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武田家の逆襲と織田家の停滞
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永禄十三年(1570年)三月 伊勢国 桑名城
源太郎は桑名城の自室で、伊賀崎道順からの報告を受けていた。部屋の中には道順の他に大宮大之丞景連、大嶋新左衛門、大河内教通、芝山小次郎秀時、竹中半兵衛重治、明智十兵衛光秀、島左近清興、榊原小平太具政、本多弥八郎正信、正重兄弟、渡辺半蔵守綱、本多平八郎忠勝、蒲生忠三郎氏郷、神戸小南が集まっていた。
集まったメンバーの中に三河者が多いのにも理由があった。
「やはり腐っても鯛ですな。今の徳川家単独では耐える事は無理でしょう」
道順の言葉に弥八郎や平八郎達三河出身者達の顔が曇る。
話は、織田、徳川、北畠の連合軍に一度打ち破られた武田家が織田と徳川に再び牙を剥いたのだ。
武田家は馬場春信をはじめとする多くの重臣が討ち死にするに至り、その力を大きく落としていたが。それでも流石は武田家という事か、信玄は弱っているが在命、息子の勝頼を旗頭に軍団の再興をはたした。
道順からの報告では、織田家の岩村城と徳川家の浜松城を同時に攻める。前回の焼き直しのような作戦だが、今回は北畠家は播磨や淡路方面作戦で忙しい。三河出身者の顔色が良くないのも仕方のない事かもしれない。
「どちらにしても岩村城はまだしも、浜松城を武田家に取られるのは不味いだろうな」
源太郎の言葉にその場の全員が頷く。
浜松城を武田家が支配すると、北畠家も安穏としていられない。
弥八郎や平八郎達は、別の意味で複雑な気分なのだろう。離れたとはいえ、嘗て仕えた家が存亡の危機なのだから。
「岩村城への援軍は現実的ではありませんね」
半兵衛(竹中重治)が織田家へは援軍を送らない方針を支持する。
「そうですな。岩村城へは織田領内を進軍するしか方法がありませんからな」
十兵衛(明智光秀)も岩村城への援軍は否定的だ。それも当然だろう。岩村城への道のりは、そのほとんどが織田領を進軍する必要があるのだから。
「浜松城への援軍は、徳川殿からの要請があれば問題ないと思われます。ただ、我等が主戦になるのも差し障りがあります」
弥八郎(本多正信)が極めて冷静に言う。
北畠家と徳川家は現在、非常にゆるい協力関係だ。ここで余り北畠家が出しゃ張ると、徳川家との関係にヒビが入る。徳川家はあくまで独立勢力なのだから。
「それで武田軍はどの程度の規模になりそうなんだ」
武田軍の全容を源太郎が道順に聞く。
「おそらく前回の三方ヶ原での戦さと同程度は動員されると思われます」
それを聞いて源太郎も考え込む。
「随分と無理したようだな」
「お屋形様、播磨の小寺家へは私が参りましょう」
十兵衛が播磨方面を任せて欲しいと願いでできた。
「山名と赤松を頼めるか?」
「姫路を拠点に、対毛利の下準備をしておきます」
源太郎達が西へ向かう事を決めた時、その前に立ちはだかるのが西国の雄毛利家だった。
強力な水軍を要し資金力もある。ただ毛利元就の寿命がもう無い事を源太郎達は知っている。そこで二年程をかけて準備をする積りだった。
「織田殿と徳川殿に東を抑えて貰わねば、安心して西へ向かう事出来ませんからな」
半兵衛も武田が思いの外大軍で攻めよせそうな報告を受けて顔をしかめている。徳川家では武田家を抑えられない事は分かっている。
「おそらく進軍は田植え後からになるでしょう」
「道順と小南は武田の動向を注視してくれ。
十兵衛には左近と小次郎が補佐してくれ。
忠三郎(蒲生氏郷)、これを初陣とせよ。小平太(榊原具政)は忠三郎が暴走せぬよう補佐してくれ。
浜松城は籠城戦なら堕ちることは無いと思うがな。
徳川殿から援軍要請があった場合、大之丞を大将に、大嶋半蔵(渡辺守綱)、三弥(本田正重)、平八郎(本多忠勝)で行ってくれるか?」
「「「「御意!!」」」」
「浜松城へは水軍も動かして迅速に対応する準備だけはして置いてくれ。
それでは各々準備に掛かってくれ」
評定が終えると、それぞれが自分のするべき事をする為に部屋を出て行く。
「浜松城か……、北畠家で治めれば楽なんだがな」
