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護衛任務 ①

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裁判所に行った次の日の夜。司さんから我妻聡の脳内見聞報告書が届いた。
その報告書は、我妻聡が自供しなくても事の真相を知るのに十分役に立つ内容だった。

捜査では知り得なかった情報の一つに、ヴァンパイアマフィアVMのナンバー2の存在がある。
そのナンバー2は、我妻聡の友人で、VMの金庫番と呼ばれていた。だが、友人である我妻聡の脳内からも「トキオ」という本名か偽名かさえも分からない名前と、推定年齢20前後ということぐらいしか判らなかった。
トキオは、健康食品販売コスモスグループの立ち上げや、運営に関わっていただけなく、VMが犯した犯罪行為のほとんどを立案している。我妻も彼には絶大な信頼を寄せていたようだ。
彼の加入で、ただの不良ヴァンパイア集団だったVMは一気に大きな組織に成長している。

それと、パーティー潜入の情報が我妻に漏れていた真相も分かった。パンパイアポリスに勤務する若い警官が、人血欲しさに以前からヴァンパイアポリスの情報をVMに流していたらしい。その警官は、我妻が裁判所に送られたことを知り、事の発覚を恐れ逃亡したが、すぐに捕まり。今、取り調べを受けている。

残念な事に、蔵王工場で見つかった80人の供血用の若者たちについては、トキオが一人で彼らを集めたらしく、我妻の脳からその情報を得ることは出来なかった。
現在は未成年保護施設で、保護されている彼らは、体力を取り戻しだいぶ元気になったが、誰も何も語らない。彼らを診察した医師の話では、言葉を理解してない可能性もあるとのことだった。
彼らの身元を確かめ、VMの犯罪の全貌を知るためには、謎のナンバー2「トキオ」の確保が必要不可欠と思われる。

VMの財務関係を調べていた捜査官から、金庫から、かなりの金が無くなっていたと報告があった。これもトキオが持ち逃げしたのかもしれない。
我妻聡の裁判所での最後の哀れな姿が脳裏をかすめる。もし、このトキオがすべての黒幕で。我妻が彼の操り人形だったなら、、、。もし、そうだとしても、考えても仕方のないことだ。トキオを捕まえればすべてがわかるだろう。

報告書の最後のページに、幼稚園児が書いたと思われる、人の顔の落書きが添付されていた。

「この幼稚園児の落書き、なんですか?」
俺は不思議に思い隣にいたノエルに聞く。

「ははははは。一宇、マジうけるんだけど。それ落書きじゃないよ。司が描いた。トキオの顔。司ってマジ画伯だから。これじゃ見えても意味ねぇし。」

「本当にひどいな。これじゃトキオ本人が目の前にいても気が付かないんじゃない?」

「なんかね、右目の目の下にほくろが2つあるらしいよ。」
灰野が情報を付け加える。

絵を見ると、確かに目の下に、黒い点が二つ描かれている。でも、目も同じ大きさの黒い点で書かれているので、何ともみょうちくりんな具合だ。

「集まってくれ。明日、みんなに行ってほしいところがある。」
半沢主任の招集だ。

「明日の夜、勾当台公園の野外ステージで、ヴァンパイアアイドルのライブがあるんだが。そのアイドルにおかしな脅迫状が届いている。イタズラかも知れないが、、。一応、我々が警護にあたる。君たちの他に警護要員として20名の隊員も同行する。」

「ヴァンパイアアイドルって、まさか、v☆girlsじゃないですよね。俺、そのライブ行きたかったんですけど仕事で泣く泣く諦めたんですよ!」
山田さんが珍しく口を挟む。

「ああ、確かそんな名前だったな。」主任が答える。

「やったぁ。ついてるな、仕事でv☆girlsに会えるなんて。」

「山田君、遊びに行くんじゃないからな。」
高木さんが、そう釘を刺したが、山田さんのウキウキはとまらない。

v☆girlsは最近売り出し中の6人組のアイドル。ノリの良い歌とダンス。それとメンバー6人全員がヴァンパイアという異色のグループで、人気が急上昇しているらしい。
ヴァンパイアだけでなく人間にもファンが多い。

「それで、脅迫状の内容は?」

「コンサートの中止とアイドル活動をすぐにやめろという内容だった。」
詳しくはこの書類に書いてあるから各自目を通しておくように。

俺は、席に戻り書類を読み始めた。
アヤメは、書類も読まず、この前のパーティーで付いた十手の傷を気にしていた。

「一宇。これ見てよ。こことここが傷ついちゃって。」

「それを作った人も、銀は金属の中では柔らかいって言ってたから、仕方ないよ。」

「ねぇ、この傷、直せないかな?」

「修理はしてくれるって言ってたけど、お前の使い方じゃ、またすぐに傷だらけになるよ。」
俺はアヤメの十手を見る。十手には、拳銃の弾で擦れたような跡がついていた。

「俺、その傷悪くないと思うよ。なんか、戦歴の勲章みたいでカッコいいじゃん。それよりアヤメ、お前資料読まなくっていいのか?」

「ふーん。戦歴の勲章ねぇ。物は言いようね。」

アヤメは勲章と言う言葉に納得したのか、資料を読み始める。

「えええっ、なにこれ。私と一宇は、ガキのお守りじゃない。」

資料を読み始めたアヤメがすぐに不満の声を上げる。それにガキって、、、。v☆girlsのメンバーはアヤメと同じくらいの年齢だ。
確かに資料には、俺とアヤメはコンサート前からv☆girlsにぴったり張り付き、警護すると書いてあった。

「俺がその役目、替わりますよ。」
山田さんがそう言ったが、すぐに高木さんに却下される。

「お前は目立ってしょうがない、その点、刑部さんと本田君なら同世代だし、目立たないだろ。」

「そうですかねぇ。俺ならメンバーの名前や顔だけじゃなくって、趣味や好みも知ってるから役に立つと思うんだけど、、。」
山田さんは不満そうだ。

「俺たちは、付き人をしに行くんじゃないんだ。彼女たちの護衛をしに行くんだから。諦めろ。」
高木さんは、山田さんをなだめるようにそう言った。

その後、パソコンの前に座っていた山田さんから呼ばれる。彼は、パソコンでv☆girlsの公式HPを見ていた。

「本田君にお願いがあるんだけど。この子、ピンクの衣装を着てるこの子、キキちゃんって言うんだけど、彼女のサイン貰ってきてくれないか?」

「えええ、山田さん。それって、公私混同じゃ。」

「頼むよ本田君。一生のお願い。」
いつもは硬派な山田さんがすごい変わりようだ。

「約束はできませんけど。チャンスがあったら頼んでみます。」

「ありがとう、恩にきるよ。」

そこで、高木さんが事務所に入ってきたのを見つけた山田さんが慌ててパソコンの画面を切った。



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