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ケンタロウの恋
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午前8時。ノックの音で目が醒める。
寝ぼけたまま起き出して、ドアを開けるとケンタロウが立っていた。昨日と同じく髪の毛が逆立っている。
「ケンタロウ、、、。今日の約束は、10時にヤング洋品店の前じゃなかった?」
「ごめんね。一宇。僕、彼女と会えると思ったら不安になって居ても立ってもいられなくって、、。」
ケンタロウはしょんぼり立ち尽くす。
「いいよ。しょんぼりするなって。入って。今から着替えるからその辺に座っててよ。」
俺は、台所で歯を磨き、寝巻き代わりのTシャツとジャージから洋服に着替える。
そりゃそうだよな。生まれて初めて同族のメスと遭遇するんだから、ナーバスにもなるよな、、。しかも、自分も相手も絶滅危惧種。相手を逃したら次に同世代の相手に巡り合える可能性はゼロに等しい。たとえ運命の彼女がブスだとしても、彼女が極悪な性格だとしても。代わりはいない、、、。
俺は、ケンタロウの運命の彼女が、最低でも、並みの容姿で、普通の性格であることを祈った。
「そう言えば、ケンタロウ。昨日、運命の彼女の居場所に心当たりがあるって言ってたよな。」
「うん。ある。」
「どこ?」
「翁饅頭の紅屋だよ。」
「お前、翁饅頭が食いたくてそんなこと言って、、、。」
「違うよ~。今の僕は、緊張で、ここに翁饅頭があっても食べられないくらいドキドキしてるんだから。」
「わかった、わかったよ。それで、なんで紅屋だって思うんだ?」
「最初に、彼女の匂いがしたのが紅屋だったし。紅屋の前では、あの酒饅頭のいい匂いに混ざって彼女のいい匂いもしてくるんだよね。」
「それに、昨日、木村さんも言ってたじゃない。僕のお気に入りの場所に出入りしているか、そこで働いているって。僕はあの言葉を聞いて、紅屋に間違いないって確信したんだよ。」
ケンタロウは自信満々だ。
「でも、お客さんかもしれないだろ、お前とおんなじで食いしん坊でさ。紅屋の翁饅頭が大好きで。あの辺うろついてるって可能性もある!」
「だったら、嬉しいな。食べ物の好みが一緒って、大事な事だからね!」
目がハートになっているケンタロウに皮肉は通じないらしい。
「まぁ。今日がダメでも、彼女が見つかるまで責任もって付き合うよ、」
「ありがとう!一宇。でも、早く会いたいなぁ。今日がダメだったら、明日会いたいなぁ。」
俺たちは、少し早めに家を出て、ゴールデン商店街に向かった。紅屋は午前9時30分開店。まだオープンまで30分ほど時間がある。俺たちは紅屋の前にある早朝から、営業している喫茶店で、紅屋を監視しながらモーニングを食べることにした。「胸がいっぱいで食べられない」と言うケンタロウに、「初めて会う彼女の前で、腹がグゥーグゥー鳴ったら恥ずかしいぞ」と説得する。ケンタロウは素直にモーニングを食べ始めた。
紅屋の店先に暖簾が掛けられる。店が開店したらしい。
ケンタロウに千円を渡し、店で何かを買って店内を偵察してくるように言った。
ケンタロウは千円を握りしめて、意を決したように店に向かう。
俺は店の外の電信柱の陰で、まるで探偵のようにそれを見ていた。
「それで、ケンタロウの彼女はどこにいるのよ。」
背後から聞き覚えのある声がする。
「カ、カヲルさん???なんでここに?」
「あら、私は、宗助ちゃんの眷属よ。宗助ちゃんの命令に決まってるじゃない。まぁ、可愛いケンタロウちゃんの彼女の顔も見たかったし。」
「えええ。宗助所長も知ってるんですか?」
「あたりまえよぉ~。ヴァンパイアに隠し事が出来ないのは、本田君も知ってるでしょ。ここんところ、ケンタロウの様子がおかしくって、宗助ちゃん心配してたのよ。だってそうでしょ、髪の毛は逆立ってモジャモジャだし、大好きなおやつも食べないで、痩せちゃうし。それで、ちょっと頭の中をのぞかせてもらったってわけ。そしたら、本田君も一枚かんでるわ、メスのライカンが見つかもしれないわで。宗助ちゃんが気にしちゃって、雇用主として社員の行動には責任があるから、見て来いってね。」
「確認したいんですが、ケンタロウの邪魔をしに来たんじゃないんですよね???」
「人聞きの悪いこと言わないでよ~。もちろん二人の恋を応援しに来たのよ。」
たしか、以前、ケンタロウにパグを紹介したって言ってたよな、カヲルさん、、、。
ケンタロウが店から紅屋の包みを抱えて出てくる。
「げっ。なんでカヲルちゃんがいるの?」
カヲルさんを見つけて、ケンタロウの顔が引きつる。
「宗助ちゃんに、隠し事なんかできないのよ。ケンタロウ!それで、どうだったの?いたの?」
「いつものおばちゃんしかいなかったよ。」
