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実力と能力

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 1体のオーガの正面に立つテル。両手には愛用のナイフだ。

 「刃物は通らぬと言っていたがあのような得物で大丈夫なのだろうか。」

 先程のユキの攻撃でオーガは激怒している。身長250cmは下らない巨大な体躯のオーガがこれまた人間の大人程もある巨大な金棒をテルに向かい叩き付ける。

 「テルッ!!」

 思わずユキが叫ぶがそこにテルの姿は既に無く。

 「あれは『てれぽーてーしょん』という術か…」

 テルは攻撃して来たオーガとは別の、油断していたオーガの肩に座り両目をナイフで潰していた。目を潰されたオーガも攻撃を仕掛けたオーガも何が起こったか全く理解できていない様子だ。テルはナイフを仕舞い背中の長剣を抜く。目を潰したオーガの背後から駆け寄り比較的脆弱なアキレス腱を両足共に切り裂いた。

 「見事な太刀筋だ。ふふふ。【能力】を使わずとも相当の手練れであったか。」

 テルの実力を目の当たりにし、ユキの頬は緩む。まあ、頬を緩ませたとて逃げ惑うゴブリンを見逃すような事はしない。

 『ゴアアァァァッ!!』

 訳の分からぬうちに仲間を動けなくされ、さらに怒り狂うオーガはテルを見つけると駆け寄り金棒を振りかぶる。

 《ドッゴオオオン!!》

 大地が揺れる程の衝撃と轟音が響き渡り辺りが土煙で覆われる。オーガが叩き潰していたのは動けなくなった仲間の1体だった。ビクビクと痙攣しオーガはこと切れた。

 「テルの立ち位置は変わっていない…今のもテルがオーガを『てれぽーと』させたのか…」

 ユキは楽しくなっていた。見ていて面白い戦闘というのは過去にもある。忍びの戦闘というのは何重もの駆け引きが交わされていて見ていて面白いもの多い。だが見ていて『楽しい』戦闘というのは生まれて初めてだった。楽しいと表現するのは些か不謹慎かもしれないが本当に『次は何を見せてくれるのか』とワクワクするのである。

 残った1体のオーガはもはや半狂乱になってテルを追い回す。

 「無駄だよ。」

 フッと姿を消してはオーガの程近い場所に現れるテルにオーガは翻弄されっ放しだ。

 『ア”ア”ア”ア”ァァァァ!!』
 
 ふっと自分の前に姿を現したテルにオーガは渾身の一撃を見舞おうと金棒を振りかぶるが…

 「残念だな。」

 オーガの動きがピタリと止まる。

 「今のは…?」

 ユキにもちょっと理解出来なかったようだ。

 金棒を振りかぶったオーガの後頭部に、突然中空に出現した別のオーガが持っていた金棒が現れ、猛烈な勢い打ち出されたのだ。

 後頭部に巨大な金棒の直撃を受け昏倒する最後のオーガ。テルはゆっくりとオーガに近づき、

 「終わりだ。」

 一言呟くと、《ズバン!》と長剣を振り抜いた。

 ゴロゴロと転がるオーガの首。

 「お見事!惚れ直したぞ、テル。」

 「ああ、ありがとう。でも、今の戦闘で剣もナイフもイカれちまったみたいだ。後の事は他のパーティーに任せて少し休もうか。」

 「そうだな。この辺りを逃げ惑う小鬼共は粗方駆逐したから心配はいらないだろう。」

 「流石ユキだ。惚れ直したよ。」

 お互いに頬を染めながら並んで座る2人。ここが先程までオーガと激闘を繰り広げていた場所とは思えない桃色空間を形成している。

 

 「おーい!何があった!?大丈夫か!?……っておい!これは一体!?」

 討伐隊の面々がやって来る。ゴブリンの方は片付いたのだろうか、などとのんびりと構えていたテルとユキだが、現場を目の当たりにした討伐隊の方はそうはいかない。

 「…おい、このオーガ、お前ら2人でやったのか…?」

 討伐隊のリーダーを任されていた男が戦場を見渡して言う。黒焦げになったオーガ。頭を叩き潰されているオーガ。首を切り落とされたオーガ。

 たった2人の冒険者が、しかもCランクとEランクの2人が3体のオーガを斃したなどと普通であれば考えられる事ではない。しかも周囲を見渡せばゴブリンの死骸も散乱している。オーガによるものならばゴブリンは撲殺されている筈だ。しかしゴブリンは明らかに斬り殺されている。

 「つまりお前らは逃げ惑うゴブリンを掃討しながらオーガを3体斃したって訳か。」

 「まあ、そうなりますかね…」

 ふふ、と少しだけ笑ったリーダーの男。
 (この野郎。今までも腕利きだってんで話は聞こえて来てたがこれ程とはな。実力はAランク相当じゃねえか。面白いヤツがいたもんだ。)

 「ゴブリンだけじゃなくオーガ3体とやりあったんじゃ疲れてるだろ。お前らは休んでていいぞ。ゴブリンの討伐報酬は人数分けになるがオーガの分は俺じゃ判断がつかねえからギルマスに相談してみるよ。」

 「すみません、お願いします。」

 「よっ!お疲れさん! しかし凄いねえ。こんなに強いなんてねえ。お姉さん惚れちゃったよ。ユキちゃん、今度一緒にテルの寝込みを襲わないかい?」

 いつもテルをパーティーに誘ってくれる女冒険者のパーティーリーダーだ。

 「いや、私は初めての時は2人きりがいいな…」

 ついつい正直に暴露するユキに女冒険者の顔がぐにゃりとにやける。

 「あっらー?ユキちゃんたら。かわいいわー。大丈夫!お姉さんが色々と教えてあげるから!」

 (こらー、そこー!新人からかってねえでとっとと手伝えー!)

 遠くからリーダーの怒鳴り声が聞こえる。

 「おっと、それじゃ、またね!テル、今度一緒にご飯食べようね!」

 そう言い女冒険者は駆けて行った。

 後に国内外に響き渡るこの2人の勇名はこの日の事が始まりだった。
  
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