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放浪島編
白狼
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バキバキバキッ……!!
「ぐあぁっ……!!」
ドォオンッ!!
無数の枝をへし折り、レノの身体は雪で覆われた地面に墜落する。幸いというべきか、枝と雪が落下の衝撃を抑えてくれたが、それでも肋骨の何本かは罅か骨折をしたようであり、起き上がろうとした瞬間に激痛が走る。いったい何が起きたのかと上を見上げると、
「グエェエエエエッ!!」
視界に茶色の体毛の巨体が降りかかってくる姿が映り、咄嗟にその場から転がって離れると、
ズドォオンッ!!
先ほどまでレノが居た場所に鋭い爪と強靭な足が突き刺さり、見ると1匹の「グリフォン」が血走った眼でこちらを見つめていた。
「クエエッ……グェエエエエエッ!!」
「くっ……」
明らかに敵意を抱きながら、地面から四本足を引き抜き、翼をはためかせてレノの方に再度足を振り落そうとし、
「嵐弾!!」
ズドォオオオッ!!
今度はレノが至近距離から嵐の弾丸を当てるが、グリフォンの身体に触れた瞬間に弾け、周囲に試算してしまう。
「ギィェエエエエエエエッ!!」
「なっ……がふっ!?」
そのままグリフォンは何事も無いように彼の身体に後脚で叩き込み、レノは遥か後方の樹木にまで飛ばされる。
ドオオンッ!!
「げふぅっ……!!」
背中に樹木が強打し、為す術もなくそのまま地面に倒れこむ。もう、身体は動かない。
「クエッ……クエェエエ……」
一方でグリフォンがゆっくりと近づき、レノが死んだと確信したのか、口元から涎を流しながら、大きく口を開けて――
――ウォオオオオオオオオンッ……!!
びくっ、とグリフォンはその遠方からの「咆哮」を聞いた瞬間、辺りに視線をやり、慌てた様子で翼をはためかせて、
「クエェッ……!!」
バサッ……バサッ……!!
大きく跳躍し、そのまま上空へと逃げ帰る。レノはその姿を首だけ動かして見送ると、すぐに先ほどの「狼」の声がした方向に顔を向ける。視線を向けると歪んだ視界に一匹の「白い狼」がこちらに向かって歩いているが視界に入り、よくよく確認すると普通の狼とは比べ物にならない巨体だった。
(白い狼……?)
白い毛並みに獰猛な牙、赤い瞳に象にも匹敵する巨体、外見は狼で間違いないがどこか神々しさえも感じさせる。
――グルルルッ……!!
レノ前にそれは立つと、雪に血を滲ませて倒れこむ彼に鼻を近づけ、すんすんと臭いを嗅ぐ。ここで眼の前の狼に喰われると悟ったレノは、覚悟を決めて瞼を閉じると、
――グルルルッ……
荒い鼻息が聞こえ、足音が通り過ぎる音が聞こえてくる。不審に思い、瞼を開けると、そこには巨大な「白狼」がゆっくりと立ち去る姿が見えた。
(……助かったのか……?)
何故、自分が喰われなかったのかと疑問に思うが、すぐにその理由が判明した。白狼はある程度の距離まで離れると、一度だけレノの方に振り返り、
――フンッ……!
荒い鼻息をあげ、まるで興味を無くしたように立ち去っていく姿に、
(ああ、そういうことか……)
自分が助かった理由――それは、あの巨狼にとって自分は「敵」ではなく、ましてや「獲物」ですらない。ただの「グリフォン」の食い残し程度の存在だと判断されたのだろう。野生の動物にプライドなどがあるのかは知らないが、少なくともあの白狼にとってはレノは食うに値しない存在らしい。
お蔭でレノは一命を取り留めたのだが、同時に彼は目元を滲ませていた。
(……またか……)
喰われなかったことに戦士としてプライドが傷つけられた、などという悔し涙ではない。自分がまたも何も出来なかったことの後悔だった。
いつも自分は土壇場に陥ると、何もできずにそのまま流されるがままに行動を起こさない。ダークエルフの時も、エルフの集落の時も、先ほどの巨狼にしても、自分は抵抗を諦めてそのまま死を受け入れようとする。
死ぬ覚悟が出来た、というのは言い返せば抵抗することを放棄したという事。つまり、「死」という楽な道を選んだに過ぎない。あれほどダークエルフに復讐すると誓ったり、バルたちとの再会を望んだにも拘らず、いざ危機的状況に陥ると何もせずに諦めてしまう。そんな自分に嫌気がさした。
(死にたくない……死ねない……)
こうして危機を去った以上、自分は「生きる」ことから逃げられない。ならば、答えは簡単だった。
(無様でも……惨めでも……格好悪くても……生きよう、生き抜いてやる)
レノは身体中の激痛に耐えながら、何とか渾身の力を引き出して起き上がると、近くの樹木に背もたれしながら座り込む。先ほどのように樹木から優しい暖かみと、魔力を提供され、しばらくの間は休むことにした。
(強くなろう……強くなりたい)
この世界に着てから随分と経つが、未だに自分は何一つとして目標を成し遂げていない。バルたちとの再会も、ダークエルフに復讐することも、この島から脱出する糸口を掴む事も、どれもまだ果たしていない。
(まずは自分の身を守ることからか……)
レノが「現実世界」にいたときに見かけた漫画やアニメなどの主人公は、自分以外の人間を守ることに全力を掛けていた。だが、今の自分には他人にかまける余裕などない。まずは自分自身を守れる「力」を身に付けない限り、何も成し遂げることは出来ない。
「強くなってやる……」
真っ白な空を見上げながら、レノはこの世界に来て初めて、自分が生きていると強く実感した――
「ぐあぁっ……!!」
ドォオンッ!!