「まさか、それで諦めて翁饅頭買って出て来たんじゃないでしょうね?」
「、、、、。」
「もう、ダメねぇ。ここは私に任せなさい。」
そう言って今度は、カヲルさんが紅屋に入って行った。
カヲルさんは5分ほどで出てくる。
「分かったわよ。新しくアルバイトの若い女の子が二人入ったんだって。そのどちっかだと思う。彼女たちは10時に出勤するらしいから、ここで待っていれば、この前を通るでしょ。」
カヲルさんおそるべし、、、。
「あの~。後学のために、どうやって聞き出したのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
俺がそう聞くと、
「簡単よぉ。この前、店の前で若い女の子に財布を拾ってもらった、お礼がしたいんだけど、お宅の店に若い女の子はいますかって聞いたのよ。」
「カヲルちゃんのウソつき。」
「嘘つきって、あんたのためについた嘘じゃない。愛のある嘘ってやつよ。」
カヲルさんにはかなわない。
俺たちは3人で若いアルバイト女性が来るのを待つ。
10時10分前。若い女性が二人歩いてくる、一人は、可愛い。ぱっちりと大きな瞳。ぽっちゃり体系で軽くカールされたセミロング。バラ色のほっぺに浮かぶエクボが好印象だ、もう一人は、、、、、。まぁ、絶滅危惧種のメスなら、仕方ないか、、、。まぁ、性格は良さそうだし、アリ、、だな。
「ケンタロウ、どっちだ?」
「ケンタロウどっちなの?」
「ここからじゃ、どっちかわかんないよぉ。二人の距離が近いし、、、。」
その時、可愛いほうがふと足を止める。
彼女は、もう一人に先に店へ行くようにと言っているようだ、それなりの方が店に入る。
店の外に一人立つ彼女の鼻が2,3度ひくひくと動く。
次の瞬間、カールされたセミロングの髪が一瞬逆立つ。
彼女だ!
「彼女だケンタロウ!」「彼女よケンタロウ!」
俺とカヲルさんはケンタロウの背中を同時に押す。ケンタロウは押し出されたような格好で彼女の前に飛び出した。
「はじめまして。」
「はじめまして。」
「僕、ケンタロウです。」
「私、ハルカです。」
しばらくの間、二人はただ見つめあって立っていた。
「あの、、、。私、これからバイトがあるんです。」
「ああ、そうですよね。すみません、、、。」
「夕方の6時には終わります。」
彼女はそう言うと、髪を直して紅屋に入って行った。
「僕、6時にまた来ます、」
ケンタロウは彼女の背中に向かってそう叫んだ、
二人の恋はまだ始まったばかりだ。
寝ぼけたまま起き出して、ドアを開けるとケンタロウが立っていた。昨日と同じく髪の毛が逆立っている。
「ケンタロウ、、、。今日の約束は、10時にヤング洋品店の前じゃなかった?」
「ごめんね。一宇。僕、彼女と会えると思ったら不安になって居ても立ってもいられなくって、、。」
ケンタロウはしょんぼり立ち尽くす。
「いいよ。しょんぼりするなって。入って。今から着替えるからその辺に座っててよ。」
俺は、台所で歯を磨き、寝巻き代わりのTシャツとジャージから洋服に着替える。
そりゃそうだよな。生まれて初めて同族のメスと遭遇するんだから、ナーバスにもなるよな、、。しかも、自分も相手も絶滅危惧種。相手を逃したら次に同世代の相手に巡り合える可能性はゼロに等しい。たとえ運命の彼女がブスだとしても、彼女が極悪な性格だとしても。代わりはいない、、、。
俺は、ケンタロウの運命の彼女が、最低でも、並みの容姿で、普通の性格であることを祈った。
「そう言えば、ケンタロウ。昨日、運命の彼女の居場所に心当たりがあるって言ってたよな。」
「うん。ある。」
「どこ?」
「翁饅頭の紅屋だよ。」
「お前、翁饅頭が食いたくてそんなこと言って、、、。」
「違うよ~。今の僕は、緊張で、ここに翁饅頭があっても食べられないくらいドキドキしてるんだから。」
「わかった、わかったよ。それで、なんで紅屋だって思うんだ?」
「最初に、彼女の匂いがしたのが紅屋だったし。紅屋の前では、あの酒饅頭のいい匂いに混ざって彼女のいい匂いもしてくるんだよね。」
「それに、昨日、木村さんも言ってたじゃない。僕のお気に入りの場所に出入りしているか、そこで働いているって。僕はあの言葉を聞いて、紅屋に間違いないって確信したんだよ。」
ケンタロウは自信満々だ。
「でも、お客さんかもしれないだろ、お前とおんなじで食いしん坊でさ。紅屋の翁饅頭が大好きで。あの辺うろついてるって可能性もある!」
「だったら、嬉しいな。食べ物の好みが一緒って、大事な事だからね!」
目がハートになっているケンタロウに皮肉は通じないらしい。
「まぁ。今日がダメでも、彼女が見つかるまで責任もって付き合うよ、」
「ありがとう!一宇。でも、早く会いたいなぁ。今日がダメだったら、明日会いたいなぁ。」
