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元治2年/慶応元年
幕間:ある日の境内(壱)
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慶応元年、5月。
年号が元治から慶応に変わって早1ヶ月。西本願寺は今日もとても平和である。
そう、とても………。
「おいこら平助!待ちやがれ!」
「やーなこった!ここまで来てみろよ!」
「てめえ!言いやがったな!そこでおとなしくしてやがれ!」
「どーこ狙ってんだよ!俺はここだぜ!」
「平助!ちょこまか動くな!男なら、正面から正々堂々と勝負しやがれ!」
「先にこそこそ仕掛けてこようとした八さんにだけは言われたくねえぜ!」
…………。
(ねえ、これって突っ込むべきなの?)
『放っておいた方が胃には優しそうだがな』
西本願寺境内の一角で洗濯物を干しつつ、私はすぐ近くで全力追いかけっこをしている永倉さんと平助君を微妙な目で眺めた。
これが新選組の二番組組長と九番組組長だっていうから驚きだよね。
ついでに永倉さんはさっきまで二日酔いで真っ青だったのに、本当にどういう体してんの?あの人。
「悪いな、雫。騒がしい奴らで」
そこへ原田さんが苦笑いしながらやってきた。とりあえず首を横に振っておいた。
(いえいえ、原田さんが謝ることじゃありませんよ。あの二人はもともと騒々しい属性なんです)
『お主もスッパリ言うな』
まあ、元気があることはいいことなのではないかと思いたい。
「今日は近藤さんが許可してくれた、羽を伸ばしていい日だから、あいつらが騒ぎたくなるのもわかるがな」
そうですね。いつもは新選組の仕事であーだこーだ駆けずり回ってるもんね。
だからこそご近所迷惑になりかけているけど目をつむっているわけで。
「んじゃ雫、仕事頑張れよ。俺はあのバカ二人を回収していくから」
はい、よろしくお願いします。
原田さんが永倉さんと平助君の首根っこをつかんでズルズル引っ張って行く光景を見送りながら引き続き洗濯物を干す作業を続けていると、今度は斎藤さんがやってきた。
「今日も精が出るな」
そう言いながら斎藤さんは近くまで来て、私も斎藤さんの言葉に頷く。
隊士たちの健康管理の一環として、私が屯所の片付けや掃除を申し出たのが2週間ほど前で、今では屯所の掃除が午前中の日課になっている。
斎藤さんは暇を見つけてはちょこちょこ掃除の手伝いをしてくれている。
「今日はこのあと、副長からの命がある。だから手伝うことはできない。すまない」
首を横に振る。むしろいつも手伝ってもらって感謝しているぐらいだ。
「では、俺はもう行く」
小さく頷き、私は笑顔で斎藤さんに手を振った。斎藤さんもいつもの無表情ではなく、うっすらと笑みを浮かべてくれた。
斎藤さんが去って行ったあとは特に誰とも会わず、洗濯物干しは順調に進んだ。
「おや、御影君。今日も頑張っているね」
ちょうど全部の洗濯物を干し終えたところで、パパ井上さんが島田さんと一緒に近くを通りかかった。
お二人はどこへ行くのか。それを身振り手振りで井上さんたちに伝える。最近、身振り手振りがちょっと上手になってきた。
「俺たちは、これから境内で稽古をするつもりでいます。それが終われば、今度は昼食の用意もあります」
島田さんが丁寧に答えてくれた。島田さんって体は大きくて存在感半端ないけど、なんだかんだで優しい人なのだ。
「何か、手伝おうかい?」
いえいえ、そんな。お二人の稽古の時間を邪魔するわけいきませんよ。ちょうど洗濯物は全部干し終えたところですし。
「そうかい?私たちはそこの広場で稽古しているから、人手が欲しかったらいつでも声をかけてね」
はい。いつもありがとうございます、井上さん。
こうして井上さんと島田さんが去って行き、私は次の仕事に向かうため寺に戻っていく。
次は、廊下の雑巾掛けかな?
年号が元治から慶応に変わって早1ヶ月。西本願寺は今日もとても平和である。
そう、とても………。
「おいこら平助!待ちやがれ!」
「やーなこった!ここまで来てみろよ!」
「てめえ!言いやがったな!そこでおとなしくしてやがれ!」
「どーこ狙ってんだよ!俺はここだぜ!」
「平助!ちょこまか動くな!男なら、正面から正々堂々と勝負しやがれ!」
「先にこそこそ仕掛けてこようとした八さんにだけは言われたくねえぜ!」
…………。
(ねえ、これって突っ込むべきなの?)
『放っておいた方が胃には優しそうだがな』
西本願寺境内の一角で洗濯物を干しつつ、私はすぐ近くで全力追いかけっこをしている永倉さんと平助君を微妙な目で眺めた。
これが新選組の二番組組長と九番組組長だっていうから驚きだよね。
ついでに永倉さんはさっきまで二日酔いで真っ青だったのに、本当にどういう体してんの?あの人。
「悪いな、雫。騒がしい奴らで」
そこへ原田さんが苦笑いしながらやってきた。とりあえず首を横に振っておいた。
(いえいえ、原田さんが謝ることじゃありませんよ。あの二人はもともと騒々しい属性なんです)
『お主もスッパリ言うな』
まあ、元気があることはいいことなのではないかと思いたい。
「今日は近藤さんが許可してくれた、羽を伸ばしていい日だから、あいつらが騒ぎたくなるのもわかるがな」
そうですね。いつもは新選組の仕事であーだこーだ駆けずり回ってるもんね。
だからこそご近所迷惑になりかけているけど目をつむっているわけで。
「んじゃ雫、仕事頑張れよ。俺はあのバカ二人を回収していくから」
はい、よろしくお願いします。
原田さんが永倉さんと平助君の首根っこをつかんでズルズル引っ張って行く光景を見送りながら引き続き洗濯物を干す作業を続けていると、今度は斎藤さんがやってきた。
「今日も精が出るな」
そう言いながら斎藤さんは近くまで来て、私も斎藤さんの言葉に頷く。
隊士たちの健康管理の一環として、私が屯所の片付けや掃除を申し出たのが2週間ほど前で、今では屯所の掃除が午前中の日課になっている。
斎藤さんは暇を見つけてはちょこちょこ掃除の手伝いをしてくれている。
「今日はこのあと、副長からの命がある。だから手伝うことはできない。すまない」
首を横に振る。むしろいつも手伝ってもらって感謝しているぐらいだ。
「では、俺はもう行く」
小さく頷き、私は笑顔で斎藤さんに手を振った。斎藤さんもいつもの無表情ではなく、うっすらと笑みを浮かべてくれた。
斎藤さんが去って行ったあとは特に誰とも会わず、洗濯物干しは順調に進んだ。
「おや、御影君。今日も頑張っているね」
ちょうど全部の洗濯物を干し終えたところで、パパ井上さんが島田さんと一緒に近くを通りかかった。
お二人はどこへ行くのか。それを身振り手振りで井上さんたちに伝える。最近、身振り手振りがちょっと上手になってきた。
「俺たちは、これから境内で稽古をするつもりでいます。それが終われば、今度は昼食の用意もあります」
島田さんが丁寧に答えてくれた。島田さんって体は大きくて存在感半端ないけど、なんだかんだで優しい人なのだ。
「何か、手伝おうかい?」
いえいえ、そんな。お二人の稽古の時間を邪魔するわけいきませんよ。ちょうど洗濯物は全部干し終えたところですし。
「そうかい?私たちはそこの広場で稽古しているから、人手が欲しかったらいつでも声をかけてね」
はい。いつもありがとうございます、井上さん。
こうして井上さんと島田さんが去って行き、私は次の仕事に向かうため寺に戻っていく。
次は、廊下の雑巾掛けかな?
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