おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ちーちゃんの実力2

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「ほう、これはまた大物が出てきたな」

魔王は愉快げに笑みを浮かべた。
森のあちらこちらでは現在進行系で魔物が発生している。
その中でも一際存在感をはなつのが、巨大肉食魔獣ガンガウルズ。

巨大な肉体は勿論、鋼のような体はいかなる攻撃も通さない。
性格は一言に尽きる。凶暴と。

目の前に生物がいれば、全て喰い殺す。
それ故、彼らは見つけ次第国が軍を挙げて討伐することが定例とされていた。

「あれがガンガウルズですか、私ははじめてみました。
 なかなか凶暴そうですね。
 しかし、ケルベロスを従えるような者が相手では、いささか役不足では・・・」
「承知しておる、しかしやつを満足させる魔物なんぞ、それこそ神話レベルでしか存在せん。
 だからこそ、せめて数だけは用意してやらんとな」




ちーちゃんは未だ荷台の中で船を漕いでいた。
どしん、どしんと近づく足音に気づいていない。
ケロちゃんは勿論気づいていたが、脅威と感じていないのかちーちゃんと一緒に寝ていた。
ガンガウルズは真っ赤に裂けた大きな口を開き、容赦なく荷台を一口に噛み砕く。

その衝撃で勢い良く外へ放りだされたちーちゃんはようやく目を覚ます。

「あれ、なんで森のなかにいるのかな?」

周囲を見回し自分の置かれている状況を確認した。
一面覆う木々は、ここが森だということを示している。
そして目の前で大声をあげている魔獣。
その声に導かれるようにして続々と集まってくる魔物たち。

普通の者であれば、絶望のあまり声をあげることすら出来ないだろう。
当たり前だ。
普通の魔物ですら一般人では生きて逃げ延びるのは困難。
それが多量となればもはや絶望。
そこに軍団殺しと名高いガンガウルズが加われば、それは生存不可能。

一般人であればの話ではあるが。

「ねぇ、恐竜さん、ここはどこなのかな?」
「GYAOOOOOOOOOO!!」

ちーちゃんの問いかけにガンガウルズは雄叫びを挙げて威嚇する。

「GYAOO,GYA,GYA!!」

前傾姿勢で真っ赤な口を大きく広げる。
ガンガウルズはそのままちーちゃんを飲み込もうと、口を勢い良く閉じる。

しかし口が閉じられることはなかった。
ちーちゃんがガンガウルズの口が塞がるのを片手で止めていた。

「もう、質問しているっていうのに。
 今は遊んでいる場合じゃないの!!」

ちーちゃんの拳が、ガンガウルズの鼻先に勢い良くめり込む。

多くの剣士たちのツルギを散々へし折ってきた自慢の皮膚はいとも簡単に砕け散り、数え切れないほどの獲物を屠ってきた自慢の牙はバキバキにへし折れた。
そしてその巨体は重力を感じさせることない程のスピードで、森の奥へと飛んで消えていった。
その光景を見て、他の魔物たちは一瞬怯んだが、すぐに気を取り直しちーちゃんへと襲いかかった。

「だから遊んでる場合じゃないんだってばーー」

ちーちゃんが困ったようにして、腕を振るう。
その度に一匹、また一匹と森の奥へと消えていった。

ケロちゃんはと言えば、次々と襲い掛かってくる魔物に対して、相手の実力も測れないのかと呆れたようにして欠伸をした。



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