種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

地下闘技場

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偶然にも再会したポチ子に対し、ソフィアは彼女の前で笑みを浮かべ、


「くっくっくっ……ほら、欲しいならワンと鳴きなさい」
「わ、わぅんっ……欲しいです。その熱くてて大きいのが……」


彼女の前で赤く、太い棒状の物を差し出し、ポチ子はごくりと喉を鳴らす。


「そかそか……ならば遠慮なく喰らうといい!!」
「あむっ!?んんっ……こ、こんなに太いのお口に入りませんよぉ……!?」
「……何をしてるんだ、何を」
「餌付け」


2人のやり取りを呆れ気味に「リノン」が反応し、ソフィアはポチ子の口元に「フランクフルト」を思わせる櫛が刺しこまれた肉の塊を押し込む。少しずつ口に含みながら、ゆっくりと味わうように食べるポチ子の頭を撫でながら、ポチ子が全て食べ終わるまで待つ。


「わふぅっ……美味しいですけど、この間はどうしたんですか?急にいなくなって心配しました」
「うん、まあ……色々と遭ってね」
「全く……あの後は大変だたんだぞ?皆で消えた君を探してたんだからな」
「ごめんね。今度からは一言告げてから消えるよ」
「いや、無事だったんなら良かったが………」


ベンチに座り込み、ポチ子を膝に乗せて可愛がると、リノンが隣に座り込む。現在、彼女たちは仕事を終えて都市を観光中らしい。リノンがここに着てからそれなりの日数を経っているらしいが、どうにも騎士団の仕事が忙しく、それにやたらとこの都市は広いために色々な名所を観光する暇がなかったらしい。

今回はやっと丸1日休日が取れたらしく、夜までは自由にできるとの事。ポチ子はこの都市の案内役を買って出てくれたらしい。


「お坊ちゃんは居ないの?」
「ああ……アルトは騎士団の訓練の指導中だ。それに「剣乱武闘」には彼も参加するからな。私も出たかったが……」
「へえっ……」


一国の王子が大陸一の武道大会とは言え、道楽的な意味合いもある催し物に参加するのは意外だった。漫画やアニメではよくありがちな事だが、普通に考えれば王族の人間(しかも第一位後継者)が命の危険性もある大会に参加させるはずがない。

自分の実力を見せつけるのにはいい機会だが、下手に一回戦で負けたりしたら大恥をかく。それ相応の実力と自信が無ければ出場自体は王国側が許さないだろう。


「君は知らないだろうが、あの後に広場で「鮮血のジャンヌ」を相手に宣戦布告紛いの事を発言してな……大会で彼女に勝つために猛訓練中なんだ」
「ふぅんっ……」


ジャンヌの実力は垣間見たが、肝心のアルトについては良く分からない。3年前の実力は知っているが、現在はどれほど成長したのかが気になる所だ。魔物の「活性化」のせいで数多くの魔物達と戦闘経験があるのは間違いないだろう。

ポチ子の獣耳をもふもふとしながら、ソフィアはある事を思い出し、2人に「魔石」についての話を聞きだすことにした。


「ねえポチ子……ちゃんとリノン君、魔石を埋め込めば自分に存在しない属性の魔法が扱えるっていう話知ってる?」
「……く~んっ……何処かで聞いたことありますよ。確か、巫女姫様が教えてくれたような」
「何っ!?ぽ、ポチ子?君は巫女姫様と話をする間柄なのか!?それとどうしてソフィアは私を君付けしたんだ!?」
「え、あっ、はい?ポチ子は一応は巫女姫様の護衛ですから」
「そ、そうか……そんな関係だったのか」


リノンの驚き様から、どうやら彼女はポチ子がただの巫女姫の護衛部隊に努めているだけで、彼女と直接的な関わりは無いと思っていたらしい。まあ、聖導教会の最高権威(形式上は)である「巫女姫」が、ただの護衛兵と会話するなど誰も想像できないだろう。最も、ヨウカの場合はポチ子を護衛というよりは「ペット」感覚のように可愛がっているのだろうが。


「巫女姫様の話だと、聖導教会が聖遺物を保管している「宝物庫」に特別な魔石があるそうです。詳しいことは分かりませんけど、その魔石を使えば一般の方でも所持していない属性の魔法を扱えることは可能です」
「へえ……聖遺物の宝物庫か……」


元盗賊としては興味を抱くが、今の時点で重要なのは聖導教会の「魔石」がそれほどまでに厳重に保管されているのでは「聖属性」の魔法を使うために「宝物庫」に保管されいてる「魔石」を要求しても通らないだろう。

幾ら巫女姫ことヨウカと面識があっても、流石に厳重に管理されている魔石を渡してくれるとは思えない。聖属性の魔石が手に入らない以上、このミキから渡された短剣を媒介にした魔法剣は使用できない。だが、それでも魔法を遮る効果のある短剣には変わりは無いく、これからも便利な武器として使用すればいいだけなのだが。


「……そう言えばソフィア、君の言っていた酒場に立ち寄ったが……まだ開店前の準備は終わっていないようだが……」
「え、ああ……剣乱武闘が始まるまでには開店する予定だけど……」
「その、随分と悠長だな……今が最も稼ぎ時ではないか?」


確かにリノンの言う通り、「剣乱武闘」の開催地という理由で現在日増しに大勢の観光客が訪れている。商売する側としては最も稼ぎ時だろうが、生憎と酒場の開店には酒の類が些か心許ない。バルも近日中には今までの稼ぎを全て使い果たしてでも用意すると言っていたが、それでも開店には時間がかかりそうだ。

もう少し、ある程度の金銭が手に入ればより良い酒類の輸入が出来るらしいが、生憎と盗賊として稼いだ金銭の方が心許ない。一応は商人として成功した「バルル」の力も得られたが、彼の方もこの「闘人都市」で商売を行っているため、それほどの協力は求められない。稼ぎ時はバルルも一緒なのだ。


「手っ取り早くお金を稼げる方法が無いかなぁ……」
「全く……君はその年で何を言ってるんだ。真面目に汗水を流して働くことに意味があるんだぞ?」
「うちの場合は開店してないから汗水を流す暇もないけどね」


女部下たちは開店前の荷物の持ち運びで忙しいが、ソフィアはあくまでもバルの客人のため、それほどこき使われることは無い。暇があれば手伝いを行うが、アイリィから頼まれた件もあるため、情報集中のために酒場に滞在する時間は少ない。

出来れば彼女たちのために何とかしてあげたいが、今のソフィアには金目の物は持ち合わせていない。ミキから頂いた「短剣」や「銀の鎖」なら売る所に売れば相当な高額になるはずだが、流石に売却するわけには行かない。


「全く……それほど言うのなら、地下の闘技場にでも参加したらどうだ?」
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