無数の枝をへし折り、レノの身体は雪で覆われた地面に墜落する。幸いというべきか、枝と雪が落下の衝撃を抑えてくれたが、それでも肋骨の何本かは罅か骨折をしたようであり、起き上がろうとした瞬間に激痛が走る。いったい何が起きたのかと上を見上げると、
「グエェエエエエッ!!」
視界に茶色の体毛の巨体が降りかかってくる姿が映り、咄嗟にその場から転がって離れると、
ズドォオンッ!!
先ほどまでレノが居た場所に鋭い爪と強靭な足が突き刺さり、見ると1匹の「グリフォン」が血走った眼でこちらを見つめていた。
「クエエッ……グェエエエエエッ!!」
「くっ……」
明らかに敵意を抱きながら、地面から四本足を引き抜き、翼をはためかせてレノの方に再度足を振り落そうとし、
「嵐弾!!」
ズドォオオオッ!!
今度はレノが至近距離から嵐の弾丸を当てるが、グリフォンの身体に触れた瞬間に弾け、周囲に試算してしまう。
「ギィェエエエエエエエッ!!」
「なっ……がふっ!?」
そのままグリフォンは何事も無いように彼の身体に後脚で叩き込み、レノは遥か後方の樹木にまで飛ばされる。
ドオオンッ!!
「げふぅっ……!!」
背中に樹木が強打し、為す術もなくそのまま地面に倒れこむ。もう、身体は動かない。
「クエッ……クエェエエ……」
一方でグリフォンがゆっくりと近づき、レノが死んだと確信したのか、口元から涎を流しながら、大きく口を開けて――
――ウォオオオオオオオオンッ……!!
びくっ、とグリフォンはその遠方からの「咆哮」を聞いた瞬間、辺りに視線をやり、慌てた様子で翼をはためかせて、
「クエェッ……!!」
バサッ……バサッ……!!
大きく跳躍し、そのまま上空へと逃げ帰る。レノはその姿を首だけ動かして見送ると、すぐに先ほどの「狼」の声がした方向に顔を向ける。視線を向けると歪んだ視界に一匹の「白い狼」がこちらに向かって歩いているが視界に入り、よくよく確認すると普通の狼とは比べ物にならない巨体だった。
(白い狼……?)
白い毛並みに獰猛な牙、赤い瞳に象にも匹敵する巨体、外見は狼で間違いないがどこか神々しさえも感じさせる。
――グルルルッ……!!
レノ前にそれは立つと、雪に血を滲ませて倒れこむ彼に鼻を近づけ、すんすんと臭いを嗅ぐ。ここで眼の前の狼に喰われると悟ったレノは、覚悟を決めて瞼を閉じると、
――グルルルッ……
荒い鼻息が聞こえ、足音が通り過ぎる音が聞こえてくる。不審に思い、瞼を開けると、そこには巨大な「白狼」がゆっくりと立ち去る姿が見えた。
(……助かったのか……?)
何故、自分が喰われなかったのかと疑問に思うが、すぐにその理由が判明した。白狼はある程度の距離まで離れると、一度だけレノの方に振り返り、
――フンッ……!
荒い鼻息をあげ、まるで興味を無くしたように立ち去っていく姿に、
(ああ、そういうことか……)
自分が助かった理由――それは、あの巨狼にとって自分は「敵」ではなく、ましてや「獲物」ですらない。ただの「グリフォン」の食い残し程度の存在だと判断されたのだろう。野生の動物にプライドなどがあるのかは知らないが、少なくともあの白狼にとってはレノは食うに値しない存在らしい。
お蔭でレノは一命を取り留めたのだが、同時に彼は目元を滲ませていた。
(……またか……)
喰われなかったことに戦士としてプライドが傷つけられた、などという悔し涙ではない。自分がまたも何も出来なかったことの後悔だった。
いつも自分は土壇場に陥ると、何もできずにそのまま流されるがままに行動を起こさない。ダークエルフの時も、エルフの集落の時も、先ほどの巨狼にしても、自分は抵抗を諦めてそのまま死を受け入れようとする。
死ぬ覚悟が出来た、というのは言い返せば抵抗することを放棄したという事。つまり、「死」という楽な道を選んだに過ぎない。あれほどダークエルフに復讐すると誓ったり、バルたちとの再会を望んだにも拘らず、いざ危機的状況に陥ると何もせずに諦めてしまう。そんな自分に嫌気がさした。
(死にたくない……死ねない……)
こうして危機を去った以上、自分は「生きる」ことから逃げられない。ならば、答えは簡単だった。
(無様でも……惨めでも……格好悪くても……生きよう、生き抜いてやる)
レノは身体中の激痛に耐えながら、何とか渾身の力を引き出して起き上がると、近くの樹木に背もたれしながら座り込む。先ほどのように樹木から優しい暖かみと、魔力を提供され、しばらくの間は休むことにした。
(強くなろう……強くなりたい)
この世界に着てから随分と経つが、未だに自分は何一つとして目標を成し遂げていない。バルたちとの再会も、ダークエルフに復讐することも、この島から脱出する糸口を掴む事も、どれもまだ果たしていない。
(まずは自分の身を守ることからか……)
レノが「現実世界」にいたときに見かけた漫画やアニメなどの主人公は、自分以外の人間を守ることに全力を掛けていた。だが、今の自分には他人にかまける余裕などない。まずは自分自身を守れる「力」を身に付けない限り、何も成し遂げることは出来ない。
「強くなってやる……」
真っ白な空を見上げながら、レノはこの世界に来て初めて、自分が生きていると強く実感した――
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