俺たちは、少し早めに家を出て、ゴールデン商店街に向かった。紅屋は午前9時30分開店。まだオープンまで30分ほど時間がある。俺たちは紅屋の前にある早朝から、営業している喫茶店で、紅屋を監視しながらモーニングを食べることにした。「胸がいっぱいで食べられない」と言うケンタロウに、「初めて会う彼女の前で、腹がグゥーグゥー鳴ったら恥ずかしいぞ」と説得する。ケンタロウは素直にモーニングを食べ始めた。
紅屋の店先に暖簾が掛けられる。店が開店したらしい。
ケンタロウに千円を渡し、店で何かを買って店内を偵察してくるように言った。
ケンタロウは千円を握りしめて、意を決したように店に向かう。
俺は店の外の電信柱の陰で、まるで探偵のようにそれを見ていた。
「それで、ケンタロウの彼女はどこにいるのよ。」
背後から聞き覚えのある声がする。
「カ、カヲルさん???なんでここに?」
「あら、私は、宗助ちゃんの眷属よ。宗助ちゃんの命令に決まってるじゃない。まぁ、可愛いケンタロウちゃんの彼女の顔も見たかったし。」
「えええ。宗助所長も知ってるんですか?」
「あたりまえよぉ~。ヴァンパイアに隠し事が出来ないのは、本田君も知ってるでしょ。ここんところ、ケンタロウの様子がおかしくって、宗助ちゃん心配してたのよ。だってそうでしょ、髪の毛は逆立ってモジャモジャだし、大好きなおやつも食べないで、痩せちゃうし。それで、ちょっと頭の中をのぞかせてもらったってわけ。そしたら、本田君も一枚かんでるわ、メスのライカンが見つかもしれないわで。宗助ちゃんが気にしちゃって、雇用主として社員の行動には責任があるから、見て来いってね。」
「確認したいんですが、ケンタロウの邪魔をしに来たんじゃないんですよね???」
「人聞きの悪いこと言わないでよ~。もちろん二人の恋を応援しに来たのよ。」
たしか、以前、ケンタロウにパグを紹介したって言ってたよな、カヲルさん、、、。
ケンタロウが店から紅屋の包みを抱えて出てくる。
「げっ。なんでカヲルちゃんがいるの?」
カヲルさんを見つけて、ケンタロウの顔が引きつる。
「宗助ちゃんに、隠し事なんかできないのよ。ケンタロウ!それで、どうだったの?いたの?」
「いつものおばちゃんしかいなかったよ。」
「まさか、それで諦めて翁饅頭買って出て来たんじゃないでしょうね?」
「、、、、。」
「もう、ダメねぇ。ここは私に任せなさい。」
そう言って今度は、カヲルさんが紅屋に入って行った。
カヲルさんは5分ほどで出てくる。
「分かったわよ。新しくアルバイトの若い女の子が二人入ったんだって。そのどちっかだと思う。彼女たちは10時に出勤するらしいから、ここで待っていれば、この前を通るでしょ。」
カヲルさんおそるべし、、、。
「あの~。後学のために、どうやって聞き出したのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
俺がそう聞くと、
「簡単よぉ。この前、店の前で若い女の子に財布を拾ってもらった、お礼がしたいんだけど、お宅の店に若い女の子はいますかって聞いたのよ。」
「カヲルちゃんのウソつき。」
「嘘つきって、あんたのためについた嘘じゃない。愛のある嘘ってやつよ。」
カヲルさんにはかなわない。
俺たちは3人で若いアルバイト女性が来るのを待つ。
10時10分前。若い女性が二人歩いてくる、一人は、可愛い。ぱっちりと大きな瞳。ぽっちゃり体系で軽くカールされたセミロング。バラ色のほっぺに浮かぶエクボが好印象だ、もう一人は、、、、、。まぁ、絶滅危惧種のメスなら、仕方ないか、、、。まぁ、性格は良さそうだし、アリ、、だな。
「ケンタロウ、どっちだ?」
「ケンタロウどっちなの?」
「ここからじゃ、どっちかわかんないよぉ。二人の距離が近いし、、、。」
その時、可愛いほうがふと足を止める。
彼女は、もう一人に先に店へ行くようにと言っているようだ、それなりの方が店に入る。
店の外に一人立つ彼女の鼻が2,3度ひくひくと動く。
次の瞬間、カールされたセミロングの髪が一瞬逆立つ。
彼女だ!
「彼女だケンタロウ!」「彼女よケンタロウ!」
俺とカヲルさんはケンタロウの背中を同時に押す。ケンタロウは押し出されたような格好で彼女の前に飛び出した。
「はじめまして。」
「はじめまして。」
「僕、ケンタロウです。」
「私、ハルカです。」
しばらくの間、二人はただ見つめあって立っていた。
「あの、、、。私、これからバイトがあるんです。」
「ああ、そうですよね。すみません、、、。」
「夕方の6時には終わります。」
彼女はそう言うと、髪を直して紅屋に入って行った。
「僕、6時にまた来ます、」
ケンタロウは彼女の背中に向かってそう叫んだ、
二人の恋はまだ始まったばかりだ。
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