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(4)弘樹の美少女マスク体験!

姫タイツ!

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 俺がつま先を入れたのは「アイリス製作所」が製造している人肌に近い色をした全身タイツだった。この肌色の全身タイツ(肌タイ)はユーザーの間では「姫タイツ」とよばれているアイテムだった。

 着ぐるみマスクのキャラクターを演じるレイヤーの多くが着用するものに肌タイがある。これは着ぐるみマスクと同じ肌色にするためでもあるが、あんまり大きな声で言えないし確証もないことであるが、美少女着ぐるみの内臓を演じる者に男が多いからだ。

 だから男が女性キャラになるために、やはり女性らしい肌にならないといけないという事で肌タイは必需品というわけだ。

 特に「姫タイツ」は着用した際の感触も良いし、どんなにガサツな男の肌であっても女性特有の質感を再現していると評判の代物であった。
 そのかわり、価格も高価でドンキーあたりで売っている中国製の安物よりも一桁高く、俺が買おうとしたら徹夜の工事現場のバイトを二晩しないといけない金額であった。そんな肌タイを俺はいきなり着用させてくれるから、本当にいいのかと思ってしまった。

 でも、そんな想いとは別に肌タイを腰まで上げたところで俺の下半身は女の子のようになっていた。俺は男にしては華奢な体形で、高校の文化祭の女装子コンテストに無理やりエントリーさせられ優勝してしまったほどだ。もっとも、それなりに可愛いと評判の志桜里と雰囲気が似ていたからかもしれなかったが。

 「すいません、腰まで着ましたよ!」
 俺が相川さんを呼ぶと別の作業をしていた彼が入ってきた。

 「それじゃあ着てもらうね。取りあえずもじもじ君状態になって!」

 俺は言われるままに手袋の部分に腕を入れマスクを被ると相川さんに背中のファスナーをあげてもらった。俺の身体は顔の部分を除き少女の身体のようになった。

 「この姫タイツ、やっぱり評判通り気持ち良いですね! レイヤーさんが憧れるはずですね!」

 「あれ? 君って肌タイ着るの初めてて聞いていたけど、うちの姫タイツの事を知っているんだね。それにしても、君の体形ってなかなかのもんだね。これなら一流の女装子にもなれそうだ。
 そういうことで、とりあえず真里亜の服を着てくれたまえ」

 俺は相川さんから籠に入った女子高生の制服一式を渡された。それは先日のコミックフェスで志桜里が演じる基美の隣にいた真里亜が着ていたものだった。洗濯してあるとはいっても純女子が着ていた制服を渡され、少し動揺していた俺だった。
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