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第3章 偽りの王
王の部屋にて1
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城の居住区の最奥にある王室。
良質の木で作られた重質な机に、壁一面を覆う本棚。
部屋の中央には客を迎えるためのソファと机がある。
過度に煌びやかな装飾は無い。
王の部屋と言うには少しばかり質素。
いやナイン大陸を統べる王としてはあまりにも何もない。
どちらかといえば教育機関の教授の部屋が近い様相であろう。
その中で執務用の机の上で頭を抱えている男がいた。
部屋の主、ローミン王である。
彼は城へ帰ってきてからというもの、ずっとこの調子である。
別に寸胴鍋をひっくり返して、そのままスープを頭から被り大やけどを負った挙句、鍋を被ったままおろおろと動き回り屋台を大破させ、その恥ずかしい姿を多くの国民に見られてしまったことを悔やんでいるのではない。
いや、それも若干あるが、今はそれではない。
静寂の部屋の中、扉をノックする音が響く。
「失礼します、ローミン様。
マッキー入室いたします。」
数秒待った後、扉がガチャリと音を立てて開く。
机の上でうなだれるローミンの姿を見て、マッキーはため息を吐いた。
「ローミン様、いつまでそうしているつもりですか。
何を聞こうにも、ひとつとして応えてくれない。
いえ、何となく想像はつきます」
かつかつとローミンに近づくマッキー。
「見つかったのでしょう、探していた者が」
ピクリと、ローミンが反応を示す。
その僅かな動揺を見て、マッキーはやはりなと頷く。
「見つかったのなら、良い事ではありませんか。
何をためらうことがあります。
この時を何百年と待ち続けたのではありませんか」
何故落ち込んでいるかまではマッキーには分からない。
しかし、彼を鼓舞することも側近の仕事。
主の命令に従うことだけが、部下の役割ではないのだ。
ローミンも、その言葉にゆっくりと顔をあげた。
「そうだな、何百年と待った。
いくら我々と言えど短い時間ではなかったな。
これを逃せば次はいつになるか分からぬ。」
「ええ、そうですローミン様。
見つかったのですよね、我々が探し続けていた者が」
ローミンは喜ぶマッキーの顔を見ながら告げた。
「ああ、見つかったよ。
レベルを持つ者、勇者システムを利用する者がな」
その言葉に現実味が増したのか、マッキーは喜びの表情を浮かべる。
だが反対にローミンは再び顔を伏せてしまった。
「ああ、見つかったよ。
だが最悪だ、ああ、最悪だよ。
まさかこんなことになるなんて、予想しなかった」
「どうされたのですか、ローミン様。
如何に勇者と言えど、今のローミン様に敵うとは・・・」
ローミンは一枚の紙をスッと、マッキーに差し出した。
マッキーは差し出された紙と、ローミンを交互に見つめると、意を決しゆっくりと紙を受け取る。
紙に書かれた内容を読むうちに、マッキーの顔を青ざめていく。
その目は何度も紙を上下に行き来し、それが間違いではないかと確認を行う。
「ロ、ローミン様、これは一体どういうことですか?
我々の知らぬ伝説の勇者でも、あの場にいたのですか!?」
「・・・いや、勇者ではない」
「そんなばかな、レベルを持つ者は、勇者とその仲間に限られるはずです。
仮に天然の勇者だとすれば、これは、、、ありえません!」
驚くマッキーの顔を見て、ローミンは力無く笑う。
「貴様は知らなかったな、あの者たちのことを。」
「あの者・・・ですか?」
「代々魔王によって厳重に秘匿されていた者たちを」
マッキーはごくりとつばを飲み込む。
「魔王城の近くに居を構える謎の集団。
そいつらがどこから来たのかは代々魔王も知らぬ。
ただ分かっていることが一つ。
彼らはみなレベルを持ち、誰もがイカれてるくらいにレベルが高い。
最果ての村人、だ。」
「最強の村人ですか・・・はは、おもしろい冗談ですね。」
「ああ、面白いよ、笑えるよ、ふふっ」
何かを思い出したようにローミンは笑みをこぼした。
「ああ、すまない、ちょっと昔のことを思い出してな。」
「昔のことですか、魔王だった頃の?」
「そうだ。
どっかの馬鹿が召喚した破壊神ハートが世界中を暴れまわり、うちの島へやってきた時にだな」
「破壊神ハートといえば、神話時代に神々を殺して回った、世界を滅ぼしかねないやつじゃないですか。
あ、確かに破壊神が暴れまわった、そんな伝承がありましたね。
召喚が不完全だったとかで、三日間暴れまわったあとに消えたとか・・・。
え、最果ての島にやってきたんですか?」
「不幸にもな。
全長20mを超えるようなやつだ、足元が見えてなかったのだろう。
うっかり村人の畑を踏みつぶしてしまってな。
10分後には破壊神が潰されてしまっていたよ、くくくっ」
「・・・え?
破壊神ですよ、神ですよ?
