。大丈夫なの?日本男児とかなんとか威勢のいいこと言って飛び込んでいったくせに、何なのよあのザマ。情けないったらないわよ。」
「いや、面目ない。」
俺は可能な限り小さくなった。
「アヤメちゃん、手厳しいねぇ。日本男子ねぇ。今どきの日本で珍しいじゃない。アタシは嫌いじゃないですよ。」
「実力が伴わないんじゃ意味がないわよ。」
俺はさらに小さくなった。
「そんな意地悪な事ばっか言って。夕べは心配で何回もこの部屋を出たり入ったりしてたんでしょ。素直じゃないねぇアヤメちゃんは。」
アヤメが真っ赤になる。
「宗助兄さまの意地悪!一宇!今日はそこで寝ていなさい。これは命令よ。明日になったらバイク修理してもらうからね!」
アヤメは乱暴に扉を閉め部屋を出て行った。
「アヤメ様の言う通りです。一宇さまはもう少しお休みになってください。後でお食事をお持ちしますね。」
高梨さんの一声でみんなが出ていき部屋が一気に静かになった。
丸一日寝ていただけあって不思議と眠くはなかった。思い出したくない筈なのに夕べの事を思い出す。
意識が遠のく前に聞こえたヴァンパイアポリスってなんなんだ。あの声は間違いなくアヤメの声だった。それと、あいつ俺より年上って、どう見ても15、6歳ぐらいにしか見えない。
そういえば、ヴァンパイアは人間の倍の寿命があるらしいから、成長も人間の2倍かかるのかもしれない。ってことは、15くらいに見えるけど実際は30歳ってことか。
でもあいつの行動はまんま15歳くらいにしか見えないけどな。
ぐるぐると考えていくうちにいつの間にかまた眠りに落ちた。
翌朝はスッキリと目が醒めた。頭痛もない。
布団から起き出して、食堂に行くと高梨さんが食事の準備をしていた。
「おや、お目覚めになったんですね。体調はいかがですか?」
「おかげさまで絶好調です。ご迷惑をおかけしました。」
「宗助様とケンタロウ様はお帰りになりました。アヤメ様もお休みになっておられます。」
「もうすぐ、朝食ができますがここでお召し上がりになりますか?」
鍋からはいい匂いのする湯気が立っている。
「ありがとうございます。迷惑かけた上に食事まで作ってもらって、すみません。」
「何をおっしゃいますか。実は、料理はわたくしの数少ない趣味の一つでして、久しぶりに「美味しい」と言って食べてくれる人が現れてうれしい限りですよ。亡くなった先代様は大変素晴らしい方で、先代様の眷属になれたことは身に余る幸せでしたが、料理の腕を振るえないことを常々残念思っておりました。ですから、一宇様はご遠慮なく沢山召しあがてください。」
「ありがとうございます。」
「高梨さんにお聞きしたいことがあるんですけど。」
「私に分かることでしたら。」
「先日、例のバーでヴァンパイアの男に首を絞められて気を失う寸前に、アヤメが入ってきてヴァンパイアポリスとか、執行官とか言ってたんですけど、あれはどういう意味ですか?」
「そうですね。一宇様はアヤメ様の眷属でらっしゃるからいずれ分かるとは思いますが、アヤメ様の苗字の刑部(おさべ)姓というのは、昔からヴァンパイア社会の秩序を守り、犯罪を犯したヴァンパイアを罰する任を担う一族なのです。
ヴァンパイア社会の警察みたいなものですね。ただし、人間の警察とは違ってヴァンパイアの警察官は世襲制でして、代々、刑部の者がその任に就く決まりです。先代様が亡くなって、今はその任をアヤメ様が継がれました。」
「しかし、そのコソ泥も運が悪い。よりによってアヤメ様の物を盗んで、眷属に手を出すとは、相当痛い目にあったでしょうね。」
高梨さんは愉快でたまらないといったように笑った。
(俺は肝心なところを見逃したわけか。)
「俺、ガレージでバイクを仕上げてしまいます。」
「お身体は大丈夫でございますか?無理をなさいませんように。」
「ははは。体調は良いです。それに、俺のミスで3日も遅れてますから。」
「わかりました。後で昼食をお持ちしましょう。」
「ありがとうございます。」
俺はキッチンを出てまっすぐガレージに急いだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
59
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる