種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

暴走

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『オォオオオオオオッ!!』


レノを仕留めるのは諦めたのか、甲冑は両手でカラドボルグの柄を握り締める。刀身には鞘の類は存在しないが、代わりに黒い布で覆われており、先ほどの黒衣の剣士が纏っていた衣と同じ素材だろう。


ズボォッ!!


甲冑は腰から「カラドボルグ」を引き抜くと両手で構え、今度は刀身の布に手を伸ばす。


(まずいっ……)


直感で危険を悟り、甲冑の騎士の動きを止めるためにレノは傍に落ちている刃が半分に欠けた大剣を引き抜き、瞬時に「雷」の魔力付与を行う。


バチィイイイッ!!


アイリィと違い、レノの方が魔力を付与するのが断然早く、しかも通常の「雷」ではなく、ゴウとの戦闘で得た紫の雷、全ての雷属性の中でも最速と言われる「紫電」を纏わせる。白狼には避けられたが、あの鈍重な甲冑が躱せる可能性は低く、レノは全力で大剣を振り上げ、


「吹き飛べ!!」


ズドォオオオンッ!!


大剣は刀身に紫の雷を迸らせながら投擲され、一筋の雷光へと変わり果てる。


ドゴォオオオンッ!!


『グォオオオッ……!?』


今まさに聖剣の布を引き取ろうとした途端、レノが放った大剣が右腕に突き刺さる。鎧に触れた瞬間に「紫電」はかき消されたが、その勢いまで殺すことは不可能である。

折れていた割にはそれなりの硬度を持っていたのか、右腕のガントレットに刃が深く食い込んでおり、普通ならば中に入っている人間の腕を斬り落としても可笑しくはない。だが、甲冑の騎士は右腕に突き刺さった折れた大剣の刃を見ると、すぐに左手でカラドボルグを握りしめたまま、


『フンッ!!』


ブオッ――!!


右腕を大きく振り落とし、その勢いで大剣をガントレットから引きはがす。その際に鉄甲部分が大きく損傷し、中身が露出するが、


「……やっぱり」


ガントレットの隙間の間から見えるのは、やはり「空洞」だった。どういう原理かは不明だが、この甲冑の中身は誰も、正確に言えば「何も」入っていない。

まるで騎士の姿を模した甲冑事態が意思を持っているように自分自身で動いている感じだ。レノは某RPGの鎧型の魔物を連想させるが、この世界にも実在したのかとアイリィに視線を向けると、


「……あれは死人の一種です。実体がありませんから、鎧を八つ裂きにでもしない限り、永遠に動き続けますよ。一般的には亡霊騎士やデュラハンとも呼ばれていますね」
「また死人か……」


この迷宮内に入ってから、既に3人の死人と遭遇している。そして目の前のを含めれば4人目。色々と疑問はあるが、今は損傷した右腕で再び聖剣に手を伸ばす甲冑を止めなければならない。生半可な攻撃では致命傷を与えられないが、接近して攻撃を仕掛けようにも重力波が邪魔をしてどうにもならない。遠距離から武具を投擲する以外に方法を考えなければいけないが、決め手が思いつかない。


「仕方有りませんね……力ずくで行きますよ」


アイリィは「雷」の聖痕を発動させ、小規模ながらに甲冑の頭上に「黒雲」を作り上げ、もう一度雷を発生させようとするが、


『ジャマヲスルナァッ!!』


――ズズゥウウンッ!!


甲冑の騎士が大きく足を踏みつけると同時に周囲の地面が円形に陥没し、凄まじい重力が放たれ続ける。


「このっ!」


ブゥンッ!!


レノは先ほどのアイリィのように、甲冑の騎士の頭上に向けて傍に刺しこまれた長剣を投擲するが、


ドゴォオオオンッ!!


何の魔力を付与されていない長剣は重力によって一瞬で地面に落下し、見当違いの方向に突き刺さる。それだけでは済まず、凄まじい重力に刀身は屈折し、柄は罅割れ、数秒ほどで粉々に砕け散った。

円形型に展開された重力に触れただけ武具は地面に陥没してしまう光景に対し、これでは先ほどアイリィが仕掛けた重力を計算に入れて相手に武器を的中させることも難しい。範囲内に入っただけであらゆるものが地面に降下するほどの強すぎる重力なのだ。

下手に接近すれば一瞬で肉塊となるのは間違いなく、。幾ら肉体強化(アクセル)で肉体そのものを強めようが耐えきれるレベルでは無い。

だが、重力場の中心に居る甲冑は何事も無いように重力を展開したまま聖剣の布を取り外しに掛かる。どうやらあの甲冑には自分が作り出した重力の影響を受け無いようだ。自分で作り出した魔法は自分の肉体を傷つけることは出来ない法則だが、それはあくまでも肉体限定であり、自分が纏っている衣服や鎧までは対象外のはずだが、重力を受けている様子はない。よくよく考えれば、あの甲冑は魔法を無効化する能力を持っていた事が関係しているかもしれない。


「魔法殺しの異名を持つ「黒鋼鉱」で作られた鎧です。魔法の類は効きませんよ」
「解説している暇があるなら打開策を教えてよ」
「すいませんね……こっちも考えてるんですけど」


既にアイリィが頭上に作り出した黒雲も甲冑の騎士が作り出した重力によって引き寄せられ、既に地面に墜落して消散している。このままでは打つ手はないが、どうにかしなければこちらに勝ち目は無い。

この重力ではどんな魔法も押し潰されてしまうが、1つだけレノはある手段を思いつく。だが、その方法をためそうにも大量の水を必要とすし、この場所ではそのような物は存在しない。


「アイリィ、水の魔法は使える?」
「水……?ああ、なるほど、そう言う事ですか」


彼女はレノの意図に気が付き、すぐに笑みを浮かべると、胸の谷間から「青色」の種子を取りだす――
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