地上の者が太刀打ちできないからこそ、神なのですよね。」
「あいつらに常識は通用せん。
この世で唯一、手を出してはいけない相手だよ」
マッキーが知る中で、圧倒的強者であるローミンの弱気な発言を聞き、信じられない様子で再び紙に書かれた、馬鹿げたステータスを読んだ。
「・・・ははは」
そりゃ、ローミンも頭を抱えるはずだと、納得するマッキーであった。
============================
現・魔王になるまで村の存在は秘匿されてました。
魔王軍は城の外に用はないし、
秘密にするのは比較的簡単でした。
ただ、村人が買い出しのために、
勝手に転移装置を利用していたので、
魔王城七不思議が出来たとかなんとか。
良質の木で作られた重質な机に、壁一面を覆う本棚。
部屋の中央には客を迎えるためのソファと机がある。
過度に煌びやかな装飾は無い。
王の部屋と言うには少しばかり質素。
いやナイン大陸を統べる王としてはあまりにも何もない。
どちらかといえば教育機関の教授の部屋が近い様相であろう。
その中で執務用の机の上で頭を抱えている男がいた。
部屋の主、ローミン王である。
彼は城へ帰ってきてからというもの、ずっとこの調子である。
別に寸胴鍋をひっくり返して、そのままスープを頭から被り大やけどを負った挙句、鍋を被ったままおろおろと動き回り屋台を大破させ、その恥ずかしい姿を多くの国民に見られてしまったことを悔やんでいるのではない。
いや、それも若干あるが、今はそれではない。
静寂の部屋の中、扉をノックする音が響く。
「失礼します、ローミン様。
マッキー入室いたします。」
数秒待った後、扉がガチャリと音を立てて開く。
机の上でうなだれるローミンの姿を見て、マッキーはため息を吐いた。
「ローミン様、いつまでそうしているつもりですか。
何を聞こうにも、ひとつとして応えてくれない。
いえ、何となく想像はつきます」
かつかつとローミンに近づくマッキー。
「見つかったのでしょう、探していた者が」
ピクリと、ローミンが反応を示す。
その僅かな動揺を見て、マッキーはやはりなと頷く。
「見つかったのなら、良い事ではありませんか。
何をためらうことがあります。
この時を何百年と待ち続けたのではありませんか」
何故落ち込んでいるかまではマッキーには分からない。
しかし、彼を鼓舞することも側近の仕事。
主の命令に従うことだけが、部下の役割ではないのだ。
ローミンも、その言葉にゆっくりと顔をあげた。
「そうだな、何百年と待った。
いくら我々と言えど短い時間ではなかったな。
これを逃せば次はいつになるか分からぬ。」
「ええ、そうですローミン様。
見つかったのですよね、我々が探し続けていた者が」
ローミンは喜ぶマッキーの顔を見ながら告げた。
「ああ、見つかったよ。
レベルを持つ者、勇者システムを利用する者がな」
その言葉に現実味が増したのか、マッキーは喜びの表情を浮かべる。
だが反対にローミンは再び顔を伏せてしまった。
「ああ、見つかったよ。
だが最悪だ、ああ、最悪だよ。
まさかこんなことになるなんて、予想しなかった」
「どうされたのですか、ローミン様。
如何に勇者と言えど、今のローミン様に敵うとは・・・」
ローミンは一枚の紙をスッと、マッキーに差し出した。
マッキーは差し出された紙と、ローミンを交互に見つめると、意を決しゆっくりと紙を受け取る。
紙に書かれた内容を読むうちに、マッキーの顔を青ざめていく。
その目は何度も紙を上下に行き来し、それが間違いではないかと確認を行う。
「ロ、ローミン様、これは一体どういうことですか?
我々の知らぬ伝説の勇者でも、あの場にいたのですか!?」
「・・・いや、勇者ではない」
「そんなばかな、レベルを持つ者は、勇者とその仲間に限られるはずです。
仮に天然の勇者だとすれば、これは、、、ありえません!」
驚くマッキーの顔を見て、ローミンは力無く笑う。
「貴様は知らなかったな、あの者たちのことを。」
「あの者・・・ですか?」
「代々魔王によって厳重に秘匿されていた者たちを」
マッキーはごくりとつばを飲み込む。
「魔王城の近くに居を構える謎の集団。
そいつらがどこから来たのかは代々魔王も知らぬ。
ただ分かっていることが一つ。
彼らはみなレベルを持ち、誰もがイカれてるくらいにレベルが高い。
最果ての村人、だ。」
「最強の村人ですか・・・はは、おもしろい冗談ですね。」
「ああ、面白いよ、笑えるよ、ふふっ」
何かを思い出したようにローミンは笑みをこぼした。
「ああ、すまない、ちょっと昔のことを思い出してな。」
「昔のことですか、魔王だった頃の?」
「そうだ。
どっかの馬鹿が召喚した破壊神ハートが世界中を暴れまわり、うちの島へやってきた時にだな」
「破壊神ハートといえば、神話時代に神々を殺して回った、世界を滅ぼしかねないやつじゃないですか。
あ、確かに破壊神が暴れまわった、そんな伝承がありましたね。
召喚が不完全だったとかで、三日間暴れまわったあとに消えたとか・・・。
え、最果ての島にやってきたんですか?」
「不幸にもな。
全長20mを超えるようなやつだ、足元が見えてなかったのだろう。
うっかり村人の畑を踏みつぶしてしまってな。
10分後には破壊神が潰されてしまっていたよ、くくくっ」
「・・・え?
破壊神ですよ、神ですよ?
地上の者が太刀打ちできないからこそ、神なのですよね。」
「あいつらに常識は通用せん。
この世で唯一、手を出してはいけない相手だよ」
マッキーが知る中で、圧倒的強者であるローミンの弱気な発言を聞き、信じられない様子で再び紙に書かれた、馬鹿げたステータスを読んだ。
「・・・ははは」
そりゃ、ローミンも頭を抱えるはずだと、納得するマッキーであった。
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現・魔王になるまで村の存在は秘匿されてました。
魔王軍は城の外に用はないし、
秘密にするのは比較的簡単でした。
ただ、村人が買い出しのために、
勝手に転移装置を利用していたので、
魔王城七不思議が出来たとかなんとか。
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