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予想外の大物

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 「それじゃあ行って来るよ。」

 「うん、テル君、ユキちゃん、気を付けてね?」
 「美味い飯準備しててやる。ケガしねえで帰って来い。」

 翌朝テルとユキはムスタングに跨りストラトとスタインに見送られていた。心底心配そうなストラトとぶっきらぼうだが温かいスタインの言葉。なる程、この2人が悲しむ顔は見たくない。昨日のユキの言葉を思い出すテル。

 「大丈夫さ。ちょっと本気を出してくるから。」

 その言葉の意味がわかったのか、ストラトとスタインの表情が柔らかくなる。

◇◇◇

 街の門を出たところが討伐隊のメンバーの集合場所になっていた。全部で30人程だろうか。全員テルの見知った顔だった。DランクからBランクが集まっている。

 100匹のゴブリンを討伐するだけなら過剰戦力だが…

 「みんな!傷面スカーフェイスの話じゃゴブリンは最低でも100って事だ。もしかしたら500かも知れねえし1000かも知れねえ。そこら辺を注意して、功を焦って単独で突出するような真似はすんじゃねーぞ!」

 今回の討伐隊を指揮するBランク冒険者の男だ。

 「それじゃあすまねえが先導頼むぜ。」

 「はい。じゃあ出発します。」

 冒険者達は3台の馬車に分乗してテルのムスタングの後を追走する。他にも4人組のパーティーが騎乗してきたので馬車の横を警戒しながら走る。

 「この辺りから奴らの縄張りになってます!警戒して下さい!」

 テルが後続に注意を促すと野太い声で『了解!』『OK!』などと反応してくる。

 件の廃村の手前500メートル程の地点まで来る間に2度、ゴブリンの襲撃を受けたがユキの気配察知に引っ掛かったこともあり冒険者達は万全の態勢で迎え撃つ事が出来た。

 そしてこの廃村の手前500メートル地点で馬車や馬から降りて慎重に徒歩で進む事になる。尚、馬や馬車の見張りに中堅パーティーが残る事になった。

 「なんだ?奴ら、妙に騒がしくないか?」

 「なんだ?こっちに向かって来るぞ!?迎撃用意!」

 ゴブリンの集落の様子がおかしい。まるで戦場さながらの騒がしさだった。しかも多くのゴブリンがこちらに向かって猛烈な勢いで駆けて来るのだ。

 「見つかった訳じゃ無さそうだが…」

 「ここを通す訳にもいかねえからな!」

 それぞれ冒険者がゴブリンに対応する。

 (おかしい…こいつら、俺達を見ていない?)

 「ユキ!こいつら、何かから逃げている!気を付けろ!大物がいるぞ!」

 「承知した!」

 テルの張り上げた声を聞き、ユキだけじゃなく他の冒険者にも緊張感が伝わる。

 「くっそ!こいつら逃がす訳にもいかねえし厄介だぜ!」

 「誰か後方の留守番してるヤツに伝えてこい!ギルドに戻って応援連れて来いってな!」

 「わかった!アタシたちが行くよ!すぐ戻るから持ちこたえてよね!?」

 「おう!早く行け!」

 冒険者達の怒号が飛び交う中、テルとユキは戦場と化した廃村跡を迂回して状況を探る。ゴブリン達は散り散りに逃げ惑っている為テル達の方へもやって来る。

 テルとユキは目に付いたゴブリンを手早く片付け集落の中央部を伺う。そこでテル達が目にした光景は。

 「なんだ?ゴブリンが蹂躙されている…?」

 「テル。あのデカブツがやったようだが…。あれは『鬼』か?」

 正直、テルは困惑していた。なぜここにオーガがいるのか。しかも3体だ。

 「あれはオーガだ。討伐に来た戦力じゃあ心許ない程度には強い。」

 どうするか。全員でかかれば何とかなるかも知れない。しかし生き残りのゴブリンは放置することになる。放置したゴブリンはどうなるか。また繁殖して数を増やし人間を害する存在になる。

 だがそれは自分の力を秘匿している場合だ。
 
 「見つけちまったもんは仕方ない。俺達でやるぞ。ユキ」

 「そうこなくてはな!」

 「ヤツの筋肉は鋼の鎧だ。通常の打撃斬撃は効果が薄い。狙いは関節や粘膜。それから攻撃は受けるな。全部躱せ。」

 「承知した。」

 ユキはゴブリン狩りに夢中になっているオーガ達の後方に立ち、印を結び始めた。

 『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!』

 テルはリアル忍者が今まさに忍術を使おうとしている様を見てテンション鰻上りだ。

 (おお!すげえ!ホントに印結んでやるだな!かっこいいな!)

 「火遁!火柱の舞!」

 ユキが術の名を叫ぶと《ドン!ドン!ドン!》と地面から火柱が立ち上りオーガを包み込む。付近にいたゴブリンも巻き添えだ。

 『グアアアアアアアアッ!!!』

 炎に包まれた1体のオーガが倒れ沈黙した。なんという火力か。火属性魔法にも引けを取らない威力だ。

 「ふう、ここまで威力を出すと体内の気が一気に持って行かれるな…」

 相当な精神力を使ったのだろう。ユキは滝のような汗を流している。

 (こっちに来れば魔法も忍法も大して変わりはないか。)

 テルは心の中で苦笑するが、対オーガ戦においてはユキは打ち止めだろうと判断した。

 「ユキ、すごかったな。後は俺に任せろ。ユキは逃げたゴブリンを頼む。」

 「しかし…」

 オーガの体躯を見てユキは心配するが、テルは親指を立てて言い放つ。

 「ユキが忍術の神髄を見せてくれたんだ。今度は俺の【能力】を見せてやる。それに、女の子の前じゃカッコ付けたいじゃないか。」

 何の気負いも見せずにオーガに歩み行くテルを見つめるユキの頬は桜色に染まっていた。
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