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ヘイトクライム(憎悪犯罪)の親玉 ①

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あの誕生日パーティーの後、赤目と俺の間にささやかな変化が起こった。

一つ目は、赤目が俺を「一宇」と名前で呼び出したこと。もともと、変わった名前のせいか、周りから「一宇」と呼ばれることが多かったので、それは、気にならなかった。
むしろ、困っているのは赤目が自分を「類」と呼ぶよう強制してしてくることだ。これはなかなか厄介で、俺が「赤目」と呼ぼうものなら、ほっぺたを膨らませて俺のところまでやって来て「類!」と訂正していく。早く自然に「類」と呼べるよう目下奮闘中だ。

もう一つは、類が急速に「俺化」を始めたことだ。
先日、ヴァンパイアポリスに1台の原付バイクがふらふらと入って来た。運転していたのは類で、俺を見つけ、バイクのまま突っこんで来た。危うく轢かれるところだったが、その前に類にこけたので大事にはいたらなかったが、、、。
「一宇!見てよ!今日は。まだ小さいバイクだけどさ。頑張って、一宇と同じ大きなバイクに乗るんだ!」
と満面の笑顔で言っていた。

それと突然、常盤さんが「本田さんはどちらでお洋服を買われているんですか?」と聞いてきた。俺は何も考えず、ゴールデン商店街のヤング洋品店だと告げたが、それがまずかった、、、。
翌日類は、俺のところに顔を真っ赤にしてやって来て「あの、クソばばぁ」から始まり考えつく限りの罵詈雑言を並べ立てヤング洋品店のお姉さんを罵った。最後の方は悔しさのあまり泣いていたように思う。話をまとめると、ヤング洋品店に洋服を買いに行ったのに、お姉さんに相手にされず1枚の服も売ってもらえなかったらしい、、、、。

俺は類がすこし気の毒になった。                                   
「類。お前ん家、金持ちなんだから、洋服なんかどこでも買えるじゃん。なにも、わざわざヤング洋品店で買わなくったって、、、。」
「いやだ、、、、。一宇と同じお店で買った服が着たい。」

( 、、、、、、、、。 )

もはや打つ手がない。
「わかったよ、今度一緒にヤング洋品店に行ってやるよ。」
「ほんと?」
類の顔が一瞬で笑顔に変わる。
弟が居たらこんな感じなのかもしれない。彼が面倒な奴なのは以前と一緒なのに、、。最近では類が可愛く思える。



出勤の準備をしていると、テレビのニュースが耳に入って来た。ヴァンパイアとかかわりを持つようになって、テレビから「ヴァンパイア」という言葉が聞こえてくると敏感に耳が察知するようになっている。

「残念な事件がまた起きてしまいましたね。」
ワイドショー番組の女性MCが暗い顔で伝えているのは、人間によるヴァンパイアに対する強盗事件だった。若者3人が市販のヴァンパイア撃退グッズを使ってヴァンパイアを襲撃し金品を奪ったらしい。
まったく気分が悪い。俺は乱暴にテレビを消した。

世間では、日本の警察がヴァンパイアに対する犯罪に弱腰で、ヴァンパイアに対して行われた犯罪は罪が軽いというような噂まで流れていている。それが、対ヴァンパイア犯罪の増加につながっていると言うものまでいるくらいだ。

ヴァンパイア政府の秦平助首相は、再三にわたり日本政府に改善要求を申し入れているが、その対応は遅く、全く進んでいないような状態だった。
こんな状況に、ヴァンパイア市民の不満も高まっていて、ヴァンパイア政府も次の手を模索中だとヴァンパイア市民からは噂されている。

また戦争か、、?

祖母の安芸が望んだ社会には、まだ道半ばなのかもしれない。

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