おいでよ、最果ての村!

星野大輔

文字の大きさ
上 下
102 / 168
第3章 偽りの王

王の部屋にて2

しおりを挟む

「それで、ローミン様。
 これがその村人ということは分かりました。
 しかし、そんな連中がどうして最果ての島で、力を誇示することなく暮らしているのでしょうか」
「それは誰にも分からない。
 いやまあ連中のことだ、単に興味がないのだろう」
「あれだけの力を持ちながらですか?」
「だからこそなのかもな。
 自分の庭で蟻が勢力争いしてたとしても気にならぬであろう」
「私らが蟻・・・ですか」
「別にそう思ってはおらぬとしても、心境としては近いのだろう。
 蟻に力を誇示する者がどこにいる。
 この世の出来事に、やつらは興味を示さない。
 それこそ普通の村人のように、自らの村で人生を過ごす。
 下手に棒で突っつかなければ人畜無害な連中だ。
 だから、ノーマークであったのだが・・・」

ローミンは魔王で在ったころのことを思い出す。
彼も一度村に乗りこんだことがあった。

歴代魔王のあるある事件。

彼の時は、日向ぼっこをしていた老人に、ぷるぷると震えた杖で撃退された。

「俺も魔王を止め、何百年もの時を重ね、あの時とは比べ物にならない位強くなった」
「ええ、統合魔法による他者の能力の取りこみ。
 今では26の魔法を操る歴代最強の魔王様です。」
「貴様の目から見てどう思う。
 俺はこいつに勝てると思うか」

ローミンの問にロッキーは目を瞑り考えた。
ここでおべっかを言っても仕方がない。

「そのまま戦えば難しいでしょう。
 しかし状況を整え、ローミン様が最大限の力を発揮出来れば、もしかしたら」

鑑定の魔法は、自分自身にかけることが出来ないため、ローミンの力の数値化が図れない。

「お前は避けるべきだと思うか?」
「・・・先ほども申し上げましたが、好機であるかと。
 確かにこれを見た後では躊躇いたくもなります。
 しかし、この者を取りこむことが出来れば、どれだけの力になることでしょう」
「ここにきての大博打か」
「この者の勇者システムを取りこみ、レベルを上げることが可能となれば、最早ローミン様を止めることが出来るものなどいないでしょう。」

ローミンの目的。
何百年と待ち続けた、勇者システムを持つ者。
彼らだけが持つレベルという概念。
魔物を倒す度に圧倒的な力を得る、神に祝福されしシステム。
それ故勇者は魔王を倒し得るのだ。

もし魔王がこの力を得たとしたら。

この世界のシステムに疑問を持ったローミンは魔王を止め、一芝居うち表舞台から姿を消した。
それは魔王は必ず勇者に滅ぼされるという忌まわしきシステムから脱却するため。

人に姿を変え、国を統治し、大陸を制覇した。
ここまで力を蓄えた彼に訪れた、最大の難関。

「くくく、神はまだ俺に試練を与えるか。
 良かろうその試練乗り越えてやろうではないか!!」



しおりを挟む

処理中です...