三河出身者の前では言いづらかった言葉を、一人部屋に残った源太郎が呟いた。
源太郎は桑名城の自室で、伊賀崎道順からの報告を受けていた。部屋の中には道順の他に大宮大之丞景連、大嶋新左衛門、大河内教通、芝山小次郎秀時、竹中半兵衛重治、明智十兵衛光秀、島左近清興、榊原小平太具政、本多弥八郎正信、正重兄弟、渡辺半蔵守綱、本多平八郎忠勝、蒲生忠三郎氏郷、神戸小南が集まっていた。
集まったメンバーの中に三河者が多いのにも理由があった。
「やはり腐っても鯛ですな。今の徳川家単独では耐える事は無理でしょう」
道順の言葉に弥八郎や平八郎達三河出身者達の顔が曇る。
話は、織田、徳川、北畠の連合軍に一度打ち破られた武田家が織田と徳川に再び牙を剥いたのだ。
武田家は馬場春信をはじめとする多くの重臣が討ち死にするに至り、その力を大きく落としていたが。それでも流石は武田家という事か、信玄は弱っているが在命、息子の勝頼を旗頭に軍団の再興をはたした。
道順からの報告では、織田家の岩村城と徳川家の浜松城を同時に攻める。前回の焼き直しのような作戦だが、今回は北畠家は播磨や淡路方面作戦で忙しい。三河出身者の顔色が良くないのも仕方のない事かもしれない。
「どちらにしても岩村城はまだしも、浜松城を武田家に取られるのは不味いだろうな」
源太郎の言葉にその場の全員が頷く。
浜松城を武田家が支配すると、北畠家も安穏としていられない。
弥八郎や平八郎達は、別の意味で複雑な気分なのだろう。離れたとはいえ、嘗て仕えた家が存亡の危機なのだから。
「岩村城への援軍は現実的ではありませんね」
半兵衛(竹中重治)が織田家へは援軍を送らない方針を支持する。
「そうですな。岩村城へは織田領内を進軍するしか方法がありませんからな」
十兵衛(明智光秀)も岩村城への援軍は否定的だ。それも当然だろう。岩村城への道のりは、そのほとんどが織田領を進軍する必要があるのだから。
「浜松城への援軍は、徳川殿からの要請があれば問題ないと思われます。ただ、我等が主戦になるのも差し障りがあります」
弥八郎(本多正信)が極めて冷静に言う。
北畠家と徳川家は現在、非常にゆるい協力関係だ。ここで余り北畠家が出しゃ張ると、徳川家との関係にヒビが入る。徳川家はあくまで独立勢力なのだから。
「それで武田軍はどの程度の規模になりそうなんだ」
武田軍の全容を源太郎が道順に聞く。
「おそらく前回の三方ヶ原での戦さと同程度は動員されると思われます」
それを聞いて源太郎も考え込む。
「随分と無理したようだな」
「お屋形様、播磨の小寺家へは私が参りましょう」
十兵衛が播磨方面を任せて欲しいと願いでできた。
「山名と赤松を頼めるか?」
「姫路を拠点に、対毛利の下準備をしておきます」
源太郎達が西へ向かう事を決めた時、その前に立ちはだかるのが西国の雄毛利家だった。
強力な水軍を要し資金力もある。ただ毛利元就の寿命がもう無い事を源太郎達は知っている。そこで二年程をかけて準備をする積りだった。
「織田殿と徳川殿に東を抑えて貰わねば、安心して西へ向かう事出来ませんからな」
半兵衛も武田が思いの外大軍で攻めよせそうな報告を受けて顔をしかめている。徳川家では武田家を抑えられない事は分かっている。
「おそらく進軍は田植え後からになるでしょう」
「道順と小南は武田の動向を注視してくれ。
十兵衛には左近と小次郎が補佐してくれ。
忠三郎(蒲生氏郷)、これを初陣とせよ。小平太(榊原具政)は忠三郎が暴走せぬよう補佐してくれ。
浜松城は籠城戦なら堕ちることは無いと思うがな。
徳川殿から援軍要請があった場合、大之丞を大将に、大嶋半蔵(渡辺守綱)、三弥(本田正重)、平八郎(本多忠勝)で行ってくれるか?」
「「「「御意!!」」」」
「浜松城へは水軍も動かして迅速に対応する準備だけはして置いてくれ。
それでは各々準備に掛かってくれ」
評定が終えると、それぞれが自分のするべき事をする為に部屋を出て行く。
「浜松城か……、北畠家で治めれば楽なんだがな」
三河出身者の前では言いづらかった言葉を、一人部屋に残った源太郎が呟いた。
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